J2町田、FWアデミウソン獲得の経緯を原靖FDが語る…負傷離脱のFWエリキも後押し
J2町田は5日、横浜FM、G大阪でプレーした経験を持つFWアデミウソンの完全移籍加入を発表した。8月末で中国・武漢を退団していたが、加入が発表されたこの日から練習に合流。原靖フットボールダイレクターが取材に応じ、10試合を残すシーズン終盤でのJ1昇格、J2優勝に向けたラストピース獲得に至る経緯を明かした。
クラブの悲願を達成すべく、緊急補強に動いた。8月19日の清水戦で、今季18ゴールをマークしていたFWエリキが左膝を負傷。前十字じん帯断裂など全治8か月の見込みで、ブラジルで手術を受けるために23日に日本を離れた。間違いなく首位を走る町田を支えてきた大黒柱だった。同日夜、原氏と黒田剛監督で話をしたという。
「藤尾(翔太)選手や平河(悠)選手、デューク選手もいるし大丈夫じゃないか、今いる選手を信じて戦った方がいいのではないかと。十分(現有戦力で)できるんじゃないのって意見も内部にもちろんありましたし、ただ(当時)残り13試合あって、このまま最後までいくのは甘いかなという考えもあった。(シーズン)ラストで上がってくるチームもあるので、そういう点を考えても、監督をサポートする意味でも隙がないくらいやっておかないと。後でやっておけば良かったって思わないように」
熟慮の末、選手獲得に動く。しかし、Jリーグの移籍期間は8月18日までで、ウインドーが閉じた後での痛い主力離脱だった。この時点で獲得可能なのは育成型期限付き移籍が可能な選手か、フリーの選手。その中で、残る試合数を考えても「適応の早さ」を重視した。以前から調査対象としていた中国などのアジア圏内だけでなく、欧州へも目を向ければ選択肢は広がったが、「日本で経験があるフリーの選手」をターゲットに。アデミウソンは元々、今季開幕前のオフにもエリキと並んでリストアップされていた選手だったという。
武漢を退団後、他の海外クラブもアデミウソン獲得に向けて動いていたとされる。ただ、アデミウソンは20年限りでG大阪を離れた後も、「日本でプレーすることを模索していた」と語ったように、Jリーグでのプレーを強く望んでいた。追加登録、契約上の問題もないことがわかると、「うちにもチャンスがあるのでは」とすかさず打診。当初は、「正直J2だったこともあって、ピンとはきていなかったと思います。町田ってどこだ? みたいな感じ」と原氏は振り返った。難航と思われたが、ここで動いたのが、ブラジルで治療に励むエリキだった。
「世代別代表で9番、10番をつけた間柄で、『僕が話をする』と人肌脱いでくれたんですよ。ゴリゴリに話してくれたみたいで、(アデミウソンが)いいチームなんだというふうに思ってくれた。その上でコンセプトを話した」と明かす原氏。実際にアデミウソンも、「エリキからコンタクトがあって、町田が素晴らしい環境でサッカーをしていること、チームのいい雰囲気、スポンサーの支援について聞いた。ここでプレーしたいと強く思うようになった」と実感を込める。
加入にあたり、言及を避けられない問題もある。20年限りでG大阪を契約解除となったのは、飲酒運転及び当て逃げを起こしたことが原因。アデミウソンは「人生であってはいけない問題を起こしてしまった。後悔している」と改めて謝罪の言葉を口にしている中、クラブ側も覚悟の上で獲得を決断した。
「その問題があることは当然わかっていて、(藤田晋)社長にも話をした。僕自身は更正というかプレーするチャンスを与えないっていうのもどうかなと。彼も反省して中国でやっていて、もう一度日本のファンの前でプレーを見せたいと思っていると。もちろんずっと避けて通ることはできますけど、29歳、一般の社会からするとまだまだ若い。本人とも『この約束を破ったら次はないぞ』とよく話はして。いろんな人が関わってここにいることは強く伝えた。クラブも監督も承知で獲得しました」
武漢ではシーズン終盤にかけて出場機会が減り、公式戦出場は7月が最後。試合勘の不安要素も現場は承知だ。武漢で監督を務める高畠勉氏が黒田監督の大体大時代の先輩、さらに両クラブのフィジカルコーチ同士も偶然にも先輩後輩の関係。アデミウソンの起用法やコンディション面は「現場同士で密に連絡を取ってくれている」といい、ここでも”縁”が獲得への動きを強めた。シーズン終盤での爆発を、信じている。
計6シーズンで通算154試合42得点をマークしたFWが3年ぶりのJリーグ復帰。実力は言うまでもない。原氏は「僕もJ1の時見ていたけど、モノは違う。一度は過ちがあったけど、人間性はしっかりしている。サッカーのプレーもそうだけど、それ以外の部分でもよくやってくれれば。エリキも『サッカーに集中しろ』と言ったみたいなので、あとは頑張ってもらうだけ。いろんな人が関わってくれているので、J2優勝で終わりたいですね」と期待を寄せた。日本で再出発を図る点取り屋を新たな力に、「J1昇格J2優勝」に向けて町田は走り続ける。(小口 瑞乃)