なぜ湘南ベルマーレはJ1で生き残れるのか? 今季の降格枠は「1」。正念場迎えた残留争いの行方
今季も残すところあと9試合となったJ1リーグ。2024年から2チーム増の20チーム編成となるため、今季の降格枠は「1」。第25節終了時点で最下位は湘南ベルマーレ。17位・柏レイソルを勝点3差で追う苦しい戦いを強いられている。直近2戦は2連敗。それでも湘南はまだまだここからだと感じさせる理由をひも解く。
3クラブに絞られてきた残留争い。ただし最下位・湘南は…
J1リーグは残り9試合、優勝争いとともに背筋が凍る思いをするのが残留争いだ。今季は来シーズン、J1を20チームにするため、降格枠はわずか1つ。現状(第25節終了時点)の順位と勝点を確認してみると、以下の通りとなる。
15位 アルビレックス新潟 勝点28
16位 横浜FC 勝点21
17位 柏レイソル 勝点20
18位 湘南ベルマーレ 勝点17
15位の新潟と16位の横浜FCとは勝点7差に離れていることから、現状、残留争いは横浜FC、柏レイソル、湘南ベルマーレ、この3クラブに絞られてきた。
一方、ここ数年のデータを見ると、残留争いになると湘南は無類の強さを見せている。2018年から2022年までの5シーズンの戦績を振り返りたい。
2018年 13位 勝点41
2019年 16位 勝点36
2020年 18位 勝点27(※コロナウイルス感染拡大により、J2降格はなし)
2021年 16位 勝点37(前年の措置からこの年、2チーム増の20チームで争われ、4チームが自動降格)
2022年 12位 勝点41
特に印象的だったのが2018年と2019年。2018年は順位こそ13位だが、同じ勝点41に5チームが並び、得失点差でプレーオフを逃れた。また自動降格となった17位の柏とは勝点差2だった。2019年は8月に曺貴裁監督のパワハラ疑惑問題が明るみとなり監督交代。さらに10月には台風の接近で練習場が冠水。毎日のように近隣のグラウンドを転々としなければならないなど、外的要因に大きく左右された。それでも、徳島ヴォルティスとのJ1参入プレーオフ決定戦を粘り強い戦いを見せて1-1とその座を譲らず残留を果たした。
2021年は、前年のJ2降格なし措置のため20チームで争われ、4チームが自動降格する厳しい状況のなか、17位徳島と勝点差1ときわどいところで残留を決めている。
「最後の最後、立ち戻れるものがあるチームだからこそ残留できている」
ここまで湘南がしぶとくJ1に生き残れるのはなぜか?
このぶしつけで、直球の質問を選手たちにぶつけると、皆「難しい……」とつぶやきながら、腕を組み、考え始める。
「最終的には……」と口を開いた山田直輝(在籍通算8年目)はこう語った。
「1年間通して、どれだけ普段の練習をちゃんとできたかどうか。どれだけチームに芯が、幹があるのか。最後の最後、立ち戻れるものがあるチームだからこそギリギリのところで残留できている。最後は選手がチームのために戦えるか。湘南の選手は湘南が好きで、湘南のためにと思える選手がいること。これだと思う。また最後の最後にひと踏ん張りできる経験というか……そうした自信はある」
また、「あいまいな表現だけど……」と前置きした岡本拓也(期限付き移籍を含め在籍8年目)は、「(毎年残留できている要因は)湘南が湘南であることを忘れずに最後まで戦えているから。それを自分たちで崩してはいけないし、忘れちゃいけない」と語った。
舘幸希(在籍4年目)は、「信じられるものがあることは大きい。できない試合ももちろんあるが、それができれば上位相手にも勝てる。そのなかで上にいくために積み上げようとすることが、時にうまくいかないときもある。原点というか、湘南のコンセプトがあれば十分戦える。毎年、(残留争いに)巻き込まれながらも最後のほうで勝てる試合が多くなっていることが大きい」と要因を語った。
チャレンジすることの意義と、難しさ
立ち戻れるもの。迷ったら還れる原点があること。これが大きな要因。たしかにそうかもしれない。湘南といえば、90分絶え間ない運動量を担保に球際激しく、ボールを奪い、素早く前に攻め込む、いわゆる“湘南スタイル”がある。
振り返ると、今季の序盤戦を考えれば、現在、最下位にいることに驚きと疑問符を抱かざるを得ない。ここ数年、1-0、2-1など堅守で競り勝ち、あるいは引き分けながら勝点を積み重ねたものの、その堅守に報いる得点力、決定力が慢性的な課題だった。
しかし、今季はどうだろう。開幕戦でサガン鳥栖を相手にした5-1を皮切りに、第6節・ガンバ大阪戦は4-1。面白いように点が取れた。泥臭い守備が武器なだけでなく、複数得点を奪うという理想的な勝利があった。だが4月末から5月の頭、大型連休あたりから、攻守の歯車がおかしくなっていく。
得点力がついたため、攻撃に出すぎてしまうのか、肝心の守備が崩壊。毎試合2失点はザラで、第18節では開幕戦では快勝した鳥栖に6失点。続く浦和レッズ戦、横浜F・マリノス戦と2試合連続4失点と失点数が増大。いままでできていたこと、できたはずのことができなくなっていき、ズルズル順位が下がっていった。
そこに確固たるスタイルを持ったチームならではの難しさがある。毎年、残留争いから脱皮すべく、昨季、クラブはリーグ5位以内を目標に掲げた。これはクラブが取り組む意識改革の現れの一つ。舘はチャレンジすることの意義と、難しさを率直に語る。
「もっと自分たちがボールを握っていこうとチャンレンジしてきた。そこがうまくいかなくて苦しい時期はある。シンプルにボールを握ることを捨てれば失点は減るかもしれないけれど、そこにチャレンジしなければ、上にはいけない。そうした難しさはある」
危惧すべきは「残留争い」の経験が裏目に出ること
湘南はこれまで、一つのシーズンが終われば、さまざまな理由で選手が10人出ては、翌年新しい選手が10人入るという状況で、継続したチームづくりはできなかった。せっかく1年かけて構築したスタイルは、翌年またイチからやり直しとなっていた。そのなかで、今季は大きな主力選手の入れ替えは少なく、継続路線を選択。熟成したチームづくりができるはずだったが、そううまくはいかなかった。
この状況を改善すべく、7月下旬の中断期間中、湘南は4日間にわたる合宿を敢行。守備の再構築に時間を割いた。さらにその間、鹿島アントラーズからDFキム・ミンテ、清水エスパルスからFWディサロ燦シルヴァーノを獲得し、ベルギー・KVコルトレイクから期限付き移籍していたMF田中聡が復帰。前線・中盤・最終ラインのセンターラインの補強にも成功した。
すると、第22節・サンフレッチェ広島戦で今季初の完封勝利。明るい兆しが見えたが、続く、第23節・アルビレックス新潟戦で2点先行しながら終盤に追いつかれ、2-2の引き分け。第24節・ガンバ大阪戦では、終了間際の大橋祐紀のゴールで一矢報いたものの、1-2で敗戦。
そして迎えた前節、中2日の浦和戦に0-1で惜敗。それなりにチャンスはつくれただけに、少なくとも引き分けに持ち込めたはずの惜しい試合だった。
決して状況は楽観視できない。
石原広教(在籍通算6年目)は、「危機感がないといえば嘘であり、負けて自信を失いがちだが、跳ね返すだけの力はある。これは勝てないなという試合は少ない。本当に紙一重。入るか入らないか。決まるか決まらないかの紙一重。残留どうこうではなく、次の相手との試合がどうなのかが大事。残留争いに慣れているとは別に思っていない。この順位にはいてはいけないと強く思っている」と上を目指す気持ちに変わりはない。
ここで危惧すべきは「残留争い」の経験が裏目に出ること。
一度でも残留争いの経験した選手は「もう二度としたくない」と口をそろえるほど、ひりつき、ピリつく。この経験は同じ状況で生かされるものだが、悪い意味で慣れてしまう場合がある。
湘南の状況と必ずしも合致しないが、残留争いにまつわる話を現在は指導者となっている元選手から聞いたことがある。
その選手が当時所属してチームには戦術と哲学を持った監督、そして計算できる戦力となる経験豊富な選手が十分にそろっていた。にもかかわらず、残留争いに巻き込まれ、リーグは残り5試合に差し掛かっていた。
そのとき、選手たちはメディアに対しては「次の試合は絶対に落とせない」と言いながらも、チーム内は「あと2つ勝てば大丈夫でしょ」と楽観したムードに包まれた。その後、大事な試合を落としても、「次、連勝すればいいじゃん」とタカをくくっていたという。しかし、その次のゲームも落とし残留の二文字が現実的になると、帰りのバスで皆、来年の身の振り方を考えていたという、悲しい話がある。
「自分たちに目を向ける」山口智監督が問い続けてきた姿勢
「まだ大丈夫」は勇気を与える言葉にもなれば、現実を見ないごまかしの言葉にもなる。
「そうした油断というよりも……」と話し始めた大野和成(在籍通算8年目)は地に足を着けた見解をこう話した。
「悪いときにはなにをしてダメというか、なにをどうしたらいいのかわからなくなってしまう。でも湘南はこれができたから勝てた、これができたから負けたというものがほかのチームよりはある。油断というものより、信じられるものをやるか、やらないかにある」
自分たちに目を向ける、この姿勢は山口智監督が問い続けてきたこと。山口監督はこう説明する。
「当たり前のことを当たり前にサッカーの本質をつきながらやるのが僕の考え方。湘南らしさというのがどういうことなのかわからないが……前からボールを奪う、泥臭く守る、ハードワークというのは間違いなく、うちの強み。(負けが続いて)自信がなくなったというより、やるべきことをおろそかになってしまったという言い方が正しい」
あくまで目指すサッカーを愚直にいかに全員で表現できるか。ここにブレはない。
加えて前述に「湘南の選手は湘南が好きで、湘南のためにと思える選手がいる」という山田直輝の言葉に重みを感じるとともに、大野和成は「一つになることは大事だが、一つになるだけでは勝てない」とその難しさも語っている。
残りリーグは9試合。鹿島、セレッソ大阪、ヴィッセル神戸、名古屋グランパスと上位対戦。そして、第33節は横浜FCとの直接対戦が待っている。
剣が峰に立たされた湘南ベルマーレ。信じるサッカーでJ1残留を勝ちとることができるか。 <了>