過酷なJ1残留争い 尻に火が付いている3チームのサバイバルを水沼貴史が考察
Jリーグ後半戦は、J1残留争いからも目が離せなくなっている。前節は下位3チームがそろって勝利。それぞれの戦力アップの状況と、ここから注目ポイントを水沼貴史氏に解説してもらった。
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【下位3チームの熾烈な争い】
優勝争いだけでなく、残留争いも毎年のように熾烈なのがJリーグだ。ただ、例年と異なるのは、降格枠が自動降格の最下位の1枠のみとなっている点。とにかく最下位だけは避ければいいということで、終盤には守り倒して勝ち点1でも取れればいいといった戦いになってくるだろう。
下位グループでは、12位のガンバ大阪は序盤戦で大苦戦したが、ここへ来て直近で7勝1分とかなり好調だ。逆に13位の北海道コンサドーレ札幌は調子を落としてやや困惑気味に見える。アルビレックス新潟は昇格組とは思えないほど良いサッカーをしているが、エースの伊藤涼太郎(シント=トロイデン/ベルギー)が抜けた穴を今後どう埋めるかだろう。
京都サンガF.C.も奮闘はしているが、この夏場とリーグ中盤以降のいろんなプレッシャーがかかってくる状態でどう踏ん張れるか。横浜FCはシステムを変えたことで、生き返るきっかけをつかんだように見える。
柏レイソルは監督交代でブーストがかかるはずだったのが、リーグではうまく結果が出ずに苦戦している。湘南ベルマーレは失点数が多くなってきて、勝ち点を積み上げづらくなったところをこの夏に補強し、守備の立て直しに取り組めた。
G大阪、札幌はまだ余裕があって、新潟と京都がやや危ない。やはり残留争いの中心となるのは、勝ち点2差のなかにいる横浜FC、柏、湘南の下位3クラブになってくるだろう。
【攻守で準備が整ってきている柏】
柏は5月にネルシーニョ監督から井原正巳監督に交代し、上昇のきっかけとしたかったが、天皇杯では勝っていたもののリーグではまったく勝てなかった。先日の第22節京都戦でようやく1勝目を挙げることができた。
この中断期間に浦和レッズから犬飼智也を獲得して、守備にかなりテコ入れをしたと聞いている。その甲斐もあって天皇杯ラウンド16の札幌戦と先ほどの京都戦で、2試合連続の1-0と失点をゼロに抑えて結果が出ている。この連勝でかなり自信をつかんだはずだ。
その京都戦で犬飼が初先発し、試合開始は4バックで入って、終盤には5バックに変えて守りきった。このオプションは以前からやっていたが、人を入れたことで安定感が増し、形を変えながら守るというスタイルに自信をつけてきたのは大きい。犬飼を獲得した効果が早速出たのはチームにとってプラスだろう。
それから中断期間前の第20節湘南戦からジエゴが戦列復帰した影響も小さくない。さらに細谷真大が3試合連続でゴールを決めていて上り調子だ。
残留争いにおいて、失点を抑えられるのはかなり大きい。終盤で追いつかれるか、逃げきるかという展開で、守りきる形があるチームとないチームでは雲泥の差だ。残り数試合になってくると今まで感じたことのないプレッシャーに晒されることになる。そこでしっかりと守る準備ができているか。
その点で、柏はその準備が整ってきている。エースが1点でも決めて守りきるという形に持っていければ、この混戦から抜け出すことは十分に可能だろう。
【調子と自信を取り戻している横浜FC】
横浜FCはリーグ再開初戦のヴィッセル神戸戦で2-0と快勝した。守備時に5-4-1の形で徹底的にスペースを消し、神戸の強力な前線を見事に抑えきった。今シーズンは4バックのシステムでスタートしていたが、そこから3バックに変更し守備時に5バックの形になる、四方田修平監督がもともと持っていたスタイルに戻してから調子を取り戻してきた。
その堅守から山下諒也の一人でぶっちぎってしまうスピードは圧倒的で、神戸戦の2点目は鮮やかだった。山下は第14節川崎フロンターレ戦でも、ロングカウンターを一人で抜け出して決めきるスーパーゴールがあった。あの形にハマった時の山下を止めるのは、どのクラブも困難だろう。それくらいあのスピードは驚異的で、横浜FCのスタイルと相性抜群だ。
ちなみに神戸戦の先制点の井上潮音のミドルシュートもスーパーだった。シュートを打つ前に山口蛍の素早い寄せをかわしたタッチも巧みで、古巣を相手に強烈な恩返し弾を叩き込んだ。井上も第14節の川崎戦でカウンターからテクニカルなゴールで決めている。井上と山下が2人で揃って決めたことだけでなく、リーグ戦の勝利もそれ以来だった。
エースの小川航基がNEC(オランダ)への移籍で抜けて「俺たちがやらなきゃいけない」という強い思いもあったのかもしれない。神戸戦で改めて「このスタイルを貫くしかない」と、大きな手応えをチーム全体で得られたはずだ。
【守備面での補強が大きい湘南】
湘南はここまで複数失点が多く、守備の立て直しが急務だったと思うが、7月に鹿島アントラーズからキム・ミンテを獲得したのは大きかったと思う。鹿島で出られなかったことで相当悔しい思いをしていたのだろう。湘南の最終ラインで、大声を張り上げながらリーダーシップを発揮している。
また、Jリーグ初挑戦のGKソン・ボムグンにとってもキム・ミンテの加入は非常に助かっていると思う。これまでも最低限のコミュニケーションは取れていたとは思うが、言葉がわかる選手が最終ラインに一人いるだけで連係はまったく違うはずだ。
しかも日本での経験が豊富な先輩で、わかってくれるという安心感があって、リーダーシップを取ってくれている。第22節でサンフレッチェ広島に勝ったあと、2人で抱き合って喜んでいた姿を見ると、2人の信頼関係の深さを感じることができた。
ソン・ボムグンだけでなく、大野和成も思いきり競り合いに出ていけるのは、キム・ミンテが後ろにいてくれるからだろうし、大野が真ん中から左センターバックにずれたことで、杉岡大暉が本来の左サイドのポジションで躍動できるはず。
それから田中聡の復帰も間違いなく大きい。守備の強度はもちろん、ボールを捌く能力も頼りになるし、彼が真ん中にいることで周りはだいぶ変わってくる。まだ彼本来の出来ではないが、これから徐々に調子を取り戻していくだろう。
それと町野修斗がドイツ2部のキールへと移籍したあと、清水エスパルスからディサロ燦シルヴァーノを獲得した。大橋祐紀と2人で、どれだけエースの抜けた穴を埋められるか。いずれにしてもこの仕切り直しのタイミングで第6節以来の勝利をホームで挙げられたのは、チームの士気を上げるうえでこれ以上ないものだろう。
【9月までが勝負 タフなコンディション下の戦いになる】
リーグ再開の第22節で、横浜FC、柏、湘南の下位3クラブがいずれも勝利を挙げ、しかもそれぞれがいいきっかけとなる手応えをつかんだ内容だった。残留のためには、勝利できれば文句なしなのはもちろんのこと、どれだけ負けを引き分けにできるか。あるいは引き分けを負けにしないか。この勝ち点1をどれだけ積み上げられるかも重要になってくる。
そのためには追いつかなければいけない場面、逃げきらなければいけない場面、スクランブルになった時にどんな交代選手、どんな形を準備できているか。先発メンバーだけでなく、ベンチも含めていいコンディションを整えておくことが求められる。
その上で終盤に差しかかればプレッシャーはより大きくなるし、試合数が少なくなるにつれ1節の結果ごとに勝ち点を計算して、試合はよりデリケートになっていくもの。そういう展開になる前にどのクラブもこの混戦から抜け出したいと思っているだろう。
これは優勝争いでも言及したが、10月のブレイクを挟んでコンディションは一度リセットできる。だから8月から9月いっぱいまでの気温が高く、タフな時期に、どれだけ後れを取らずに勝ち点を積み上げることができるか。勝負のラスト5節に入る前に、下位のクラブがどのように並んでいるか注目したい。
水沼貴史 みずぬま・たかし/1960年5月28日生まれ。埼玉県出身。浦和南高校、法政大学で全国優勝を経験。JSL日産自動車でも数々のタイトルを獲得し、チームの黄金時代を築いた。日本代表では国際Aマッチ32試合出場7ゴール。Jリーグスタート時は横浜マリノスで3シーズンプレー。引退後は、横浜F・マリノスのコーチや監督を務めた。現在は解説者として活躍中。