日本サッカー界の発展に必要なのは? U-20日本代表・冨樫剛一監督が強調する育成年代から世界で戦う重要性【独占インタビュー/後編】
世界一を掴むために何が必要だったのか
2大会ぶりに開催されたU-20ワールドカップに臨んだU-20日本代表は、1勝2敗の3位でグループステージ敗退に終わった。
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悔しさはある。勝点1を積み上げていれば、ノックアウトステージ進出は果たせていた。コロンビア戦で勝点1を積み上げていれば、イスラエルとの最終戦で逆転負けをしなければ――。もっと言えば、短い準備期間の中で他にできたことはなかったのか。グループステージ突破を果たし、世界一を掴むために何が必要だったのか。U-20代表の冨樫剛一監督に、今後の日本サッカー界を発展させていくうえで必要なポイントを探ってもらった。
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2023年3月に行なわれたU-20アジアカップ。日本代表はグループステージを3連勝で突破し、1位でノックアウトステージに歩みを進めた。準々決勝ではヨルダンを2-0で撃破。準決勝でイラクにPK戦で敗れたが、上位4か国に与えられるU-20ワールドカップの出場権を掴んで世界一を目ざす権利を手に入れた。
しかし、ここから多くの問題に直面する。3月下旬に開催地が変更され、決戦の地がインドネシアからアルゼンチンに移り、短い準備期間の中で新たな場所の情報を手に入れる必要があった。
選手たちはもちろん、コーチングスタッフでもアルゼンチンを熟知している者は少ない。さらに大会開幕までは予選終了後から約2か月しかなく、新たな選手を試す機会も限られている。
前回大会までであれば、アジアの最終予選が前年の秋に行なわれていたため、チームをもう1度作り直す時間があった。今回はそれができない。しかも、登録メンバーもアジアの戦いは23名だったが、ワールドカップは21名で挑む。前々から分かっていたことだったが、冨樫監督は頭を悩ませた。
「レギュレーションが変わったことで選手を試す場がほとんど作れない。今まではU-18の世代でアジアカップ予選、U-19の世代で最終予選を兼ねたアジアカップ、U-20の世代でワールドカップでしたが、今回から変更された。U-19の世代でアジアカップ予選、U-20の世代でアジアカップとワールドカップを戦う形になり、しかも年が明けてすぐにアジアカップを戦うレギュレーションになったので、選手の成長スピードが変わってくる。最終予選を経験して伸びてくる選手、最終予選のメンバーに入れない悔しさを味わって所属クラブでグッと伸びてくる選手を含めて、メンバーを組み直すことができなくなったのです。
今回、4月の活動もトレーニングマッチをするだけの1泊2日の活動になりました。そのなかで、僕たちが考えなければいけないのは世界で戦うこと。セネガルの10番と対峙した時に対応できるのか。コロンビアのフォワードに対して通用するのか。イスラエルのパスワークに対抗できるのか。さらにはアジアカップから2人減った状態でグループステージ3試合プラス決勝までのノックアウトステージ4試合を考えないといけません。
各ポジションに2人を呼ぶことができないのであれば、選手交代をしないでピッチに立っている選手で変化を起こす。試合状況、相手の形、いろんなものを見ながら、ピッチの11人で変化をし、交代策で流れを変えていく。どの編成がいいのか、そこが一番考えたところです」
「自分の中ではすごく頭を悩ませた」
ひとつのポジションしかできない、いわゆるスペシャリストの招集は限られる。ひとりのためにチームの戦い方を捨てることもできない。そして、スケジュールの問題で招集できない選手も多くいた。
Jクラブの協力を仰ぎながら出場機会が得られていない選手を中心に、4月の平日に1泊2日のショートキャンプを実施したが、出場機会を得ている選手は呼べない。つまり、代表の常連組ではなく、今年に入ってから台頭した選手を試すことがまるでできなかったのだ。そうした苦悩のなかで冨樫監督は最適解を探った。
最たる例が高校3年生のFW後藤啓介(磐田)だった。一世代下で次のU-20ワールドカップを目ざす代の選手だが、今季は開幕からトップチームでプレーして結果を残してきた。冨樫監督のチームではほとんどプレーしていなかったが、結果を残している以上は無視できない。しかし、メンバー発表の前日に行なわれた5月3日のJ2第13節の東京V戦で負傷交代を余儀なくされた。
また、新たな選手だけではなく、これまでチームの屋台骨となってきた選手の状態が上がらなかったのもメンバー選考に大きな影響を与えた。冨樫監督は言う。
「自チームで出ていない選手が多かった。自分の中ではすごく頭を悩ませた」
それは中野伸哉(鳥栖/今年8月8日にG大阪へ期限付き移籍)もそうで、彼はチーム立ち上げ当初から主力としてプレーし、この世代では唯一U-17ワールドカップを経験している選手でもある。
しかし、そうした事情はほかの国にも大なり小なりある。実際にほかのチームではヨーロッパのシーズン終了後という状況下で呼べない選手がおり、A代表やパリ五輪世代のチームに参加する者はメンバーから漏れた。だからこそ、ほかの選手にとっては大きなチャンスだったが、結果を残せなかった。
今回の敗戦の責任は自分にあるとしたうえで、冨樫監督は想いを口にする。
「良い結果を残して将来的に日本代表に1人も行けなかったのと、今回負けて3人から5人ぐらいの選手が日本代表に入るのであれば、どっちがいいのか。選手たちがワールドカップで悔しい経験をして、また勝ち上がる経験ができなかったからこそ、上のカテゴリーに行けたという状況になって欲しいです。
もちろん、優勝したかったです。勝つために何をしないといけないのか。勝つことに拘らないと、育成を考えたら意味がない。負けたので言い方は難しいですが、選手たちが今回のワールドカップに出場したことを無駄にしたくないと話していましたが、言うのは誰でもできる。それをピッチの上で表して勝ち取っていくことは彼らにしかできないので、そこに期待をしたいです」
「基準は世界にあるとして考えるべき」
もちろん、育成年代でワールドカップを経験することが全てではない。例えば、MF三笘薫やMF遠藤航はU-20やU-17世代でワールドカップを経験せず、自クラブで力を蓄えて飛躍を果たしている。彼らはそうした経験をせずとも、自分と向き合って世界で戦うために何が必要かを考え続けて今の立ち位置を築いた。だからこそ、大事なのはワールドカップを経験するではなく、本気で世界と戦う経験をしたうえでいかに自分の力に変えるかが重要だ。
「日本はコロナ禍で世界と戦う経験があまりできませんでした。たくさんの先輩たちから力を借りて、強度の高い練習をさせてもらいましたが、あくまでもそれは日本人同士の戦いで、想像の範囲を超えることはあまりない。想像を超えるようなことは起こり得るから、そこに気づいて欲しいです。
サッカーはどうしても僕らの基準ではできないし、基準は世界にあるとして考えるべき。外に行くことでしか感じられないモノがある。でも、そこに行くために基準を上げないといけない。そうしないと、あまりにも差があって、絶望を感じることしかできません。一定の水準まで上げて、もっとやらないといけないというのを感じることが大事だと思っています」
立ち上げ当初の頃を考えれば、チームは目覚ましい進化を遂げた。ただ、今回のワールドカップが悔しい結果に終わったのは事実。最後に冨樫監督は選手たちに期待を込めて、エールを送った。
「成長しないとチームはワールドカップに出られていませんでした。最初の頃は本当に幼くて不安もありました。そこからワールドカップの出場権を掴んでくれて、ワールドカップの戦いは今までにない強度を感じたはず。この悔しさをリベンジしようと、そこに向けて本気になれるかどうか。来年のパリ五輪も年下の世代であったとしても狙っていかないと意味がないですし、あとは日本代表しかありません」
U-20世代での冒険は終わったが、本当の戦いはここからだ。指揮官は選手たちのさらなる飛躍を願いながら、これからも日本サッカー界の発展のために走り続ける。



