<ガンバ大阪・定期便71>「半田陸は、元気です」。

 7月17日、クラブから出された公式リリースに驚き、心配した方は多かったのではないだろうか。

「半田陸、左腓骨骨幹部骨折」

 あれから約10日。クラブハウスで久しぶりに顔を合わせた半田は、開口一番「ぜんぜん、元気です」と笑顔を見せた。

 もちろん、左足の膝から下はギプスで固定され、包帯でぐるぐる巻きにされている。歩くのにはまだ、松葉杖も必要だ。だが「自分でもびっくりするくらいマイナスな、というか、ネガティブな感情はない」という。

「7月14日の練習中に、誰かと接触したとかではなく、左足を伸ばしてシュートブロックに入った時に、痛っとなって。でも、その時は歩いてクラブハウスにまで戻ってきたくらいだったのでそこまで大きなケガになるとは思っていなかったんです。でも、チームドクター(榎本雄介)に診てもらった時点で『もしかして折れているかも』となり、実際にレントゲンを撮ったら、しっかり折れていました。後から映像を見返してみたら、シュートブロックの際に弾き返したボールが、かなり遠くまで飛んでいっていたので、そのくらい強いシュートではあったと思うんですけど。とはいえ、折れるほど?! と自分でも驚きました。ドクターも『そんなピンポイントでなかなか命中しないよ』と言っていたほど、ピンポイント過ぎるくらいのピンポイントで骨に当たってしまったみたいです」

 受傷から数えると、すでに2週間が経過しており、その間には入院、手術、退院という時間を過ごしてきたことを考えれば、クラブハウスで見せた笑顔を鵜呑みにするつもりはない。今夏には海外移籍の話も持ち上がっていたことを思えば、この期間で彼なりに消化したことも多かったはずだ。だが、少なからず彼はもう前を向いていた。

「本当は手術後もう少し入院する予定だったんですけど、病院にいても特にすることがないので、帰らせて欲しいとお願いしました(笑)。家の方が気持ち的にも、体としてもゆっくりできるし、落ち着くから。なので、リハビリもクラブハウスでやっています。と言ってもギプスが外れるのが8月2日なので、本格的なリハビリはそれを待って、という感じになりますけど。でも、すでに今日で受傷から2週間が過ぎたように、時間はどんどん前に進んでいますから。そう考えても、本当に、びっくりするくらいマイナスな、というかネガティブな感情はないです。むしろ、このケガを自分にプラスに転じられるように、もう一回、体をしっかりと整えようと思っています。プロになって、自分なりに必要だと思うトレーニングはしてきたつもりですけど、パーソナルトレーナーをつけているわけではなかったし、もしかしたら、今回のケガは、ここで自分がより強くなるために、とか、より戦える選手になるためにいろんなことを見直せってことかも知れない。もう一度自分の体ときちんと向き合いながら、復帰を目指せたらなと思っています」

 それは、ケガということに限らず自分自身のキャリア、ということに対しても、だ。先にも書いた通り、受傷する前には自身の将来を想像して「実は今夏のタイミングでの海外移籍を考えていました」と明かした半田。初めて海外移籍に関する胸の内も聞かせてくれた。

「ガンバへの移籍が決まった時に、まず目標に描いたのは、J1リーグで試合に出続けて、毎試合、毎試合、安定していいパフォーマンスをし続けてチームの勝利に貢献することと、自分のプレースタイルをしっかり発揮して得点に絡んでいくことでした。もちろん、その時からプロサッカー選手としての目標というか、いつか五大リーグでプレーできる選手になるということは頭の中では描いていました。でも、だからと言って近年、いろんな日本人選手の海外移籍を見たり、聞いたりしても、一足飛びにはそこに辿り着けないだろうなということは想像できたので。ましてやディフェンスの選手はそう簡単にはいかないと自覚していたので、とにかく、今をきちんと過ごして、結果を求めて戦って、評価を得ることが最優先だと思っていました。その中で今夏、海外移籍の話が持ち上がり…結果的に報道に出ていたスコットランド1部リーグのハーツとの話はまとまりませんでしたが、その話が持ち上がった時から、すぐに自分の中では『この夏に行こう』という考えになっていました」

 もともと、彼の中で海外移籍をするなら、日本のシーズン終了後の『冬』ではなく『夏』の移籍ウインドウを使ってチャレンジしたいと思っていたからだ。

「海外移籍をした選手からも、冬の移籍はヨーロッパのシーズン途中の加入になってしまうので、いろんな意味で適応が難しいと聞いていたので、以前から、夏に移籍できる可能性があるのなら、そのタイミングで実現したいと思っていました。また、さっきも言ったように、Jリーグやオリンピックでの活躍が、五大リーグのチームへの移籍に直結するかといえば、今はまだそうじゃないというのが現実なので。とにかくまずは海外に出て『ヨーロッパでも試合に出続けられる』『しっかり戦える』という姿を示さないと、獲得する側のチームも評価が難しいんじゃないか、という考えもありました」

 特に今夏、自身にもその可能性があるとわかったことで、『海外』への思いはより膨らんだが、その最中に、今回のアクシデントが起きてしまい、今夏の海外移籍は断念せざるを得なくなってしまう。それについては「僕にとっては今(のタイミング)じゃなかった、ということ」だと消化したそうだが、周りを見渡せば今夏、Jリーグでプレーしていた数多くの同世代の選手が海外移籍を実現したこともあってだろう。「正直、乗り遅れた感はあります」とも。だが、今は気持ちも吹っ切れたという。

「これで一生、海外移籍ができないわけでもないし、サッカー人生が閉ざされてしまったわけでもない。まずは自分が今やるべきことを…今はまずケガをしっかり治して、しっかり戦える体になってピッチに戻ることに集中して、今を大事に過ごそうと思っています」

 ただし、それは新しい自分で、だ。

 思えばガンバに移籍したこの半年は、3月の日本代表選出も自信にしながら、試合を重ねるごとに攻守に持ち味を光らせ、圧巻の存在感で右サイドを輝かせてきた半田。その活躍が彼の評価を高め、海外移籍の可能性を広げることにつながったのは紛れもない事実だが、過去の評価に縋るつもりはないという。

「正直、海外のことも含めて、一旦は全て、忘れようと思います。もちろん、今シーズン初めてのJ1リーグで、個人的なプレーもそうですし、ここ最近はチームの結果もついてきていただけに少しは自信になった部分はあります。でも、今回のケガでそれもとりあえずは全部、リセットだな、と。大事なのは、過去の経験や自分に対する評価ではなく、今現在の姿、プレーなので。だからこそ、ここからまたガンバにきた時と同じような感覚で、1から積み上げていこうと思います。ケガをしちゃったから、今度は1からどころか0からですけど、その上で自分がどんなプレーを見せられるのかが勝負だと思っています」

 プロになってからの過去4シーズンでは、長期離脱を強いられるケガをしたのは初めてで、この先どんなふうにリハビリが進んでいくのかは正直、想像できていない。ポジティブな今の感情をそのまま継続できるのか、あるいはどこかで不安に苛まれることがあるのか、それも彼にとっては未知の世界だ。だが「それも含めて、自分の力にします」と半田。この日の取材後には、ケガで車を運転できない半田を気遣い、結婚を発表したばかりのパートナーがクラブハウスに迎えにきていたが、側で支えてくれる人の存在も力になっているようだ。

「彼女は、これまで自分がどんな状況に置かれても、いろんなことに一緒に真剣に向き合って、支えてくれてきた人。結婚してすぐにケガをして迷惑をかけちゃっていますけど、今も心身両面でいろんなサポートをしてくれていますし、何よりどんな時も前向きに、自分を支えてくれるのはすごく心強いです」

 さらに取材の最後には、ファン・サポーターを気遣い、メッセージも託された。

「まずは…皆さんが思っているより、半田陸は元気ですと伝えてください(笑)。ここからしっかりリハビリを頑張って、また皆さんにしっかり戦える姿を見てもらえるように、熱のあるパナソニックスタジアム吹田で、一緒に勝つ喜びを味わえるように、強くなって戻ってきます」

 圧倒的な走力を武器に、局面での強さを際立たせた守備も、果敢に仕掛けてゴールににじり寄る姿も、しばらくは観ることができない。だが、彼の言葉を聞く限り、再びピッチに立った時にはきっと、心身ともにスケールアップした彼のプレーを楽しめるはずだ。『リセット』を経て輝きを増した、新たな半田陸の姿を。

https://news.yahoo.co.jp/byline/takamuramisa

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