J1前半戦「勢力図」査定 首位・横浜FMを神戸が追走…上位4クラブ、夏の補強で先手に出たのは?
【識者コラム】優勝争いは上位の横浜FM、神戸、名古屋、浦和が筆頭か
J1リーグでは首位争いを繰り広げるヴィッセル神戸から、今夏元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタが去るなどビッグな動きもあった。今回「FOOTBALL ZONE」では、そんなリーグ戦の半年経過を経て、「前半戦通信簿」と題してJ1クラブの前半戦をチームごとに考察。ここまでの勢力図を紐解いていく。(文=河治良幸)
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2023年のJ1も折り返し地点を通過し、残るは14節となった。現在、勝ち点43で首位を走るのは前回王者の横浜F・マリノス。ただし、勝ち点3差の40で追う2位のヴィッセル神戸は1試合消化が少なく、得失点差も神戸が上回るので、この2チームがトップに立っている状態と言える。
それに続くのが勝ち点39の名古屋グランパス、4位は勝ち点37の浦和レッズだ。筆者の見通しでは、優勝争いはこの4つに絞られたと考えている。5位のセレッソ大阪は首位のマリノスと勝ち点11差あり、残り14試合での逆転は難しいだろう。
マリノスは昨シーズンの実績があり、後半戦に大失速をする可能性が限りなく低い。9月には秋春制となったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)が開幕して、日程的にはより厳しくなるが、新加入の上島拓巳や植中朝日、井上健太といった選手が主力、準主力に定着しつつあり、宮市亮も長期の離脱から復帰するなど、プラス材料の方が多い。
そうした要素を踏まえると、マリノスと勝ち点6差で4位の浦和も厳しい立場だが、マチェイ・スコルジャ監督のもと、チームのベースは上がってきている。8月6日にマリノスとの直接対決を残しており、その2週間後に名古屋、そしてラスト3ゲームというところで神戸とのホームゲームが待つ。そうした“6ポイントマッチ”を良い状態で迎える意味でも、そのほかの試合でいかに勝ち点3を積み重ねていけるかが鍵になる。
ただ、浦和もマリノスと同じくACLの戦いがあり、しかもプレーオフからの登場ということで、過密日程の度合いが強い。その分、欧州クラブのジャパンツアーなどには参加しないため、7月下旬から8月初旬にかけての中断期間にしっかりと準備して、その後の戦いに備えることになる。現時点で新加入はバルセロナBから加入した元鹿島アントラーズの安部裕葵だけだが、課題の得点力を向上させるためのさらなる補強があるかもしれない。
3位の名古屋は2年目の長谷川健太監督のスタイルが浸透してきているが、58%のボール保持率を記録しながら2-0で敗れた鹿島戦、55%で同じく2-0負けのFC東京戦など、ボールを持つ側(持たされる側)になった時の課題がある。そういう意味でドリブラーの前田直輝の復帰は大きい。北海道コンサドーレ札幌から期限付き移籍で加入したFW中島大嘉もある種の理不尽なゴールが奪えるタレントで、エースのユンカーや永井謙佑にも無いストロングをもたらす期待がある。
札幌、FC東京、鳥栖あたりの盛り返しにも注目
神戸に関しては昨シーズンの終盤まで残留争いに巻き込まれたことを考えると、この時点でも大躍進と言えるが、クラブとしては当然タイトルが欲しいだろう。ただ、絶対的なエースとなった大迫勇也が牽引する高強度のサッカーは体力の消耗も激しい。しかも、武藤嘉紀、齊藤未月、山口螢、酒井高徳といった主力の稼働率が非常に高く、地盤沈下の兆候が試合の終盤に出てきているのも確かだ。
そして最終ラインは吉田孝行監督も苦境を隠さないなど、本当にギリギリの状況にあり、1-0で勝利したアルビレックス新潟戦で、マテウス・トゥーレルの負傷で急遽、センターバックに入った酒井高徳の奮闘を美談にしている場合ではない。ここまでイニエスタの退団、ステファン・ムゴシャの移籍、スペインのCDアトレチコ・パソに期限付き移籍していたMF日高光揮の復帰がリリースされただけだが、DFには補強が必要だし、前線もできれば大迫や武藤に準じる働きができるFWを加えたいだろう。違いを作るというより、高強度のサッカーを攻守で全うできるタレントだ。
その神戸に関しては前回王者のマリノスと違い、リーグ優勝から中位転落までありうると見ている。上位争いという視点では5位のセレッソ大阪からようやくダニエル・ポヤトス監督のスタイルに結果がついてきた13位のガンバ大阪まで、勝ち点9差であり、後半の成績次第で逆転はありうる。ただ、3位の名古屋が勝ち点39であることを踏まえると、勝ち点27で10位の札幌あたりまでがギリギリか。
札幌はマリノスに次ぐ41得点を叩き出しているが、失点も39と多い。ただ、ハイスコアな試合が多くなる分、勝ち点3が入る確率も増えるので、スタイルが良い方に出ればジャンプアップもありうる。上位陣にとって一番怖いのは過去6年間で4度の優勝を誇る川崎フロンターレだろう。序盤戦はディフェンス陣に怪我人が多発したが、ボールを持つスタイルが効果的なフィニッシュにつながらず、得点数が伸びなかった。
ここまで5得点のFW宮代大聖などのさらなる奮起にも期待したいが、U-20代表のMF永長鷹虎が水戸ホーリーホックに育成型期限付き移籍、チャナティップがタイに帰国、小塚和季が韓国の水原三星ブルーウィングスに移籍など、2列目やウイングの選手がこぞっていなくなったこともあり、得点力アップの起爆剤になる補強もありうる。
ピーター・クラモフスキー新監督のもと、推進力を取り戻した11位のFC東京も注目だが、上位の“ダークホース”として8位のサガン鳥栖をあげたい。序盤戦はなかなか勝ち点が上がらなかったが、2年目の川井健太監督は慌てる様子も無く、新しいビルドアップにトライするなど、ある種の田植えをしてきたところがある。そこに富樫敬真、横山歩夢といった攻撃のタレントが復帰し、前節のセレッソ大阪戦ではそれを象徴するような、横山のアシストから富樫の決勝ゴールが生まれた。現在、勝ち点29。3位の名古屋とは勝ち点10差だが、夏場や過密日程をこなしながら、そこまで上げていくのか注目したい。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。