【番記者の視点】G大阪、決勝点生んだGK東口順昭“最高のビルドアップ” ハイライトに映らない攻撃起点
◆明治安田生命J1リーグ 第20節 G大阪1―0京都(8日・パナスタ)
【G大阪担当・金川誉】GKにとって、最高のビルドアップとは何なのか。現代サッカーは、GKにもフィールドと同じように足技を求められる時代となった。最終ラインでボール回しに参加し、相手をプレスをかわすパスも見せるGKのプレーに、賞賛が集まることも多い。一方でこの日、G大阪GK東口順昭が最後尾から見せたロングパスは、攻撃の起点として最上級、拍手を送りたくなるプレーだった。
0―0の後半27分。センターバックからパスを受けた東口は、京都のプレスが前掛かりとなっていることを確認すると、センターサークル付近のMFダワンへ浮き球のパスを送った。このとき京都は7人の選手がG大阪陣内に足を踏み入れていたが、このパスで置き去りにすることに成功。これが起点となり、MF福田湧矢の先制ゴールにつながった。
通常、GKのロングキックは最前線の味方FWをめがけることが多い。しかし東口は、中盤に位置するダワンへ狙いを定めている。「ダワンは、中盤でヘディングは負けない。そこは計算できるので」。京都の最終ラインは高さがあるが、中盤には高さがないことも計算し、空中戦に強いダワンを生かすパスを選択。ボールの精度が高かったこともあり、ダワンは胸でジェバリにつなぐことに成功した。味方の特性も生かした判断と、縦への距離感が絶妙なキックが、チャンスを生んだ。
今季序盤、GK谷晃生とのポジション争いの最中にあった東口は、2度失点に直結するビルドアップのミスを犯している。今季リーグ初先発の3月12日・広島戦、そして広島戦のミスから約2か月ぶりのリーグ戦先発となった5月14日の浦和戦。ともに中盤につなごうとしたパスが狙われ、自陣ゴール前でボールを失った。ボール保持を重要視するポヤトス監督の下で、GKにもビルドアップへの関わりが求められている中で生まれたミスだった。
記者の立場から言えば、チームとして新たなチャレンジを行う中で、同情したくなるミスでもあった。しかし東口は、そんなこちらの思いを見透かしてか「監督からは、後ろからつなげとは、一度も言われていない」と語っていた。確かに指揮官は、一貫して「どこにスペースがあるか」と言い続けるが、後ろから繋げ、とは言わない。相手の守備が前掛かりとなれば裏のスペースへ、相手が引けば手前のスペースへ、という考えがベースだ。東口は自身の判断を悔やみ、加えてチームとして「どこでパスを呼び込むのか」という意識を高める必要性も語っていた。
得点につながったキックの他にも、この日の東口はロングパスで何度も攻撃の起点となった。ハイプレスが特徴の京都に対して後ろでつなぐリスクは極力負わず、最前線のFWジェバリに向けた「競り勝ってくれ!」という願いを込めたキックも少なかった。サイドの裏、さらに空中の“スペース”を高い確率で生かせるダワンと、しっかりと狙いを持ったキックで、最後尾から攻撃に貢献した。
「ビルドアップの選択肢は、周りがしっかりと作ってくれているので、うまくいったと思う。あれ(守備が前掛かりとなったときのロングパス)が一番、相手は嫌。警戒してきたら、手前(のスペース)が空いてくる。その使い分けはしっかりできないと、足元だけなら潰される。それがうまくできているので、チームとしていい結果が出ていると思う」。2度の手痛いミスから学んだ正確な判断が、チームの好調とリンクしている。
シーズン序盤は最下位に沈んだが、ここ6戦無敗(5勝1分け)と復調したチームを最後尾から支える37歳の元日本代表GKは、今やシュートを止めまくるだけの存在ではない。ひとつ不満なのは、DAZNのハイライトゴールシーンでは、東口のキックが“カット”されていたことだ。いや確かに、ゴールに至るかなり手前のプレーではあるのだが…。興味のある方は、フル尺の見逃し配信でぜひチェックを。