宇佐美貴史の欧州挑戦を阻む「猫背」。 ルーニーの姿勢の使い分けを学べ! Number Web 11月24日(火)11時00分配信

宇佐美貴史の華麗なプレーを、再び欧州の舞台で見られるかもしれない。

今季のJリーグでは得点ランキング3位(19点)となり、ハリルホジッチ率いる日本代表にも定着した。スポーツ新聞の報道によれば、マルセイユやシュツットガルトが関心を示しており、今冬に欧州のクラブへ移籍する可能性が高まってきた。

ただし、宇佐美本人も迷っているかもしれない。1度目の欧州挑戦では、満足できる結果は残せなかったからだ。

19歳のときにバイエルン・ミュンヘンに移籍して第2節で出番が回ってきたものの、不用意なボールロストでハインケス監督を激怒させてしまった。 そこからリーグ戦では32節まで干され、失った信頼を取り戻すことはできなかった。2年目にホッフェンハイムに移って先発に定着した時期もあったが、監督 交替のあおりを受け、最後は戦力外扱いになった。

いったい宇佐美が欧州でブレイクするには何が足りないのだろう?

最も不安視されるのは、「爆発的なアクションを連続して行うのが苦手」ということである。いわゆるインテンシティの欠如だ。

ダイジェストにスーパープレーが並んでも……。

ブンデスリーガ北部のあるクラブ関係者に会ったところ、やはり監督から宇佐美の情報を求められたという。だが率直にアクションの継続が苦手だと伝 えると、監督は興味を失ったそうだ。ダイジェスト映像にいくらスーパープレーが並んでも、それを90分間コンスタントに出せなければ、1シーズンを戦い抜 くのは難しい。

なぜ爆発的なアクションを連続できないのか。その原因は、おそらく姿勢の悪さにある。

宇佐美に限らず、猫背の選手は踏ん張ったり、地面を強く蹴ったりしないと動き出せないため、90分間動き続けるのが難しい傾向がある。一言で言えば、燃費が悪い。

猫背のさらなる弊害は、スピードの変化をつけられないことだ。今夏、岡崎慎司の成長秘話を取材するために、彼の専属トレーナーで元陸上選手の杉本龍勇氏に話を聞く機会があった。杉本氏は一般論として、指摘してくれた。

ドリブルにスピードの強弱をつけるための姿勢とは。

「日本人の多くの選手は姿勢が悪く、だからスピードの強弱がつけられない。守備者から見ると、同じリズムのドリブルというのは予測しやすい。日本でドリブラーと呼ばれる選手が、欧州に行くと簡単に抜けなくなるのはそこに原因があると思います」

「実は走るという動作において、スピードの上げ下げはメチャクチャ難しい技術なんです。たとえば陸上の長距離。日本の選手はペースメーカーをつけれ ばある程度戦えるんですが、なぜ五輪や世界選手権で結果が出ないかと言えば、そこでは細かな速度の上げ下げが延々と繰り広げられるから。途中でついて行け なくなってしまう」

「速度を低い状態から上げるっていうのは、本当に体に負担がかかる。フォームが悪いと、力を浪費しながら走らざるを得ない。一方、ランニング技術が高いと、スピードを上げやすく、さらに疲れづらい」

「クリスティアーノ・ロナウドは、ドリブルを仕掛けるときに逆に姿勢が良くなる。日本にはボールを持てる選手はいるんですけれども、姿勢が悪いがゆえにスピードの強弱をつけるのが苦手な選手が多いと思います」

あくまでこれは一般論としての指摘だが、宇佐美にもあてはまるのではないだろうか。姿勢が悪く、それゆえに速度の強弱がつけにくく、相手のレベルが上がると簡単には抜けなくなってしまう。

宇佐美の不自然な姿勢は武器にもなっている。

ただし話が複雑なのは、姿勢の悪さが、シュートに限れば武器になっている部分があるということだ。

サンフレッチェ広島や川崎フロンターレでトレーナーを務めた西本直氏は、宇佐美の姿勢の悪さに課題を感じながらも、同時にシュート時の体の使い方に驚きを覚えた。

「宇佐美選手は不自然とも言える姿勢から、目の覚めるようなパスや強烈なシュートを打つことができる。体を丸めたまま、膝だけで蹴る感じです。それ によって、普通なら正確に蹴ることができないような体の近くにあるボールでも強く打てる。守備者からしたら、相当タイミングやコースを読みづらいはずで す」

ゴール近くでボールが足元にさえ収まれば、トリッキーなシュートを素早く打つことができる。ある種の点取り屋であり、もし王様としてゴール前に留まることが許されれば、日本人FWの概念を覆せるかもしれない。

ルーニーの姿勢の「使い分け」が参考になる?

だが、走るサッカーが全盛の現代では、メッシクラスでなければそんな特権は与えられない。パスを引き出す動き、フリーランニング後に元にいた場所に戻る動き、ボールを失ったあとのプレスなど、爆発的なスプリントが求められる。

Jリーグならば王様に近い座を得られたとしても、ヨーロッパでは一兵卒から這い上がらなければならない。

そこでヒントになるのは、ウェイン・ルーニーのプレーだ。このイングランド代表FWは、良い姿勢と悪い姿勢を場面ごとに使い分けているからだ。

西本氏はこう解説する。

「ルーニーは長い距離を走るときは背中をうまく使っているんですが、ボールを扱う瞬間に体を丸く小さくして、前側の筋肉を使う。背中側の筋肉は伸び やかで大きな動きに向いているのに対し、前側の筋肉は細かく小さい動きに適している。ルーニーはボールを止めるときにポンっとコンパクトに体を使ってい る。伸びやかさを利用するのではなく、体の筋肉をきゅって固めるイメージです。だからタッチがものすごく正確。無駄に力を使わない。一点集中ができる選手 です」

ルーニーはシュートの場面では体を丸めて、全身をコンパクトに使って蹴っているが、それ以外の場面では実に姿勢が良く、背筋を伸ばして走っている。宇佐美も同じように姿勢を使い分けることができれば、良さを維持しながら、課題をクリアできるはずである。

コミュニケーション力を不安視する声もあるが、バイエルン時代はトーマス・ミュラーとゲーム友達になり、クラブハウスでサッカーゲームに興じてい た。宇佐美の「くそ~」という口癖が、ミュラーにうつってしまったほどだ。技術に絶対的な自信があるからか、スター選手相手にも臆するところがない。

再びバイエルンから声がかかることも。

岡崎慎司が杉本トレーナーとの取り組みによって、日本代表のチームメイトが驚くほど足が速くなったように、実は「走る技術」は誰にでも身につけられるものだ。岡崎はぜんそく持ちで、心肺機能が強いわけではない。宇佐美も意識次第で改善できるはずだ。

技術とセンスが世界トップレベルなのは間違いない。あとは足りないところを少し補えば、再びバイエルンから声がかかっても不思議ではない。

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