<ガンバ大阪・定期便67>一体感。選手もコーチングスタッフも、裏方スタッフも。チームの勝利のために。

■ポヤトス監督もスタンドに向かって珍しいパフォーマンス。宿敵・鹿島から、スタジアムが一体となって掴んだ白星。

 ウォーミングアップ前。スタンドの観客もまだまばらなスタジアムで一人、芝生の状態を確認しながら、ゆっくりとピッチを歩き、ホームゴール裏のサポーターに向かって手を叩き、頭を下げる。

「芝生に今日の試合もよろしくお願いしますって挨拶するのはプロになってずっと…先発で出る時はほとんどの試合でやってきたことですけどホームサポーターに挨拶をするのはガンバに来てから。前にも少し話した選手とサポーターを繋ぎたいという思いを自分なりの形で続けています(福岡将太)」

 控えメンバーに回ることが続いていた4月の半ば、確かにそんな話をしていた。

「チームの勝てない状況に苦しんでいるのはサポーターも同じだと思うんです。でも彼らは今年、僕らが変わろうとしている、新しいサッカーにチャレンジしようとしているのもわかっていて、勝てない中でもずっとコールを続けてくれている。去年には見られなかった光景が今年のスタンドにはあるのは、サポーターも一緒に変わろうとしてくれているから。勝てない状況が続いている中で応援を続けていると、きっとサポーターも『俺らの声は本当に届いているのか?』って不安になると思うんです。でも確かにみんなちゃんと受け取っている。だからどんなに苦しくても僕らと一緒に戦い続けてほしい。勝利で応えられていないのは悔しいけど、でもこの先も僕は絶対に彼らと一緒に戦いたい。だから何があっても自分は選手とサポーターを繋ぐ存在でありたいと思っています(福岡)」

 そんな、いつもの光景の中で始まった6月24日のJ1リーグ18節・鹿島アントラーズ戦で、ガンバは同カードでは20年以来となる白星を掴み取った。

 前半、完全にゲームを支配しながら攻勢に試合を進めると、15分に黒川圭介の『右足』が炸裂。34分にはその黒川からのクロスボールをダワンが打点の高いヘディングで合わせ、ゴールネットを揺らす。

「利き足ではない右足で打つと、左ほどのパンチ力がないからうまく力が抜けたというか、変なことをせずに無難にしっかりとコースだけを狙って打てたのが良かったのかもしれないです(黒川)」

 2点のリードを奪い取った後半も、立ち上がりこそヒヤリとさせられるシーンもあったが、その後は落ち着いて試合を運ぶ。そのまま締め括れるかと思われた試合終盤、88分にセットプレーから1点差に詰め寄られてややバタついたものの、途中交代でピッチに立った選手も含めて最後まで相手の攻撃を寄せ付けず2-1で試合を終え、連勝を4に伸ばした。

 『一体感』。言葉にするのは簡単だが、作り上げるには多くの時間を必要とするそれが、確かに今、チームに生まれつつある。

「勝っていることでチームに笑顔が増えているし、自ずといい雰囲気が生まれている。また個々にも自信が宿り、それがよりいいプレーにつながっているという好循環も感じます。実際、自信があればプレーの選択もより積極的になるというか、前へのプレーが増えますしね。実際、僕に限らずチーム全体の周りの動きだしも増えていることでよりいいプレーを選びやすくもなっている。それが個々のいいパフォーマンスやチームの結果につながっている感じはします(黒川)」

 もちろん、控えメンバーも共に戦っている。

プロである限り、先発のピッチに立てない悔しさは当然ある。だが、メンバーが決まったらそれは一旦封印し、チームの勝利のために全力を注ぐ。最近の試合ではお馴染みとなった、得点のたびにフィールドの選手が控えメンバーのもとに走り寄って一緒に喜んだり、試合終盤はベンチ総立ちで熱くなっている光景もそれを示すものだろう。

「最善の準備をした上で、先発のピッチに立てないと決まったら、自分がチームのためにできることをするだけ。GKが試合途中で交代になることはほぼないと考えても、自分が一番盛り上げようと思っていますし、その方がヒガシさん(東口順昭)もやりやすいのかな、と。っていうか、僕が逆の立場なら控えGKがめちゃテンションが低いのは、どう考えてもやりにくいと思うので、それを想像して自分が好きに盛り上がっているだけなんですけど(笑)。あとは、最近は点を取ったらみんなベンチに走り寄ってくれるので、純粋に一緒に思いっきり喜びたいと言うのもあります。僕が一番はしゃいでいながら、第4審判にたしなめられて僕がみんなを制御するってボケツッコミみたいなことも起きていますけど、それも含めてシンプルに自分の置かれている状況を楽しんでいます(谷晃生)」

 そういえば鹿島戦のアディショナルタイムには珍しく、ポヤトス監督がスタンドを煽っていたのも印象的だった。冒頭に書いた福岡の想いを後押しするようなパフォーマンスだった。

「試合の終盤に失点して1点差に詰め寄った展開を考えると相手が勢いづくというのはサッカーではセオリーというか、よくあることなので。それまでどれだけいいプレーをしていてもああいう状況になるとどうしても押されてしまう。鹿島戦もそういう展開だったと思いますが、ファン・サポーターの皆さんに気持ちを引いてほしくなかったというか。この状況を怖がって『鹿島にやられてしまうんじゃないか』的な雰囲気を作ってほしくなかったし、むしろ、こういう時ほど、より前のめりになって応援して欲しい、選手の背中を押してあげてほしい、ということを伝えたかった。ピッチに立つ選手たちをそういう雰囲気にさせないのもファンの皆さんの力なんだよという思いを込めました(ポヤトス監督)」

■選手のスパイクにも注がれる、スタッフの愛。それぞれがチームのために。

 忘れてはいけないのは、そうした戦いは常にスタッフたちのプロフェッショナルなサポートにも支えられていること。コーチングスタッフも、メディカルスタッフも、通訳も、マネージャーも。選手と同じく、それぞれが勝利を掴むために、与えられた持ち場で最善を尽くしてサポートを続けている。

 鹿島戦が行われた週の半ばも、選手たちがいなくなったクラブハウスで、一人、選手のスパイクを1つ1つ、手入れをしている人見俊輔マネージャーの姿を見かけた。聞けば、選手からの依頼を受け、スパイク裏のポイント(スタッド)を削っているという。

「選手ごとにスパイクへのこだわりもある中で、ピッチに足を取られないように、よりグリップを効かせられるようポイントの真ん中に切れ込みを入れています。例えば宇佐美(貴史)さんなら体の感覚にすごく繊細で、線を入れる方向にもこだわりがあるので、ポイントごとに削り方を変えていますし、それを参考にしながら特にリクエストがない選手のスパイクも、僕なりにプレースタイルを想像して削り方を工夫しています。これは去年までマネージャーをしていて今年は韓国語通訳のソンくん(李聖仁)から受け継ぎました(人見マネ)」

「去年、ヒデ(石毛秀樹)をはじめ、チュ・セジョンやディエゴ(クォン・ギョンウォン)が水を撒いたピッチに足を取られて滑るのが嫌だという話から、スパイクのポイントを削ってほしいという話になったんです。で、どうやって削る? となった時に、ヒデが『清水エスパルス時代にホペイロにポイントを削ってもらっていた選手がいたから何で削っていたか聞いてみるよ』となり、結果、サッカーとは全然関係のない、工場用の機械みたいなもので削っているとわかったんです。そしたら、ヒデが『僕が買うからみんなで使ってよ』と言ってくれて、買ってくれました。みんなそれをやるようになって滑らなくなった! と言ってくれたのでよかったなと。ヒデのおかげです(李通訳)」

 その言葉を受け、鹿島戦で黒川の先制点をアシストした石毛に真相を尋ねると「僕のおかげで滑らないチームになりました」と茶目っ気たっぷりの返事が返ってきた。

「ちょうど僕も、去年からヒュンメルのスパイクを履くようになって。すごく履きやすいし、1つの型に対して足幅を3つから選べるのもいいなと思って気に入っているんですけど、練習で履いているスパイクはポイントが丸だから水を撒いたピッチだと、ちょっと滑っちゃいそうだな、と。そんな話をみんなでしていた時に、そうだ! と思い出し、エスパルスのホペイロに電話をかけて写真を送ってもらい、全く同じものをインターネットで探して購入しました。最近は、削ってもらっている選手も増えたみたいなので、みんなの役に立ててよかったです(石毛)」

 ちなみに、人見マネージャーの言う『宇佐美選手のこだわり』を知りたくなり、宇佐美にも尋ねてみる。実際に履いているスパイクを見せながら説明してくれた。

「僕の感覚ですけどポイントに対して、横に入れると前ずれを防いでくれて、縦に入れると横ずれを防いでくれるので、スパイクの前方と後方は横に削ってもらい、内側、外側にあたる部分は縦に削ってもらっています。ついでに世のサッカー少年たちのために最近のこだわりをもう1つ教えると…スパイクの紐を黒から白に変えました。と言うのも、黒のスパイクに白紐を使うと、キックの際に間接視野で足の甲を捉えてもボヤけないから。最近は秋くん(倉田)や武蔵(鈴木)も真似してやっていますけど、これは結構おススメです(宇佐美)」

 この靴紐も人見マネージャーが試合が終わるたびに洗っているそうだ。木下知子広報が教えてくれた。

「靴紐を外してスパイクを磨いているのを見て、理由を尋ねたら『選手に汚れた紐のままで試合をさせるわけにはいかない。まっさらな気持ちで目の前の試合に向かってほしい』と話していました(木下広報)」

 そういえば、偶然ながら鹿島戦では、相手選手が足を滑らせているシーンを数多く見かけたが、少なくともガンバの選手にはその事象がほとんど見られなかった。もちろん、慣れ親しんだホームスタジアムだということや、日々のトレーニングもあってこそだが、そのゴールを、走る力を、想い込めて支えているスタッフがいることも事実だ。

 それらも全部ぜんぶひっくるめて掴み取ったJ1通算450勝目の白星。その一体感を持って7月、ガンバは下位チームを突き放し、上位に近づくための3連戦に向かう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/takamuramisa

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