新10番背負う堂安律が示した、日本代表エースとリーダーの覚悟。「伝えたいことは伝える、媚びない『10番』でいたい」
続投が決まった森保一監督の下で再スタートを切った日本代表で、新たに背番号10を背負うことになった堂安律。その特別な背番号とともに6月シリーズに臨んだエルサルバドル戦で代表通算6ゴール目を決め、続くペルー戦では終盤に遠藤航からキャプテンマークを託された。堂安が誓った「エース」と「リーダー」への覚悟、そして日本代表の「新10番」に対する思いとは。
(文=藤江直人、写真=西村尚己/アフロスポーツ)
「居心地がよくなってきたときに、常に新しいプレッシャーがある」
たとえビッグマウスと揶揄されようが、堂安律は意識して強気な発言を繰り返してきた。あえて逃げ道をなくし、自らにプレッシャーをかけるビッグマウスの目的は本田圭佑に通じるものがある。
昨年開催のFIFAワールドカップ・カタール大会。稲本潤一、本田、乾貴士以来となる一大会で複数のゴールを決めた日本代表選手となった堂安は、無念のベスト16敗退を喫した翌日にこんな言葉を残していた。
「僕自身、日本代表のエースになりたいといろいろなところで言ってきましたけど、リーダーにもならなきゃいけないといまは思っています」
森保ジャパンをけん引した両ベテラン、長友佑都と吉田麻也の一挙手一投足を間近で見て感じたものを問われたときだった。2026年にアメリカとカナダ、メキシコで共催される次回大会をにらんだ誓いのなかで、エースを「背番号10」に、リーダーを「キャプテン」に置き換えても意味は通じる。
カタールでの戦いを終えてから半年あまり。続投が決まった森保一監督のもと、2度目の代表活動となった6月シリーズで、堂安は「背番号10」と「キャプテン」の両方を実現させた。
3月シリーズでは空位だった「10番」を、自らが背負うと堂安が知ったのは5月27日。敵地で行われたフランクフルトとのブンデスリーガ1部最終節を終えた後に、視察に訪れていた日本サッカー協会ヨーロッパオフィスの津村尚樹ダイレクターから伝えられた。
「もちろん気合いが入りましたけど、フライブルクに集中していたので、当時はそれほど……」
こう振り返った堂安は、最終節を特異な状況で迎えていた。キックオフ前の時点でウニオン・ベルリンと勝ち点59並び、得失点差で4ポイント及ばない5位につけていた。試合の結果次第では4位でフィニッシュし、クラブ史上初のUEFAチャンピオンズリーグ出場権を獲得できたからだ。
しかし、結果は1-2と逆転負けを喫した。一方のウニオン・ベルリンは1-0でブレーメンを下していた。5位のままで終えた2022-23シーズンを、堂安は「自分がもっと点を取っていれば、もっと違いを出していれば、というシーンがたくさんあった」と自らにベクトルを向けながら悔やんだ。
直後に吉報が届いた。時間の経過とともに、堂安は背中に新たな重みが加わったと実感している。
「代表の『10番』は特別な番号だと認識しています。同時に自分は運がいいというか、何か居心地がよくなってきたときに、常に新しいプレッシャーがある人生を歩んでいるんですよね。新しい壁が常に降りかかってくる点で、すごく幸せなサッカーキャリアを送れている。もちろん、そういったプレッシャーに打ち勝つメンタリティーや強気な姿勢が、自分にはあると思っています」
10番託した指揮官の思い「ギラギラ感と突き抜ける向上心を持って」
日本代表の背番号はチームのスタッフが提案し、森保監督が承認するプロセスで決まる。第2次政権で最初に「10番」を託した堂安へ、指揮官はその胸中を慮りながらこう語っていた。
「今回から『10番』を背負っていることで、自分にプレッシャーをかけている面もあると思うが、それこそが堂安のよさ。これまで通りにギラギラ感と突き抜ける向上心を持ってプレーしてほしい」
森保監督が心配するまでもなかったというか、ある意味で期待していた通りというか。エルサルバドル代表との6月シリーズ初戦を前にして、堂安はすでにギラギラ感を全開にしていた。
「個人的なプランではカタールワールドカップで活躍して、みなさんに認められるような『10番』になりたいと思っていた。なので、想定内と言ったらあれですけど、思い描いた通りにこうして『10番』をつけさせてもらっていますけど、だからといって何も言えない堂安律は嫌なので。これからも変わらずに伝えたいことは伝えたいと思うし、媚びない『10番』でいたいと思っています」
ウルグアイ代表と1-1で引き分け、コロンビア代表には1-2と逆転負けを喫した3月シリーズ。ともに[4-2-3-1]システムの右サイドハーフで出場した堂安が発した言葉が異彩を放った。
堂安は「決してJリーグを批判しているわけではないんですけど」と前置きした上で、ボール保持率を高めるスタイルが半ば目的と化していた試合内容に、語弊を恐れずに苦言を呈していた。
「僕にはJリーグのサッカーっぽい戦いをしている感覚があった。ヨーロッパはもっと縦に速く、相手ゴールに向かっていくサッカーをしている。優先順位を間違ったらいけない。今回の代表はちょっと静かな感じがする。なあなあではダメだし、先輩たちが背中を見せてくれたように、コミュニケーションをもっと多く取って意思疎通を図っていかないと。僕は危機感を感じている」
縦に速い攻撃が具現化したエルサルバドル戦のゴール
6月シリーズでは一転して、森保監督は活動初日から[4-1-4-1]を採用した。[4-3-3]とも表現できるシステムで、ウイングは左に三笘薫、右には久保建英や伊東純也と個の力で局面を打開できる選手が配置された。
アンカーの前方で左右に並ぶインサイドハーフの右を任された堂安は、ウイングの近くで攻撃の組み立てに関わる仕事ではなく、1トップの近くでゴールに絡んでいく仕事を自らに課した。再びカタールワールドカップの記憶が呼び起こされる。大会総括として、堂安はこう語っていたからだ。
「自分がミッドフィルダーだと思っていない。この大会であらためて思ったのは、自分はゲームメイカーではなくフィニッシャーなんだ、と。そう考えれば自分の新しいポジションも開拓できる」
エルサルバドル戦の44分。堂安が何度も必要性を唱えてきた、縦に速い攻撃が具現化された。
1トップの上田綺世がポストプレーから左サイドに展開。三笘がドリブル突破を仕掛け、右サイドを久保がフォローした展開で、堂安も真ん中のコースを駆け上がっていく。そして三笘がカットインから放った強烈なシュートを、相手キーパーが何とか弾いた直後だった。
ゴールライン上で弾んでいるボールに対して、堂安がさらに加速しながら詰めていく。そして、相手キーパーが体勢を立て直し、ボールをかき出そうとアクションを起こした刹那に押し込んだ。
歓喜の抱擁をかわした三笘に「ごめん」とゴールを奪った形になった展開を謝り、試合後の取材対応ではメディアに「これでみなさんに、ワールドカップ後でいまだノーゴールとは書かれませんね」とジョークで切り出した堂安は、胸を張って代表通算6ゴール目を振り返っている。
「ショートカウンターっぽい展開から自分も背後に抜けていったなかで、ごっつぁんと呼ばれるようなボールがこぼれてくるのは意識していました。ただ、ボックスのなかに入ったからこそ、あのゴールが生まれた。おいしすぎましたけど、決してラッキーではないと思っています」
「自分にしか出せない『10番』の色を出していきたい」
エルサルバドル戦から一夜明けた16日。堂安は25歳の誕生日を迎えた。
新天地フライブルクでの公式戦でゴール、アシストの両方で2桁を目標として掲げた昨シーズン。ブンデスリーガ1部で5ゴール4アシスト。UEFAヨーロッパリーグやDFBポカールを合わせても7ゴール5アシストと目標に届かなかった堂安は、個人的には「まったく満足していない」と総括した。
「日本では僕は『決定力がある』と思われているかもしれないけど、ヨーロッパでは逆に決定力のなさが課題として出た。もっともっと質を上げていかなければいけないと思っています。まあ24歳のシーズンは自分的にはかなり……うーん、頑張ったとは言えないですけど、少なからず名前を残せたとは思う。僕はいつも自己ベストを狙っている。昨シーズンよりも新シーズン、といった感じで意識しているので、昨シーズン以上となると、やはり代表で『10番』をつけて結果を残すことですね」
歴代の日本代表の「10番」は、中村俊輔が24ゴール、香川真司が31ゴール、前任者の南野拓実も17ゴールをあげている。そうした数字はもちろん知っている。堂安はその上で「チームを勝たせる選手が『10番』だと思う」と持論を展開する。
「自分にしか出せない『10番』の色を出していきたい。いままで背負ってきた拓実くんや真司さん、中村俊輔さんの真似じゃなくて、自分、堂安律にしか出せない色ですね。本当にありがたいプレッシャーだし、日々戦いながらの代表活動になると思うけど、こんな幸せなキャリアはない。敵は自分だと思っているし、自分に勝てれば必ず結果は出る。そこにフォーカスするだけですね」
今シリーズで「20番」を背負った久保が、エルサルバドル戦後にこんな言葉を残している。
「自分がつけたかった『10番』が無理だったので、だったら他の番号ならどうでもいいかな、と。誰もつけないかなと思った『20番』でいった感じですね」
東京五輪を含めた世代別代表で、これまでに何度も共演。ともに左利きのアタッカーとして切磋琢磨してきた久保から届けられた、代表の「10番」をめぐる挑戦状を堂安は嬉しそうに受け止めた。
「日本代表の『10番』は全員が目標にするものなので。建英だけじゃなくてすべての選手が求めてきてもいいと思っていますし、そのなかで第三者の方々に評価してもらえるものだと思うので。僕も今回から『10番』をつけさせてもらっていますけど、これを守りにいくのではなくて強気な姿勢で、攻めていくような『10番』でいたいと思っている。個人的には『10番』をつけたことではなくて、『10番』をつけて出した結果を評価してほしい。そのなかで長期的に背負っていくのが自分の理想です」
遠藤航から託されたペルー戦のキャプテンマークに込められた思い
ベンチスタートから71分に投入された20日のペルー代表戦。ガンバ大阪時代に慣れ親しんだパナソニックスタジアム吹田のピッチ上で、想像もしなかったサプライズが堂安を待っていた。
日本が81分に獲得した右コーナーキック。キッカーを務める堂安を、お役御免で交代を告げられていたキャプテンの遠藤航が呼び止める。何かと思って振り返った堂安にゆっくりと歩み寄った遠藤は、左腕のキャプテンマークを外して堂安の左腕に巻いた。
実は前田大然が4点目を決めた75分。この後に交代でベンチに下がるときには堂安にキャプテンマークを渡してほしいと、森保監督から打診されていた遠藤が打ち明ける。
「僕がいないときには監督もいろいろな選手にキャプテンマークを巻かせて、いろいろな選手にチームをまとめていく姿勢を見せてほしいという意図があるので」
ゲームキャプテンとはいえ、9分あまりにわたってピッチ上のチームメイトたちを束ねる役割も託された堂安は、背中に続いて左腕にも「重たいものを感じました」と試合後に振り返っている。
「試合後にも森保さんと少し話もさせてもらいました。森保さんの粋な計らいなのかどうかはわからないですけど、このスタジアムでキャプテンマークを巻けたことは感慨深いものがありますよね」
さらに難敵と思われていたペルーに4-1で快勝。エルサルバドル戦を含めた2戦合計10発のゴールラッシュで、連勝で締めた6月シリーズを「攻撃に迫力が出てきた」と総括している。
「今日のゴールもほとんどがショートカウンター気味だった。いまの時代、きれいに崩して点を取るのはヨーロッパでもほとんどない。その意味では迫力ある展開で、4点を取れたのはよかった」
24歳のラストマッチから「10番」を託され、25歳になった初陣では遠藤を支えるチームリーダーの一人として認められた。日本がまだ見ぬワールドカップのベスト8以降の景色を見すえながら、カタール大会直後に誓った「エース」と「リーダー」へ、堂安は一気に近づこうとしていている。
<了>