「川崎フロンターレの13位」は欧州ではあり得ない現象 凋落の原因は火を見るより明らかだ
川崎フロンターレが前節(第7節)戦ったガンバ大阪は、開幕以来6戦勝ちなし。16位に沈む元気のないチームだった。第5節まで勝ち点5(1勝2敗2分)で14位と、スタートダッシュに失敗した川崎は、第6節で北海道コンサドーレ札幌に逆転勝利を収めたその余勢を駆り、不振のG大阪を下し上昇気流に転じるだろう。少なくとも川崎ファンはそう信じていたはずである。
【画像】川崎フロンターレほか2023 J1全18チーム序盤戦フォーメーション だが、川崎は大方の予想を覆しG大阪に2-0で敗れてしまう。第7試合を消化した時点での13位という順位は、2013年シーズンの14位に次ぐ悪い成績だ。同シーズンはしかしそこから立ち直り、最終的には3位に食い込んでいる。先を行くサンフレッチェ広島、横浜F・マリノスを猛追。終盤、大きくまくって見せ場を作った。
現在のチームにその再来を望むことはできるのか。
川崎がJ1初昇格を果たしたのは2000年だ。1シーズンで降格すると、そこから4シーズンJ2暮らしを強いられた。2005年に再昇格。そこから昨季までの18年間、降格していない。最低順位は2011年の11位で、他はすべて一桁台だ。トップ5を外したシーズンも2011年を含めて5度しかない。直近の6シーズンでは4度優勝を飾っている。常勝軍団の異名をとるのは鹿島アントラーズだが、最近の勝率で勝るのは断然、川崎だ。
Jリーグの盟主といっても過言ではないチームが、開幕して7試合を消化した段階ながら13位に沈む。たとえば欧州ではあり得ない現象である。このような事態に陥る原因はどこにあるのか。
それを紐解くことは難しくない。ひと頃に比べると、さびしいと言わざるを得ない選手の顔ぶれを見れば一目瞭然だ。守田英正、三笘薫、田中碧、旗手怜央の日本代表クラス4人が2020年、2021年の2シーズンの間にチームを去り、欧州へ渡った。その代わりにやってきたのはジョアン・シミッチ、マルシーニョ、チャナティップ、橘田健人らになる。
川崎はさらにこの間、中村憲剛が引退。中盤のエースに昇格したかに見えた大島僚太も、ケガで満足に活躍できなくなった。
【退団選手と加入選手のバランスの悪さ】
昨季をもってチームを離れた谷口彰悟の代役として獲得したのは大南拓磨だ。評価するならば中の上。高い経験値を備えた谷口を超える選手ではない。戦力ダウンを最小限に止める補強だった。放出した選手と加入した選手のプラスとマイナス関係を相殺すれば、マイナスであることは明白だ。
右SBとして2017年、2018年シーズンに連続してリーグのベスト11に輝いたエウシーニョが、翌2019年シーズン、チームを去った時、そこがそのまま穴になった。4位で終えた大きな原因とされた。だがその翌年の2020年シーズン、湘南ベルマーレから獲得した山根視来がハマり役となると、川崎は再び上昇。2020年、2021年シーズンを連覇した。それこそが最大の要因となった。
だが、それが代役獲得の最後の成功例となった。以降、出ていった選手と加入した選手のバランスは悪化の一途を辿る。ここ1、2年は特に目に余る。 他チームに追い越されたと言うより、過去の自チームに遅れを取っている。傍目から容易にわかるほど、かなり大きく、だ。
最後の優勝となった一昨季あたりから、現在の姿は読めていた。やりくり上手な鬼木達監督の采配で、なんとか持ちこたえていたが、ここにきてそれも限界に達したようである。神通力もここまで、という感じである。
川崎の現状にそれほど驚く気は湧かない。来るべき時が来たという印象だ。何よりクラブの首脳陣のやる気が伝わってこない。川崎には優勝賞金に加え、2017年から始まったDAZNマネーによる分配金も入っている。先述の4人が欧州に渡った際に発生した移籍金も少なからずあるはずだ。Jリーグの盟主であり、お金持ちクラブでもあるのに、選手の獲得に消極的。この矛盾、バランスの悪さ。繰り返すが、欧州ではあり得ない話だ。
欧州にはチャンピオンズリーグ(CL)がある。国内リーグを制すれば、欧州を舞台にそれ以上の相手との戦いが待ち受ける。金額的には本大会出場を決めただけで1560万ユーロ(約21億円)が各クラブの懐に入る。グループリーグ1勝につき280万ユーロ、引き分け93万ユーロ、ベスト16進出で960万ユーロと続き、優勝すれば最大で計8510万ユーロ(約120億円)を手にすることができる。
【ベストメンバーがわからない】
かたやアジアチャンピオンズリーグ(ACL)は、近年、賞金が急増していると言っても、優勝チームで最大500万ドル(約6億5000万円)に届かない。Jリーグ優勝の先に特段明るい未来が待ち受けていない。経営者には妙味があるように映らない可能性がある。2017年にACLを制した浦和レッズ、2018年にACLを制した鹿島アントラーズの、その後のパッとしない戦いぶりからも、前向きになれない様子がうかがえる。
川崎の話に戻れば、今季は選手のケガが輪をかけた。前述した大島だけではない。得点源のレアンドロ・ダミアン、小林悠、守備の要ジェジエウ、左SBの登里享平、左SB兼CBの車屋紳太郎……と、枚挙にいとまがない。
ベストとおぼしき11人がスタメンを飾る機会がない。そうこうしているうちに誰がベストなのかわからなくなっている。それが高次元の話なら、競争が激しいという話になるが、川崎のような低次元の場合は危ない。チーム崩壊寸前の状態を指すのではないか。ここまで多くの選手がコンディションを崩すチームも珍しい。
むしろここまで堪えてきた鬼木監督に拍手を送りたい気分だ。最後の2回の優勝は鬼木監督でなければ果たせなかったものと考える。鬼木監督にはよりよい環境で采配を振らせいたい(たとえば日本代表監督とか)と考えるのは、筆者だけではないはずだ。川崎の監督を今季このままやり続け、5位以内の成績でフィニッシュさせたら、まさにスゴ腕だ。
川崎がこれからどこまで巻き返すか。さまざまな意味で目を凝らしたい。