パリ世代欧州遠征で“アピール成功の7人”は誰? 大岩監督が「その場凌ぎになってはいけない」と語ったベルギー戦の“深い思惑”
お遊びではなく、いかに本番を想定して臨めるか――。
3月27日のU-21ベルギー代表(23歳以下のチーム)戦後に行われたPK戦のことである。
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カタールW杯のラウンド16でPK戦の末にクロアチアに敗れると、日本サッカー協会の反町康治技術委員長はPK戦強化の方針を打ち出した。
そこで今回、6月にU-21欧州選手権を控えるベルギーとの思惑が合致してPK戦が実行されたわけだが、ベンチ前の選手が「パネンカ! (チップキック)」と叫ぶなど、緩んだ雰囲気のベルギーに対し、日本の選手たちは真剣そのものだった。
「試合に負けてしまったので(●2-3)、ここは絶対に勝とう、と話して入りました。あいつら調子に乗っているから、ここで黙らせてやろう、と」
そう振り返ったのは、この日キャプテンマークを巻いた横浜F・マリノスの藤田譲瑠チマである。
先攻のベルギーは1人目(なんとGK)と5人目が枠外となるミス。一方、日本は3人目の山田楓喜(京都サンガF.C.)こそ相手GKのセーブに遭ったが、山本理仁(ガンバ大阪)、細谷真大(柏レイソル)、西川潤(サガン鳥栖)、藤田の4人がネットを揺らした。
ベルギー戦、後半が興味深かった理由
それにしてもこのベルギー戦、とりわけ後半は興味深いゲームとなった。
前半、3-4-2-1のベルギーに対して4-3-3の日本は噛み合わせのミスマッチを突かれ、攻撃でも守備でもほとんど何もできないまま2点を先攻された。この先、何点取られるのかと心配になるほど、一方的な展開だった。
そこで日本は後半、各々のマークする相手をはっきりさせるため、FC東京のセンターバック・木村誠二を送り出して3-4-2-1に変更する。
ところが、ベルギーはハーフタイムを挟んで4-3-3に変えてきた。すると、藤田が「4-3-3だぞ!」と叫び、3-4-1-2気味にシフトチェンジして相手のセンターバックとアンカーを封じにいく。 「(3日前の)チェコ戦でもベルギーは後半から4-3-3にしていたので、それも考えながら後半に入ろうという話はしていました」と藤田が明かす。
さらにボール保持時には両ウイングバック、V・ファーレン長崎の加藤聖とデュッセルドルフの内野貴史が高い位置を取り、ベルギー攻略を狙う。
「誠二が入って3枚にしたんで、『3-2-5みたいなイメージでやろう』と譲瑠と話していたんです」
後半からピッチに立ったボランチの山本が説明する。
「譲瑠とは(東京)ヴェルディ時代に3-2-5のフォーメーションでやっていたことがあるんで、ハーフタイムに『2人でスライドしながら、受けられるほうが受けて』みたいな感じで話していた」
その後、ベルギーが4-4-2気味に変更すると、日本も4-4-2のようにして対抗していく。このあたりの対応力は見事だった。
その際、キーマンのひとりとなったのが木村である。本来はセンターバックの選手で、後半から3バックの左に入ったが、擬似左サイドバックのような働きを見せる。左サイドからボールを持ち運んだり、ハーフスペースを駆け抜けたり、新境地を開拓するようなプレーだった。木村が振り返る。
「普段はドリブルをしないからどうしても不慣れで、落ち着きがないところがあった。慣れないことをやるときはミスをしないようにしながらも大胆に。メンタルの準備が大事だと思うし、普段から足もとの技術を磨いていけば、もっとやれると思う」
半に盛り返した要因と、現状での差
後半に日本が盛り返した要因として、メンバー交代をしたベルギーが前半よりもクオリティを下げたことは否めない。また、最後にミスが絡んで決勝ゴールを献上したのはいただけないが、佐藤恵允と鈴木唯人のゴールでいったんは追いついた反発力と対応力は、一定の評価を与えていいだろう。
だからこそ、前半の不出来がもったいない。
前半における日本とベルギーの大きな差――。
それは「ビルドアップの差」と言えるかもしれない。
3バックの選手がドリブルでボールを持ち運ぶことで日本の選手を食いつかせ、パスコースを次々と生み出していくベルギーに対し、日本はセンターバックがボールを運べないからマークのズレを生めず、パスコースを作れない。
その結果、バックパスをするか、近くの選手に預けることしかできなくて、攻撃が行き詰まる。
もっとも守備陣からすれば、ボールを運んで相手に食いつかれたとき、必ず味方がパスコースに顔を出してくれるという“心理的安全性”が担保されないからリスクに感じる側面もあるだろう。 チーム全体でボールの持ち運びの意識と理解を高め、ビルドアップの“設計図”を共有することが、今後のテーマと言えそうだ。
大岩監督が考え、語っていたこととは
ベルギーの巧みなビルドアップによって数的不利を突きつけられた結果、皺寄せを受けたのが右サイドバックの中村拓海(横浜FC)だった。
相手の左シャドーと左ウイングバックの両方を見る形となり、後手に回り続けると、31分に守備力の高い内野と交代になってしまった。
ハーフタイムを待たずに3-4-2-1に変え、マークをはっきりさせればいいのに、と思わずにはいられなかったが、指揮官にも思惑があった。
今シリーズが始まる前、相手チームへの対策と自チームへのコンセプトの落とし込みの割合について、大岩剛監督はこんなことを語っていた。
「今回の強化試合では、バランスは自チームの割合のほうが多いと思います」
さらに、ベルギー戦後にはこう明かした。
「我々にもプランがあった。後半、立ち位置を変えてやりましたが、あれはあくまでもオプション。その場凌ぎになってはいけない。もちろん我々スタッフも『こういう場合もあるよね、ああいう場面もあるよね』とシミュレーションをしましたが、今日は新しい選手が何人も出ていたので、我々のプレーモデルや原則ありきのアプローチだった。だから、拓海が悪いわけではない。こちらの責任。気にするなと伝えました」
つまり、少なくとも前半は相手に合わせるのではなく、プレーモデルや原則の浸透を確認したかったということだろう。
各ポジションで好パフォーマンスを見せた選手は?
今回の欧州遠征で好パフォーマンスと感じられたのは、鈴木彩艶、木村誠二、山本理仁、川﨑颯太、山田楓喜、佐藤恵允(明治大)、細谷真大といったところだろうか。
ドイツ戦で先発したGK鈴木彩は浦和レッズでは今季、カップ戦でしかゲームに出られていないが、試合勘のなさを感じさせないプレーを披露した。
センターバックでは前述の木村のプレーが光ったが、木村、西尾隆矢(セレッソ大阪)、鈴木海音(ジュビロ磐田)のいずれも所属クラブで出場機会を掴めておらず、U-20代表の田中隼人(柏)やチェイス・アンリ(シュツットガルト)も含め、ポジション争いは混沌としている。
中盤では川﨑、山田の京都勢が普段のJリーグと変わらぬプレーを見せた。「個で潰し切れたシーンがあった」(川﨑)、「どれだけ体をぶつけられてもキープできた」(山田)と自信を深めたようだ。
G大阪で少しずつ出番を増やしている山本はドイツ戦、ベルギー戦ともにパスを散らしながら、時おり繰り出す縦パスで攻撃を加速させた。クラブではネタ・ラヴィ、ダワンと高い壁がそびえるが、「(半田)陸のようにガンバでポジションが取れれば、A代表も狙える」と意気込んでいる。
センターフォワードに関しては、柏の前線を張る細谷に対抗しうる選手が見当たらない。今回、負傷の影響で選出されなかったスコットランド・ハーツの小田裕太郎はスピードが武器のウインガータイプ。U-20アジアカップで活躍したFC東京の熊田直紀が食い込んでくることを期待したい。
「世界基準を遠征のたびに知ることができている」
6月のU-21欧州選手権に向けて準備を進めるチームとの2連戦は、パリ五輪を目指す若い日本代表選手たちに大きな刺激を与えたようだ。
それは、例えば、藤田のこんな言葉からも窺える。
「ベルギーの8番(アステル・ヴランクス)は本当にレベルが高かった。彼はミランで出ている選手。そういう世界基準を遠征のたびに知ることができているので、本当に貴重だと思っています」
世界基準を体感し、再び所属クラブでの戦いが始まる。次の海外遠征は6月、イングランドとの対戦が予定されている。そのときまでに、どれだけの選手が自チームでポジションを奪い取っているだろうか。