驚愕したガンバの新スタジアム。 募金140億円で作った“手づくり感”。 NumberWeb10月30日(金)10時40分配信

大阪・万博記念公園スポーツ広場内、ガンバ大阪のクラブハウス真横に噂の「市立吹田サッカースタジアム」はある。

10月10日に竣工式を終えたばかりで、筆者が訪れたこの日もどこかの視察団が訪れていた。

噂。

関西に住む馴染みの記者仲間から聞いていた。

「サッカーを観るなら最適やと思うで」「プレミアリーグのスタジアムみたいですよ」

まるで彼らの持ち物かのように自慢していたが、実際に目にしてみて「うわーっ」と思わず声を挙げてしまう自分がいた。

タッチラインまで7m、高低差は150cmしかない。

4万人収容のサッカー専用スタジアム。

何が驚いたかって、とにかく観客席からピッチまでが近い。

距離はタッチラインまで7m、ゴールラインまで10m。それも観客席の最前列からピッチまでの高低差は150cmしかない。プレミアにも引けを取 らないほど、プレーヤーに近い目線で試合を楽しむことができる。選手たちの声も聞こえるだろうし、表情もよく見えるはず。サッカー専用スタジアムの利点を 活かし、ガンバ大阪の「攻撃サッカー」同様、攻めたつくりになっている。

梅本祥子広報担当はこのように説明する。

「ゲームの臨場感や選手、サポーターの一体感を味わえるスタジアムにしたいというのがクラブの思いでした。観客席から簡単に飛び降りられる高さかもしれませんが、そこは観客のみなさんのモラル意識の高さなども頭に入れたうえで、ギリギリの距離、高さで行きたいと」

すり鉢場の客席は見やすい角度に設定され、大きなビジョンも設置されている。座席部分は雨で濡れないように屋根で覆われ、スタンド中段には場内を1周できるコンコースもある。Wi-fiフリーの通信環境もありがたい。観客目線に立つことにこだわっている。

欧州14カ所を視察した“いいとこどり”の設計。

そしてもう一つの大きな売りが「エコ」だ。

屋根に設置されたソーラーパネルが電力を補い、照明にはLEDを使用。雨水タンクを設け、トイレ洗浄に利用するという。ピッチ管理を考えて、通気性の良いつくりにもなっている。なるべくコストを抑えられるようにという工夫が見えてくる。

ガンバの担当者や施工担当者が欧州のスタジアムを計14カ所、視察してきたうえでの設計。特にモデルはなく、“いいとこどり”のオリジナルだ。ま たクラブハウス機能もスタジアム内に移設され、トレーニングルームやミーティングルームなどもある。練習グラウンドは隣接しており、スタジアム、クラブハ ウス機能、事務所機能を一カ所に集中させているのも理想的だと言える。

災害時には防災拠点ともなる。備蓄倉庫機能を持ち、部屋数も多い。トイレ、風呂、シャワーの設備は地震などが起こった場合にも近隣住民に役立てるよう考えられている。

募金140億円で完成した、という事実。

と、ここまでいろいろと書き連ねてきたが、この魅力的な新スタジアムが募金140億円で完成しているということを忘れてはならない。

観客目線に立った施設の充実が優先順位の一番。とはいえ、トップチームへの愛情もしっかりと刻まれていた。選手たちにガンバの誇りを持って戦う意 識を持たせる意味もこめて、ホームの試合用ロッカールームにはこだわったという。円形の部屋にして間接照明の入るつくり。個々のロッカーも格調高い木目調 だ。だがその一方、コスト削減のためにクラブハウスの内装はコンクリートの打ちっぱなしにしている。

デザインよりも機能性、利便性。オカネを使うところと使わないところのメリハリに手づくり感があった。

寄付者のネームプレートがスタジアム内に。

140億円を大切に使うというスタンス。

1回の申し込みで5万円以上の寄付者に対して、ネームプレートを用意してスタジアム内に飾られるという。

募金活動は決して簡単ではなかった。

「(募金活動の)1期で集めることが目標だったんですけど、(1期に)集まったのは約78億円でした」と梅本広報は言った。

クラブスタッフたちはあちこちでパンフレットを配った。試合の来場者、クラブのショップ、パートナー企業、行政や商工会議所などの会合……様々なところに顔を出しては、一人ひとりに熱心に説明して、協力を求めた。

「お孫さんの名前をネームプレートで残しませんか」

「新スタジアムを大阪、関西の活性化につなげたいんです」

2期、3期でようやく募金の輪が広がってきた。それでもまだ6、7億円足りなかったという。そんな折、後押ししたのが他ならぬトップチームであった。

ガンバの3冠獲得で一気に広まった募金活動。

J2から復帰した昨シーズン、リーグ制覇のみならず、ヤマザキナビスコカップも天皇杯も制して3冠を達成してみせたのだ。

チームの活躍が新スタジアム設立を世間に広く認知させ、寄付の輪をさらに広げる形になっていった。

「募金していただいた、協力していただいたみなさんのおかげです。スタジアムをつくりたいという思いがあればできる。ガンバ大阪がもし、そういう道をつくれたのであれば、とてもうれしいですね」

梅本広報は、そう言葉に力をこめた。

大規模再開発で、観客動員も増えるか。

ガンバは吹田市から指定管理者に任命され、約48年という長期契約を結んだ。この意味は非常に大きい。契約が短期間だと大型の設備投資は難しくなる。長期に及ぶことで積極的なスタジアム事業も可能になるからだ。

新スタジアムの周辺は大掛かりな再開発に着手していて、大型商用施設も建設中。昨シーズンにおけるガンバ大阪の1試合平均観客動員数は1万 4749人。新スタジアムで戦う来シーズン以降、2倍以上の観客を集める必要があるためにこれからが本当の勝負になってくる。商用施設に集まる人々を呼び 込んでいかなければならない。

観客の満足度を上げていくアイデアの具体化や、行政とタッグを組んで観光の目玉に置いてもらうような働きかけも始まっている。

ガンバ大阪の熱意、クラブを応援する人々、行政の協力……全員で完成させた手づくりの新スタジアムは新シーズン前の来年2月にこけら落としが予定されている。

ピッチまでの距離が近いばかりじゃない。

選手、クラブとの距離もグッと近く感じる、そんなスタジアムである。

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