開幕へ向け好感触なのは? “戦力ダウン”気になるチームも【J1ストーブリーグ通信簿2023】
2023年のJリーグのシーズン開幕まで残りわずか。J1は2月17日に川崎対横浜FMの開幕戦が行われ、12月3日の最終節まで全34節にわたる長丁場の戦いが繰り広げられる。その熾烈な戦いを前に、J1全18クラブの「今オフの補強」を査定して5段階(良い方からA・B・C・D・E)で評価したい。今回は横浜FM、横浜FC、湘南、新潟、名古屋、京都の6チーム。
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■横浜FM「E」
ディフェングチャンピオンとして臨む新シーズン。誰が出場してもチーム力が落ちない総合力の高さが武器だったが、今オフの「IN&OUT」を見る限り、低下は明らかだ。
昨季J1のMVPにも選出された岩田智輝を筆頭に、昨季チームトップタイの11得点を挙げたレオ・セアラ、7得点6アシストと復活した仲川輝人、さらに不動の守護神GK高丘陽平も離脱。その代わりにゴール前の駆け引きに優れた21歳のFW植中朝日(←長崎)、右サイドで爆発的なスピードとドリブルが武器の井上健太(←大分)、CBと右SBでプレーできる上島拓巳(←柏)を獲得した。
その他、左右両足からのシュートで高い決定力を持つFW村上悠緋(←関東学院大)、ユース出身で高いボール奪取力が魅力のボランチMF木村卓斗(←明治大)の大卒新人2人を獲得し、GK白坂楓馬(←鹿児島)、MF榊原彗悟(←ラインメール青森)をレンタルバック。高丘の退団が決定的になったことで急遽、GK飯倉大樹(←神戸)の加入も決まった。
新加入の面々が成長することで将来的にはプラスに転じる可能性はあるが、現時点では“金銀飛車角落ち”のオフと言える。それでも優勝を狙える戦力は有していることはローテーションシステムの賜物ではあるが、他クラブとの戦力差は間違いなく縮まった。
■横浜FC「B」
新加入選手21人に退団者19人。J1復帰を果たした中で大幅に選手を入れ替えた。
その中での注目は、運動量豊富なボランチMF三田啓貴(←FC東京)、優れた足元の技術を持つMF井上潮音(←神戸)、切れ味鋭いドルブルが武器の坂本亘基(←熊本)、左サイドから高精度のクロスを送る橋本健人(←山口)、フィジカル自慢のCBンドカ・ボニフェイス(←東京V)といった面々。いずれもレギュラー、あるいはレギュラー争いに加われる。
その他、新外国人として高いボール奪取能力を持つMFユーリ(←ヴァスコ・ダ・ガマ)、左利きのアタッカーで10番を背負うことになったカプリーニ(←ロンドリーナ)らを獲得。DF林幸多郎(←明治大)、MF近藤友喜(←日本大)らの大卒即戦力組とU-18代表で成長が楽しみなCBヴァン・イヤーデン・ショーン(←横浜FCU-18)らの昇格組にも期待。レンタル復帰のFW小川慶治朗(←FCソウル)にも注目したい。
退団者リストには、現役から退いた中村俊輔や元日本代表のFW渡邉千真らの名前があるが、ほとんどが昨季控えだった選手たちであり、戦力的には間違いなく底上げされた。課題は選手が大幅に入れ替わったことによる連携面、チーム戦術の落とし込みになるが、昇格初年度から旋風を巻き起こすためには、これぐらいの大幅入れ替えがあっていい。四方田修平監督の腕の見せどころだ。
■湘南「C」
残留争いに巻き込まれながらも収穫も多かった昨季から、オフは必要最低限ながら効果的な補強を行なった。
注目は小野瀬康介(←G大阪)。スピード抜群のドリブル突破でチャンスを作るアタッカー。2019年にはJ1で8得点をマークするなど得点力もある。G大阪を契約満了となっての移籍。まだ29歳。サイドバックもこなせる器用さを持つが、中央の攻撃的MFでの起用が濃厚だ。その他、新人では吉田新(←立正大)と柴田徹(←早稲田大)の大卒2人を獲得。吉田は左、柴田は右のウイングバックとしてレギュラー争いに加わる可能性がある。
退団者リストには、ウェリントン、瀬川祐輔のFW陣、左サイドの高橋諒、アンカーの米本拓司、そしてGK谷晃生の名前があるが、FWには山下敬大(←FC東京)、中盤には永木亮太(←名古屋)が復帰。GKには谷と同じく東京五輪で正GKといて活躍し、カタールW杯でもメンバー入りした韓国代表のソン・ボムグン(←全北現代)の獲得に成功。それぞれ退団者の穴埋めとして獲得し、チームとしての体裁を整えた。
レンタル移籍の立場だった阿部浩之と杉岡大暉を完全移籍に切り替えられたのは朗報だが、戦力的には現状維持か。プラスでも「ほんの少し」という評価だ。
■新潟「D」
昨季のJ2王者。6年ぶりのJ1舞台となるが、オフの補強は最低限にとどめ、J2を戦ったメンバーとともに、これまで培ってきたサッカーで勝負するつもりだ。
その中で新加入は4人。注目は、爆発的なスピードで右サイドを切り裂きながら左右両足から強烈なシュートを放つ太田修介(←町田)だ。昨夏に“至宝”本間至恩が海外移籍し、高木善朗が長期離脱している中、昨季J2で11得点7アシストの活躍を見せた太田が、三戸舜介、伊藤涼太郎とともに2列目から積極果敢にゴールを狙う。
加えて、左右のサイドバックでプレー可能で昨季は徳島で活躍した新井直人(←C大阪)を獲得し、残り2人は22歳の大型FWグスタボ・ネスカウ(←クイアバ)と24歳の左利きサイドアタッカーのダニーロ・ゴメス(←ポンチ・プレッタ)の若手ブラジル人。昨季からの「継続」を謳っているとはいえ、補強に関しては物足りない。
ただ、主力が軒並み残留したことで昨季戦力からマイナスにはなっておらず、チーム成熟度はアップする。あとはJ2で常にボールを保持していた戦い方が、J1舞台で通用するかどうか。大量に選手を入れ替えた横浜FCとは対照的なオフを過ごしたことで、「どちらが正解か?」という“昇格シーズンの戦い方指南”の行方にも注目したい。
■名古屋「C」
長谷川健太体制の勝負の2年目。昨季の失点数は優勝した横浜FMと並んでリーグ最少。退団者の穴埋めをしながら、課題の得点力アップのためにも動いたオフだった。
最注目はキャスパー・ユンカー(←浦和)だ。抜群のスピードと得点感覚で来日直後にゴールを量産して話題をさらったストライカー。故障明けの昨季はリーグ戦出場21試合と出番が限られたが、それでも7得点はさすが。コンディションさえ整い、維持できれば、新天地でも間違いなく多くのゴールを奪ってくれるはずだ。
その他、中盤ではアンカー役、フィルター役になれる存在としてMF米本拓司(←湘南)が復帰し、争奪戦にもなっていたMF山田陸(←甲府)を獲得。様々なポジションを高レベルでこなせる万能MF和泉竜司(←鹿島)の再獲得に成功。DF野上結貴(←広島)は3バックの右CBとして計算できる存在で、レンタル復帰となる21歳のターレス(←熊本)も成長が楽しみだ。
ただ、既定路線だったとはいえ、相馬勇紀の海外移籍でサイドの攻撃力は間違いなく低下。さらに吉田豊、宮原和也、レオ・シルバ、仙頭啓矢、柿谷曜一朗といった面々の退団も、心情的にも寂しいものがある。ユンカーの獲得成功で「B」評価にしていいが、退団者を考えて「C」評価にとどめたい。
■京都「D」
J1昇格1年目はプレーオフの末の残留。今季が「定着」へ向けて大事なシーズンになる中、オフに多くの選手を入れ替えた。
大きく変わるのが、最前線と最後尾。ファインセーブを連発して「神福元」とも称えられたGK上福元直人、夏場以降に失速も目立ちながらもエースとしてチームトップの9得点を挙げたピーター・ウタカが退団。その代わりに、高さとフィジカルが武器の大型FWパトリック(←G大阪)とオランダリーグで実績のあるスリナム代表GKヴァルネル・ハーン(←ヨーテボリ)を獲得した。
その他、荻原拓也が抜けた左サイドバックとして三竿雄斗(←大分)を獲得し、精度の高いクロスが魅力でプレスキッカーとしての能力も高い平戸太貴(←町田)、さらに中央で体を張れるポストタイプのFWとして一美和成(←徳島)と木下康介(←水戸)の2人獲得。そして大卒ストライカーの木村勇大(←関西学院大)は大きなポテンシャルを持っている。
大卒新人の福田心之助(←明治大)、ユースからの昇格組のDF植田悠太(←京都サンガU-18)とFW平賀大空(←京都サンガU-18)を含めて、新加入の数だけを見ると「大型補強」に値するが、その多くが退団者との“入れ替え”で戦力アップしたかどうかは疑問。若手の成長に期待したいが、守護神とエースが退団したことを考えると、高くは評価できない。
(文・三和直樹)



