移籍状況で今季戦力ダウン必至のJ1クラブを識者3人が指摘。現状維持や主力の流出で大丈夫か

移籍状況で見るJ1戦力ダウンクラブ

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このオフもJリーグは移籍が活発に行なわれているが、なかには効果的な補強がなく、主力も流出などで戦力ダウンが必至の心配なクラブもある。3人の識者に、移籍状況から戦力ダウンと見るチームを挙げてもらった。(※移籍情報は1月20日時点)

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【攻守のキーマンが抜けた京都はどうなるか】

戦力ダウンクラブ/京都サンガF.C.、アビスパ福岡、アルビレックス新潟

中山 淳(サッカージャーナリスト)

ここまでのところ、開幕前の補強状況によって大幅な戦力ダウンを強いられているチームは見当たらない。そうなると、下位に低迷しそうなのは、昨季の成績に加えて補強で戦力アップがあまりできていないチームになる。

その条件で3チームを挙げるとするなら、京都サンガF.C.とアビスパ福岡、そして昇格組のアルビレックス新潟になる。

昨季はプレーオフでのJ1残留となった京都は、FWピーター・ウタカが古巣でもあるヴァンフォーレ甲府に移籍した代わりに、ガンバ大阪からFWパトリックを獲得。ただ、パトリックが京都のスタイルにマッチするかどうかは微妙なところで、単純に得点力アップとは言い難い。

いちばん痛いのは、残留の立役者でもあったGK上福元直人が川崎フロンターレに引き抜かれたこと。その代役として獲得したオランダ人守護神のヴァルネル・ハーンが、上福元の抜けた穴を埋める活躍を見せられるかがカギになる。そのほかにも戦力の出入りは多く、そういう意味では、今季もチームの行方は曺貴裁監督の手腕にかかっている。

2年連続で残留を果たした福岡は、流出した戦力に対するピンポイント補強を実施。とくにサンフレッチェ広島に移籍したDF志知孝明とセレッソ大阪に移籍したMFジョルディ・クルークスの代わりに、DF亀川諒史を横浜FCから、MF紺野和也をFC東京からそれぞれ獲得するなど、大幅に戦力ダウンしたわけではない。

逆に言えば、予算的な部分も含めて現有戦力をベースに戦うのが基本のチームだけに、今季もボトムハーフでの戦いを強いられる可能性は高く、目標は3年連続の残留だ。

一方、昇格組の新潟も、ここまで獲得したのはFWグスタボ・ネスカウとMFダニーロ・ゴメスを含む4人のみ。

昨季のチームをベースに戦う構えで、とくに新戦力ブラジル人の2人がプラスアルファになれるかどうかが、残留に向けた最大のポイントだ。仮にフィットできなければ、残留争いに巻き込まれる可能性は十分にあるだろう。

【神戸はネームバリューのあるメンバーだが……】

戦力ダウンクラブ/ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、アビスパ福岡

小宮良之(スポーツライター)

移籍状況と関係なく、J2からの昇格組と、昨シーズンJ1残留争いをしたクラブは、やはり戦力的に苦しい。ただ、アルビレックス新潟はプレースタイルを確立しているだけに、昇格の勢いを味方にすることができれば、いいスタートを切れるだろう。シーズンを通して考えると、戦力的には中盤戦以降で厳しくなりそうだが……。

「移籍状況から考察」

そのテーマに絞るなら、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、アビスパ福岡の名前を挙げたい。

神戸は、ここ最近は毎年、破格の補強で世間をにぎわせてきた貢献度は高かった。しかし今シーズンはプラスマイナスで、後者に転じた。「バルサ化」が夢の跡になったのは予想どおりだが……。

戦力的にほかのクラブと比べて劣っていることはない。FW大迫勇也、FW武藤嘉紀、MF山口蛍、DF酒井高徳は、ロシアW杯日本代表メンバーである。しかし、その陣容で降格回避の戦いになっていたし、監督も代わっていないのだ。

一つ言えるのは、コンディションがいい時のMFアンドレス・イニエスタはワールドクラスのプレーをまだ見せてくれるはずで、その30分間足らずでもスタジアムに足を運ぶ価値はあるだろう。

一方でガンバは、積極的な補強を敢行した。新たな指揮官にスペイン人のダニエル・ポヤトスを招聘。日本代表のGK谷晃生を湘南ベルマーレから復帰させ、次世代の日本代表を担いそうなDF半田陸をモンテディオ山形から獲得した。ロアッソ熊本から獲得した左利きアタッカー、MF杉山直宏も非常に有望なタレントだ。

しかし、そもそもポヤトスがそこまで選手の力を引き出し、シーズンを通して戦えるか。ガンバの予算規模で言えば、優勝争いが目標のはずである。そう考えると、スペイン国内ではユースのみの監督で、日本では徳島ヴォルティスをJ1から落とし、昨季はJ2から昇格できなかったポヤトスに実現できるのか。現時点では、不安材料のほうが多い。

福岡は、「パワー」で勝負するサッカーで功を奏している。2トップの山岸裕也、ルキアンは健在。ただ、クロスの供給減だったMFジョルディ・クルークス、DF志知孝明がそれぞれセレッソ大阪、サンフレッチェ広島に移籍した。

また、3番手のセンターフォワードとして貴重だったファンマ・デルガドも、V・ファーレン長崎へ移籍。ファンマはラスト3試合連続得点で残留に貢献するなど、勝負強さもあっただけに……。

キャンプを通じ、どのチームの移籍状況もまだ動く。今シーズンは戦力が拮抗。一人の補強で一転する可能性もありそうだ。

【昨シーズンの2強に上積みなし】

戦力ダウンクラブ/横浜F・マリノス、川崎フロンターレ、浦和レッズ

浅田真樹(スポーツライター)

まだ今季開幕前の移籍市場が閉じたわけではないとはいえ、現時点で最も移籍補強に物足りなさを感じるのは、昨季王者の横浜F・マリノスだ。  昨季MVPのDF岩田智輝を筆頭に、FW仲川輝人、FWレオ・セアラと、実力者がチームを離れた一方で、J1主力級の補強は、柏レイソルからDF上島拓巳を獲得するにとどまっている。

3季ぶりの王座奪還をきっかけに、さらなる豪華補強で最強軍団を盤石なものにしてほしいという期待を持っていたが、シーズンオフの動きはかなり控えめだ。

昨季の横浜FMは圧倒的な選手層の厚さを誇り、メンバーをうまく入れ替えながらJ1を制しているだけに、多少の戦力流出が大きなチーム力低下を引き起こすわけではないだろう。今季も間違いなく優勝候補のひとつではある。

とはいえ、あくまでも昨季との比較で言えば、戦力ダウンと考えるのが自然だろう。

同じことは、昨季2位の川崎フロンターレにも言える。

何より大きいのは、最終ラインの要であり、キャプテンでもあるDF谷口彰悟の海外移籍だ。言うまでもなく、単にレギュラーセンターバックがひとり抜けたということ以上に重大な意味を持つ戦力流出である。

近年、主力選手が相次いで海外移籍や引退で抜けていった川崎にあって、それでもこれだけの強さを維持し続けられたのは、谷口のリーダーシップによるところが大きかった。最後までチームを支え続けた大黒柱。そんなイメージだ。

もちろん、川崎には現有戦力に実力者が揃っており、ただちに成績が急降下するとは考えにくいが、圧倒的な強さでJ1を制した2020年シーズンをピークに、チーム力が徐々に下降線をたどっていることは間違いなく、そこに歯止めをかけられていないように見える。

いずれにしても、横浜FMも含めた昨季2強がさほど積極的な補強に動いていない以上、今季J1の優勝争いは面白くなるのではないだろうか。

そのほか、目立って補強に苦労しているクラブは見当たらないが、正直、判断が難しいのが浦和レッズだ。

FWキャスパー・ユンカー、MF江坂任が抜けた穴は決して小さくないばかりか、MF松尾佑介、DF岩波拓也も去就がはっきりしない状態にある。

しかも、現段階での移籍補強が活発とは言い難いうえ、マチェイ・スコルジャ新監督がどんなサッカーを志向するのかわからず、新外国人選手を含めた新戦力が、その方向性にかなったものなのかも見極めにくい。

ここ5年ほどは頻繁に監督が交代し、その度に目指すサッカーが変わり、選手が入れ替わってきたことを考えると、現状に不安がないわけではない。

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