J2リーグ補強動向から見る「勢力図」 清水&磐田の“2強”ではない?…群雄割拠の新シーズンを占う
【識者コラム】今オフの補強動向を踏まえ、新シーズンの勢力図を考察
2023シーズンのJ2リーグは群雄割拠になりそうだ。昨シーズンのJ1昇格クラブ数は自動昇格2枠に入れ替え戦の勝者を加えた2・5枠だったが、今シーズンは3位から6位の4チームによるプレーオフに勝利すれば、3枠目としてJ1に昇格できる。
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J1から降格した“静岡勢”の清水エスパルスとジュビロ磐田はもちろん、昨シーズン惜しくも昇格を逃した“プレーオフ組”のロアッソ熊本、ファジアーノ岡山、大分トリニータ、モンテディオ山形に加えて、伊藤彰監督が2年目となるベガルタ仙台、大型補強のV・ファーレン長崎などが、昇格候補として有力視される。
さらに青森山田高校で長く指導した黒田剛監督が就任のFC町田ゼルビアは元横浜F・マリノスのFWエリキやカタール・ワールドカップ(W杯)で得点を記録したオーストラリア代表ミッチェル・デュークなど、19人もの新加入選手とともに、昨シーズン15位からのジャンプアップを目指す。
戦力面で見るとJ1から降格した清水エスパルスが頭一つ抜けているようにも見えるが、GK権田修一、MF松岡大起、MF鈴木唯人、FWチアゴ・サンタナという契約未更新の選手を4人抱えながらスタートを切っている。DF立田悠悟、DF片山瑛一(ともに柏レイソル)、DF原輝綺(グラスホッパー)など、ディフェンス陣に移籍が多いのも不安材料ではある。
センターバック(CB)鈴木義宜を中心に、柏から加入したDF高橋祐治、DF北爪健吾、名古屋グランパスから加入したサイドバックのDF吉田豊など、J2ではハイスペックなタレントをゼ・リカルド監督がどう生かして、早い段階で守備を整備できるのか。契約未更新選手の去就がどうなろうと、総合力はJ2随一であることは間違いないが、ゲームコントロールの課題はあり、特に終盤のクロージングはJ2でも昇格の生命線になりそうだ。
一方、昨季J1最下位で降格となったジュビロ磐田はFIFA(国際サッカー連盟)の裁定により2023年の補強ができない。新体制発表会もユースから昇格したFW後藤啓介が、森保ジャパンのコーチだった横内昭展監督とともに1人で登壇したが、栃木SCでレギュラーCBとして活躍したDF鈴木海音など、レンタルバック組が穴を埋め、浦和レッズから期限付き移籍していたFW杉本健勇が、完全移籍で加入した。
元日本代表MFの藤田俊哉スポーツダイレクター(SD)の説得も奏功してか、ベテランのMF遠藤保仁など主力のほとんどがチームに残り、東京五輪のブラジル代表メンバーで金メダルを獲得したDFリカルド・グラッサも残留。結果的にはJ1で戦った昨シーズンを上回る陣容で、世界を知る指揮官とともに新しいジュビロを作っていくことになる。
昨シーズン3位の岡山、前線のパンチ力はJ2随一の可能性
しかしながら、清水と磐田が“2強”かというと決してそうではない。やはり昨シーズン3位の岡山はM・デュークこそ町田に移籍したが、ガンバ大阪からU-20日本代表FW坂本一彩が期限付き移籍で加入し、ジェフユナイテッド千葉からはパリ五輪の有力候補である大型FWの櫻川ソロモンも同じく期限付き移籍で加わった。昨季16得点のFWチアゴ・アウベスをはじめFWハン・イグォン、FW永井龍など、前線のパンチ力はJ2随一かもしれない。木山隆之監督はもともと守備の構築に定評のある指揮官なので、得点が昨年の61から70に乗ってくれば自動昇格の2位以内も見えてくる。
そこに続くのが仙台と山形か。仙台は昨シーズン途中からチームを率いた伊藤監督が2年目となり、本格的に可変性の高いスタイルを仕込んで臨んでいくはず。イン&アウトを見ると昨季11得点のFW富樫敬真がサガン鳥栖に移籍した代わりに、2020年の1シーズン在籍したMF山田寛人がセレッソ大阪から帰ってきた。フィニッシュに課題はあるが、前線でポイントを作る能力はJ2で規格外のものがあり、伊藤監督の戦術に打ってつけだ。さらにヴィッセル神戸から大型MF郷家友太が加入。1つきっかけを掴めば3年半後の北中米W杯に向けて、A代表を狙えるタレントも少なくない。
山形はピーター・クラモフスキー監督が3年目となり、いよいよ待ったなしのシーズン。MF山田康太という正真正銘の10番が柏レイソル、パリ五輪世代のホープであるDF半田陸がガンバ大阪へ引き抜かれたが、清水から実績抜群のFW後藤優介、昨年は岡山で主力を担ったサイドバックのDF成瀬竣平が名古屋から、横浜FCの昇格に貢献したDFイサカ・ゼインが川崎フロンターレから加入した。成瀬は五輪代表で半田に挑む存在という構図も興味深い。レノファ山口FCで中盤の主力を担ったMF田中渉はボランチもこなすが、山田にも代わり得る攻撃のタレントだ。
この2チームに続くのは下平隆宏監督が2年目となる大分トリニータか。中盤の軸だったMF下田北斗がライバルの町田に、後方からゲームを作る存在だったDF三竿雄斗が京都サンガF.C.に移籍するなど、いくつか“穴”になりうる移籍もあったが、MF茂平(←ブラウブリッツ秋田)、MF池田廉(←FC琉球)など、言ってみれば”玄人好み”の実力者が入り、下平監督のスタイルにフィットした現有戦力を含めて、スタイリッシュな陣容になった。
前線ではFW高澤優也(→町田)、FW呉屋大翔(千葉)が抜けたなかで、昨年の62得点を上回る得点力を出せるかは気になるが、22歳のブラジル人FWサムエルのさらなる成長や昨季23試合で8得点のFW長沢駿がフルシーズン稼働できれば、最低でもプレーオフには食い込んでくる力はある。
昨シーズン大躍進の熊本は主力の多くが流出も…若手アタッカーに期待
清水、磐田、岡山、仙台、山形、大分に続いて、昨季9位の東京ヴェルディ、10位の千葉、11位の長崎、そしてスペインのレアル・ソシエダで分析担当だったベニャート・ラバイン新監督を迎えた徳島ヴォルティスが上位争いに加わってきそうだ。とりわけ、FW柿谷曜一朗の徳島帰還は最大級のビッグニュースだ。名古屋ではハードワークを求められたが、より決定的な仕事に集中できるメカニズムを構築できればシーズン10得点10アシストする能力はある。
新鋭の濱崎芳己監督のもとでリスタートを切る水戸ホーリーホックも浦和レッズからMF武田英寿、横浜FCからMF安永玲央など、ここからブレイクが期待される若手が多く、大躍進もあり得る。また、昨シーズン天皇杯王者のヴァンフォーレ甲府も18位から昇格圏内にジャンプアップするポテンシャルは十分。やはりAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に参加できるということもあり、主力の退団を抑えられたのは大きい。そしてJ2では規格外でしかないFWピーター・ウタカ(←京都)や攻撃面で違いを作れるMF武富孝介(←京都)、パスセンスに優れたMF佐藤和弘(←松本山雅FC)が加わった。堅守速攻に定評のある篠田善之新監督が、J2上位のタレントをどう組み上げていくか。後半にはACLも入ってくるが、まずはJ2でのパフォーマンスを見守りたいところだ。
名塚善寛監督が3年目の山口はMF小林成豪(←大分)、MF田中稔也(←ザスパクサツ群馬)など実力者に加えて、MF矢島慎也(←大宮アルディージャ)という真の主軸になり得るビッグタレントを獲得しており、パリ五輪世代のMF松橋優安(←東京V)も面白いタレントだ。そして川崎からはFW登録ながら2列目で違いを作れるFW五十嵐太陽が育成型期限付き移籍で入り、中盤の面白さはJ2屈指だ。あとは現役引退し、社長に就任した渡部博文氏の抜けた最終ラインをどう埋めていくか。前線は昨年の大半を棒に振った19歳のFW河野孝汰に期待が懸かる。
昨シーズン大躍進を果たした熊本はFW髙橋利樹(→浦和)をはじめ主力の多くがいなくなり、下馬表では戦力が大きく下がると見られるかもしれない。しかし、中盤の主軸を担ったMF平川怜が残留し、キャプテンマークを任されることに。DF岡崎慎(←FC東京)やMF大本祐槻(←FC琉球)など実力者が加わったが、大木監督のもとで、大化けする期待が高いのは栃木から加入のMF松岡瑠夢だ。また16歳のFW道脇豊は将来A代表も狙えそうな超逸材だ。前線の核がいなくなった状況が、逆にそうした若手アタッカーには絶好のチャンスになるかもしれない。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。



