G大阪の強化方針が変化…初のスペイン人監督にチュニジア代表FW 中口雅史強化部長に聞く
近年低迷が続くG大阪が16日、沖縄でのキャンプをスタートさせ、変化のシーズンを迎えようとしている。J1残留争いの末、15位で残留を果たした昨季を経て、今季はクラブ史上初のスペイン人指揮官となるポヤトス新監督(44)を招へい。さらにカタールW杯にも出場したチュニジア代表FWジェバリ(31)の獲得など、外国人選手補強もこれまでのブラジル、韓国人路線とは一線を画している。その背景を、チーム強化の担当者を務める中口雅史強化部長(50)に聞いた。(取材・構成 金川誉)
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■22年は「我々の力不足」
中口氏は、21年夏にG大阪の強化部長に就任した。今オフにはポヤトス氏の招へいに尽力し、選手補強でも中心的な役割を担った。残留争いに巻き込まれ、15位と低迷した昨季を経て、クラブに必要なものを感じたからこそ、これまでとは違った手法で改革に乗り出した。
「攻守において主導権を握る魅力的なサッカーで勝利する、ということを目指して、片野坂監督と中長期的にやり遂げる土台をつくろうとしたのが22年のスタートでした。しかし結果につながらず、クラブ、現場としても目先の勝利が必要な状況になりました。そのためにメンバー、システムを変えるなど、チャレンジはしましたが、結果が出ませんでした。我々の力不足でした」
片野坂監督の下でスタートした22年は、困難を極めた。FW宇佐美の負傷離脱なども響き、夏には片野坂監督を解任。松田浩監督の下で守備を整備し、J1残留を果たした。降格は免れたが、クラブが目指す方向性とは大きくかけ離れていた。
■強化部もチームと一緒に成長
「クラブとして、中長期で攻守に主導権を握る魅力的なサッカーで、なおかつ勝利を目指しています。その土台作りを考えた時に、大きな方向性として日本人監督がいいのか、外国人監督がいいのか、いう議論がありました。外国人の指導者となると、セホーン監督(12年)、クルピ監督(18年)と結果が出なかった、という事実も踏まえた上で、どちらがいいのかと」
その中で中口氏が強調したのが、強化部としても成長を遂げていかなければ、クラブの発展はない、という思いだった。
「これまでは監督を呼んできて、選手たちを任せましたよ、というスタイルが多いと感じてきました。しかしクラブから、勝てるチームをつくるように託されているのは強化部。その強化部もチームの一員にならないと。ただ評価したり、査定したりというだけではなく、監督、チームとともに一緒に成長していく強化体制をつくっていかなくてはいけないと感じていました」
次期監督を絞り込む中で、複数の候補と接触をはかった。クラブが目指す方向性、強化部としての考え方など、すべての候補者に同じく伝え、コミュニケーションを図った。その中で、最終的に中口氏がクラブに推薦したのがポヤトス監督だったという。
「ポヤトス監督は徳島では(コロナ禍のため)入国が5か月遅れた中で、1年目(21年)はJ1から降格しました。昨季も多くの戦力が抜けた中でJ2で滑り出しは良くなかったですが、チームとして成長、成熟させ、後半戦は19試合負けなし。その情報も客観的に見ながら、G大阪を成長させてくれる可能性がある監督だと考えました。また選手、チーム、サッカーに対するリスペクトの部分が共感できました。この監督とやってみたい、という高揚感がありました」
■浦和の補強成功も参考に
サッカーのスタイルに加え、コミュニケーション能力の高さや、年齢的にも若くクラブとともに成長していける可能性を感じたことも一因だったという。また監督選定とともに、クラブは並行して選手補強にも動いた。FWジェバリ、MF杉山、DF半田、江川の4人を獲得。さらにイスラエル代表MFネタ・ラヴィの獲得交渉も続いている。外国人に関しては、これまでのブラジル、韓国人路線ではなく、欧州でのプレー経験が豊富な選手を獲得した点が大きな変化だ。
「ブラジル人、韓国人を取らない、ということは一切ないです。ただサッカーをグローバルに考えたとき、(欧州路線で選手補強を進める)浦和さんの成功例も参考にしました。しかし欧州がすべていい、と言っているわけではなく、広い視野を持とう、という部分がスタートでした」
FWパトリック、レアンドロ・ペレイラを放出したFWには、ポヤトス監督とも議論を重ねてジェバリの獲得にこぎつけた。また杉山、江川、半田は3人ともJ2クラブから獲得。ここには中長期でチーム強化を進める方針が表れているように映る。
「ジェバリ選手に関しては、しっかりと前線でボールを収め、なおかつ監督の求めるプレッシングを行ってくれる選手を求めました。監督は労を惜しまず行ってほしいと表現しています。その観点は合致しています。また3人をJ2クラブから獲得しましたが、J2だけを見ていた、というわけではありません。まず自チームの分析をした中で、どんな選手が入れば中長期的にG大阪にいいだろう、というところがスタートです。年齢バランス、予算、様々な要素があります。(右サイドでは)アラーノ選手や食野選手とはタイプも利き足も違う選手を探して、(左利きの)杉山選手の獲得に至りました。また左利きのセンターバックには韓国代表DF権敬源選手がいますが、プロの世界なので江川選手にはポジションを奪う気持ちでやってほしいと。半田選手に関しては、右サイドの高尾選手とは違うタイプのサイドバックと考えています」
■補強は継続、目標はACL圏内
ポヤトス監督は、1月9日のキックオフイベントで選手補強については「満足していますし、将来性のある選手が来てくれた」と話した。しかし中口氏の取材を行った同12日時点でいまだ交渉が続くMFラヴィを含め、補強はいまだ継続しているという。
「報道で名前が挙がっている選手に関しては、(12日時点で)まだお伝えできることはありません。しかしポヤトス監督が決まる前、10月ごろからターゲットとしてとらえていた選手ではあります。また、この時点で今季の補強は終わり、という考え方はしていません。移籍ウインドーが閉まっても、編成自体は年中続くもの。思い描くものに近づけようと考えれば、すでに来年夏のことも考えないといけない」
16日より沖縄キャンプをスタートし、クラブは今季の目標として定めたACL圏内を狙うべく、チーム作りを進める。湘南への期限付き移籍から復帰したGK谷らも含め、各ポジションに実力者がそろい、決してJ1残留を目標とするようなメンバーではない。一方で昨季の低迷から考えれば、ACL圏内は高い設定でもある。
「ACL圏内を狙うからというより、G大阪本来の勝利のメンタリティーを植え付け、その上で勝ちたい、こういうサッカーをしたいと、いう流れでシステムやプレーモデルを安定させていきたい、と考えています。中長期の土台をつくって、まずは勝者のメンタリティーを取り戻す。その中でコンセプト、戦い方を安定させていく。その先にACL圏内、という目標を達成できればと考えています」
◆中口 雅史(なかぐち・まさし)1972年4月10日、徳島県出身。50歳。国見高では第69回全国高校サッカー選手権の決勝・鹿児島実戦でゴールも決め、優勝に貢献。大会優秀選手にも選ばれた。大商大を経て、95年にG大阪入団。Jリーグの出場はなく、97年に関西1部リーグの佐川急便大阪へ移籍。02年に現役引退。指導者として、佐川急便SC(SAGAWA SHIGA FC)で3度のJFL最優秀監督を受賞。2013年にG大阪強化担当に。16年にJFL・MIOびわこ滋賀、19年にはJ3八戸の監督。21年よりG大阪強化部長。



