「鎌田大地のボランチ起用は?」「4年後に期待できる若手は?」「もし自身が日本代表にいたら?」稲本潤一はすべて正直に答えてくれた
激闘来たる!カタールW杯特集稲本潤一が語るカタールW杯(後編)
カタールワールドカップで世界から称賛された森保ジャパンの活躍を、日本代表OBはどのように感じたのだろうか。20年前の日韓ワールドカップで衝撃的な2ゴールを記録し、同じように”時の人”となった稲本潤一選手(43歳/南葛SC)に、”後輩”たちのプレーについて聞いた。
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◆稲本潤一・前編はこちら>>「柴崎を使ってほしかった」「守田と田中の能力ならもっとやれることはあった」
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── 以前であれば2ボランチは、司令塔タイプと守備的なタイプのセット起用が一般的でした。しかし、ハードワークやインテンシティの高さが求められる現代サッカーでは、司令塔型の選手にとって難しい環境になっているのでしょうか。
「今大会だけはなく、少し前からそういう流れになっていますよね。ディフェンスだけの選手ではダメだし、攻撃だけでもダメ。トータル的な能力の高い選手が真ん中にいないと、チームとして回していくのは難しくなっていますよね。
やっぱり、トップレベルの中盤の選手は走れるし、ボールも出せるし、点にも絡めるし、ディフェンスもしっかりできる。ひとつの能力が特化しているタイプは使いづらくなっているのでしょう。遠藤航選手(シュツットガルト)にしても、守田英正選手(スポルティング)にしても、田中碧選手(デュッセルドルフ)にしても、トータル的な能力を備えていると思います。
でも、今大会で足りない部分も痛感したはず。彼らはヨーロッパでプレーしているので、より上を目指せる環境にいます。今回の悔しい想いを維持しながらやっていくことで、4年後に向けてひと回りもふた回りも大きくなっていくんじゃないでしょうか」
── 今大会の出場選手のなかで、優れていると感じたボランチを挙げるとすれば?
「ボランチというか、中盤の真ん中の選手でいうと、やっぱりモドリッチ選手を中心としたクロアチアの中盤の3人はレベルが高かったですね。戦術眼が優れていますし、日本の嫌なことをしながら試合の流れを変えていったところに『サッカーIQの高さ』を感じました。
もちろん、技術はしっかりしているし、ハードワークもできる。何より3人のバランスがすばらしかったですね。
モドリッチ選手が裏に走ったり、サイドに流れたりするなかで、それを見て周りが動き出して穴を埋めたり、サポートに入ったりする。そのポジションチェンジがスムーズだったので、局面で2対1の状況を作れていましたし、バランスもなかなか崩れなかった。ちょっとレベルが違うなと思いましたし、サッカーをよく知っているなと感じましたね」
── スペインの中盤の3人とは、ちょっと違う感じですか。
「スペインの場合は、基本的に自分たちの形を崩さないですよね。多少可変はしますけど、どちらかというと足もと、足もとにつなぎながら、そこまでポジションを動かさずにゴール前に押し込んでいくやり方なので、実はスペイン戦は比較的安心して見られたんですよ。
でも、クロアチアの場合は相手を見て形を変えてくるので、対応するのがより難しくなる。やっぱりいろんな引き出しがあるチームのほうが、怖さを感じますね」
── ちょっと気が早いですが、4年後の日本も中盤がカギになると思います。そこに入ってきそうな注目の若手はいますか?
「う~ん、難しい質問だなあ(笑)。でも、藤田(譲瑠チマ/横浜F・マリノス)君は可能性を感じるかな。そんなに多くのプレーを見たことがあるわけではないですけど、マリノスとか代表の試合を少し見た感じで言えば、ハードワークもできるし、技術もしっかりしている。
さっき言った、トータル的な能力の高さを感じます。大舞台でも物怖じしない感じもするので、そういったメンタル的な部分も含め、4年後に向けてしっかりと絡んでいってほしい選手のひとりですね」
── 所属クラブや代表でも何度か採用された、鎌田大地選手(フランクフルト)のボランチ起用はどう考えますか?
「やっぱり鎌田選手には、ひとつ前でやってほしいですね。今回は献身的にやっていた分、自分のよさを出すことはできなかったと思うけど、ゴール前で違いを生み出せる選手ですから。
個人的には、もっと自分を出していいと思うんですよ。戦術ももちろん大事ですけど、個人が戦術を上回るくらいに。昔のヒデさん(中田英寿)みたいな選手になってほしいですね。
今回はかなり悔しい想いをしたはずなので、ここからの4年間でどれだけ成長できるか。そのためには環境も重要になってくるので、どこのリーグに行くのかも含めて、鎌田選手には注目したいですね」
── 今のサッカーにおいて、ボランチに最も求められる資質は何だと思いますか?
「ゲームの流れを感じられる能力ですね。あと、それを発揮できる心技体があること。特にチームが苦しい時に助けられるような選手が真ん中にいないと、なかなかチームは機能しないと思います。
たとえばドイツ戦やスペイン戦のように、ずっとボールを回される試合もあるなかで、真ん中が安定しなければ、簡単に崩れてしまうと思うんです。でも、そこがしっかりしていれば、耐えることができますし、耐えているなかでチャンスに結びつけることもできる。
チームに安心感を与えたり、希望を持たせることのできる選手が『優れたボランチ』だと思います。そういった能力を身につけるためには、やっぱりよりレベルの高いところでプレーする必要があります。プレッシャーのかかる試合を何度も経験しなければ、手に入らないものだと思いますから」
── ちなみに、もし今回の日本代表に稲本選手がいたら、どんなプレーをしていたと思いますか?
「我慢じゃないですか(笑)。ずっと我慢して、隙を見てボールを取って、そのまま駆け上がりたいですね。もう、あれだけボールを回されると我慢しかないので、どこまで耐えられるかどうか。自分だったら耐えられたかな? だから、最後まで我慢し続けた彼らは本当にすごいと思いますよ」
【profile】稲本潤一(いなもと・じゅんいち)1979年9月18日生まれ、大阪府堺市出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格し、当時最年少の17歳6カ月でJリーグ初出場を果たす。2001年のアーセナル移籍を皮切りにヨーロッパで9年間プレーしたのち、2010年に川崎フロンターレに加入。その後、北海道コンサドーレ札幌→SC相模原を経て、2022年より関東サッカーリーグ1部・南葛SCに所属する。日本代表として2000年から2010年まで82試合に出場。ポジション=MF。181cm、77kg。



