有言実行の“ニューヒーロー”堂安律がSNSバッシングを恐れずビッグマウスを続ける源泉とは…クロアチア戦に向け「戦術よりも球際で引かずに戦う姿勢が大事。日本の歴史を変えたい」と決意

「リザーブからスタートするのは嬉しくないですけど…」

 稲本と堂安はガンバ大阪の育成組織からトップチームをへてヨーロッパへ移籍。本田も中学年代はガンバのジュニアユースに所属した点に、堂安は「たまたまじゃないですか」とこう続けた。

「図々しいメンタルの持ち主がおそらく関西人、というかガンバには多いと思うので。大舞台でも気負わずプレーできるのは自分のよさだと思っていますし、おそらく先輩方もそういうものをガンバで教わったのかなと思うので、その意味で少しは関係しているんですかね」

稲本も本田もグループステージで2ゴールをあげたが、日本中の注目を集めた決勝トーナメント1回戦では無得点。日本も日韓大会でトルコに0-1で敗れ、南アフリカ大会ではパラグアイと延長戦を終えても0-0のまま決着がつかず、もつれ込んだPK戦で涙を飲んだ。

クロアチアからゴールを奪えば、4度目の挑戦にして初めてベスト8進出を果たす確率が高まる。スコアラーが背番号「8」ならば今大会だけで3ゴール目となり、日本代表の偉大な先輩たちを追い越す。それでも堂安は「2点を取ったことはもう忘れた」とあえてエゴを捨てる。

「ゴールを決めれば個人的には嬉しいし、個人的な記録を超えてももちろん嬉しい。でも、いまはそれらをまったく考えずに今日からトレーニングしている。勝ってベスト16の壁を越えたい、という思いの方が強いですね。とにかく、これほど勝ちたいと思ったことはない。26人のメンバーとスタッフとで、日本の歴史を変えたいという気持ちがいまは本当に強いんです」

ドイツ戦後には「僕がヒーローになると思ってピッチに立ったし、そのためのイメージトレーニングをずっとしていた」と豪語。その上で「この大会ではヨーロッパ勢がアジアをなめているところがあったし、心のなかで『ふざけるな』と思っていました」と続けた。

ペナルティーエリアの外から豪快なミドルシュートを叩き込んだスペイン戦後には、自身をノーマークにしたスペインへ「あそこでフリーにさせると、堂安律という選手は危ないんですけどね」と再び豪語。GKウナイ・シモンへ、昨夏の東京五輪準決勝で零封された借りを返すとともに「もっとすごいキーパーかと思っていました」と不敵なコメントも添えた。

いずれも結果を残した後には称賛されるが、反対の場合にはSNS上などで批判の対象になりかねない。いわゆるビッグマウスは本田に通じるものがある。本田の場合はビッグマウスを介して自らの逃げ道を封じ、周囲からプレッシャーを浴びることでより集中力を高める狙いがあった。

しかし、堂安が放つビッグマウスは本田のそれとは根本的な部分で異なっている。誰よりも堂安本人が「メンタルはそれほど強くない」と自己分析しているからだ。

「逆にメンタルが強い人って、世の中にいるのかなと思っているんですよね。逆境をはね返せる人のメンタルを強いと言うならば、メンタルが強い人は大勢いる。でも最初から何も恐れずに、立ち向かっていける人なんていないと思うので。そう考えれば、いまの自分のメンタルは強くない。ただ、何か壁にぶち当たったときとか、みんなから『あいつ、もう終わったな』と思われてからが、自分の本当の実力の見せどころやなと思っていますけどね」

森保ジャパンが旗揚げされた2018年秋こそ右サイドハーフで存在感を放ったが、時間の経過とともに居場所を失い、今年3月には選外も味わわされた。当時の心境を「みんなの活躍が嬉しい反面、心のなかで『ふざけるな』と思いながら試合も見ていた」と明かしてもいる。

時にはやや過激に聞こえる堂安のビッグマウスは、反攻へ転じる上で、自らの心を鼓舞するラッパととらえれば合点がいく。つまりドイツ戦後のビッグマウスがスペイン戦の活躍の序曲になった同じ図式で、スペイン戦後のそれをへてクロアチア戦でも再現されるかもしれない。

実際、グループステージを通して、攻撃では改善点があると堂安は訴える。

「日本がボールを保持してるときにビッグチャンスを作れていない、というのは正直、見ているみなさんだけでなく僕ら選手たちも感じている。もっとシンプルにロングボールを使って、相手の背後を攻めてもいいと思う。実際にチャンスになっているのはロングボールを蹴って、セカンドボールを拾って、そこからの2次攻撃となる場合が多い。綺麗な攻撃だけじゃなくて、誰かがチームのために相手の背後に走る、というのは必要になってくると個人的には思っている」

コスタリカとの第2戦では先発を果たしながら、たとえ無駄走りになってもいいから相手の背後をつけなかった自身への批判も込めた提言。ドイツ戦でひときわ輝いたラッキーボーイはスペイン戦をへて、臆せず意見を言う若手のリーダーのオーラを身にまといつつある。

前日の完全オフをへて日本は3日から全体練習を再開させた。左太もも裏を痛めていたDF酒井宏樹(32、浦和レッズ)が10日ぶりに復帰した一方で、体調不良を訴えたMF久保建英(21、レアル・ソシエダ)はドーハ市内の宿舎ホテルで静養した。スペイン戦で通算2枚目のイエローカードをもらったDF板倉滉(25、ボルシアMG)もクロアチア戦は出場停止となる。

「彼(板倉)自身が一番悔しいはずなので。彼の分まで戦う、と簡単には言えないけど、彼が試合を見たときに誇らしく思えるようなプレーを全員で演じたい。彼の力がこれからも絶対に必要になるのでしっかりと休んでもらって、次につなげたい」

明言こそしなかったが、文脈をたどれば東京五輪代表の盟友でもある板倉への思いを介して、堂安はクロアチアに勝利すると誓っている。さらにこんな言葉も紡いだ。

「ここまできたら対戦相手はすべて強い。ただ、自分たちもドイツ、スペインを倒した自信を持って臨む。全員が体を投げ捨ててでも戦い抜く覚悟はできています」

先発はもちろん、ベンチスタートでもチーム全員が一丸となって戦う姿勢は変わらない。クロアチア戦のキックオフまでのカウントダウンに胸の鼓動の高鳴りをシンクロさせ、燃えたぎる真っ赤な炎へと昇華させながら、堂安は日本サッカー界の歴史を塗り変える大一番を待つ。

(文責・藤江直人/スポーツライター)

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