久保建英がスペインで学んだこと 成長の根幹にあるメンタル【バルサ育成組織元監督インタビュー】
サッカーW杯カタール大会で日本代表が決勝トーナメント進出を懸けるスペインとの大一番で注目されるのは、MF久保建英(21)=レアル・ソシエダード=の存在だ。名門バルセロナの育成組織「カンテラ」で若き才能はどのように育まれていったのか。カンテラで監督、コーチを歴任したマルセル・サンツさん(40)=現徳島コーチ=に「タケ少年」の実像について語ってもらった。
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私がカンテラで7人制の責任者をしていた時、タケに初めて会った。テクニックに優れ、コンビネーションも仲間との関係づくりもできていたし、すべてにおいてハイレベルな選手という印象だった。
難しい状況に対しても、タケは『自分』を持っていた。異なる環境にも勇敢に立ち向かい、何をすべきか自分で判断していた。言葉や文化、食事などいろいろな違いも乗り越えていった。
カンテラで競争を勝ち抜くことができた要素はひとつではない。ただ、何か挙げるとすれば、彼の強い性格面ではないだろうか。自分自身のことをいかに強く信じられるか。疑問を持つことなく、目指す方向へ歩み続けられるか。夢を成し遂げるために進んでいけるかどうかが大切になる。彼の強い性格こそが、競争を勝ち抜き、プロになれた要因だと思う。
彼自身はいつもはっきりとしたアイデアを持った選手だった。いかにタレントのある選手だとしてもカンテラでは日々、実力を証明していく必要がある。時には恐怖を感じたり、不安を覚えたりすることがある状況にも打ち勝ち、乗り越えられる強いメンタリティーが彼にはあった。
10歳の少年が異なる文化に飛び込むことには難しさが伴う。それが最初に苦しんだ壁だとすれば、2度目にぶつかった壁は国際サッカー連盟(FIFA)がバルサに対して、18歳未満の外国人選手の獲得、登録に違反があったとして、タケが18歳になるまで公式戦に出場できなくなったこと。
トレーニングはチームと一緒にできるが、公式戦には一切、出ることができなかった。仲間が戦っているのをスタンドから見るしかなく、練習しかできないタケの姿を見るのは私たち指導者、スタッフにとっても本当に苦しい瞬間だった。タケは本当に苦しんでいた。
タケがバルサを去ったときのことをよく覚えている。日本へ戻る数日前、タケの家にお別れのあいさつに行った。18歳になるまでバルサに帰ってこられないと理解していたタケの表情は忘れられない。
日本ではポジティブな成長を遂げたと思う。カンテラで戦う要素を学び、日本ではプロレベルの実戦でプレーするという両局面を味わえたことが成長につながった。リーガエスパニョーラで彼に要求されているのは相手ゴール前でプレーし、相手の守備を崩すこと。プレーのスピード、考えるスピード、判断のスピードを求められ、さらに成長していっているように思う。
W杯でスペインと日本が1次リーグで同組になったことは特別な偶然。そこで、タケは危険な選手になるのではないかと思う。スペイン代表にとっては、間違いなく警戒しないといけない選手の1人。いまはソシエダードで活躍していて、スペインサッカーを熟知している。スペインの育成組織で育った選手なので、ポジションごとに求められる役割もよく知っている。そういったタケの情報も、日本にとっては役立つ要素になる。
タケは日本代表でもベストの選手だと思う。スペイン代表とともに1次リーグを突破してほしい。タケがW杯で活躍することを本当に期待している。
▼マルセル・サンツ 1982年2月20日生まれ、スペイン・カタルーニャ州出身の40歳。バルセロナの育成組織「カンテラ」で各カテゴリーの監督、コーチなどを歴任。スペイン人のポヤトス監督の右腕として、2020年にギリシャ1部・パナシナイコスのコーチに就任。21年から徳島コーチを経て、来季はG大阪ヘッドコーチに就く。



