西野朗氏「勝機はある」 スペイン戦「三笘の突破力は、ぜひ先発で生かしたい」
スポーツ報知にカタールW杯特別評論を寄稿する前日本代表監督の西野朗氏(67)が、日本が0―1で痛恨の黒星を喫したコスタリカ戦(27日)の敗因を分析した。1次リーグ(L)初戦でドイツに大金星を挙げたからこそ生まれた気持ちの変化や、試合の入り方などにあったと指摘。1勝1敗で迎える勝負の第3戦に向けては、MF三笘薫(25)=ブライトン=の先発起用を提言した。
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攻撃的な日本の姿がそこにあると思っていたが、まったく予想していないスコアと内容だった。前半15、20分あたりに先制すれば、コスタリカは7失点したスペイン戦の記憶がよみがえり、崩壊すると見ていた。前半からボールは保持した日本だったが、5バックで守る相手に対し、中央へのくさびや背後を狙うようなチャレンジしたボールや動きが少なく、圧力をかけることができず、淡泊でスローな展開に陥った。
ドイツに勝ったというアドバンテージが影響したようにも思えた。チームとして多少の余力ができたことに加え、第2戦はスペインではなく、コスタリカだった。初戦で大敗した相手に、日本は体調面などを考慮してドイツ戦から先発5人を代えた。チーム力に自信があり、ベンチは後半勝負も視野に入れていただろうが、W杯初出場の選手もおり、連係面でのギャップが出た。そのうち得点が入る、最低でもドローという感覚も生まれたのか。絶対勝つというスピリット、パッションも足りなかった。
私が指揮した1996年アトランタ五輪も初戦でV候補ブラジルに勝ったが、次戦はナイジェリアに敗れた。第3戦は勝利したものの、得失点差で1次Lで敗退した。初戦に金星を挙げて注目されたチームは、より一層分析されることも苦戦の要因だ。だから、気持ちの面、戦術面でも国際舞台での連勝は非常に難しい。ただ、当時に比べ、今の選手は欧州での経験が豊富で精神的にも成熟している。スペイン戦に向けての切り替えに問題はないだろう。
スペインといえばバルセロナが一世を風靡(ふうび)したポゼッション、パスワークの中で個が光るサッカーが印象にあると思うが、近年はそれだけのチームではない。ボール奪取能力が非常に高い。個々のディフェンス能力は高くないが、グループとして連動して奪い、奪った瞬間に緻(ち)密なポジションをとって華麗なパスワークを展開する。ドイツに対してもチェックが早く、コスタリカはプレスに対応できずに大量失点した。日本は、パスワークではなく、自分たちがボールを保持したときの相手の守備を警戒すべきだ。
では、日本はどう戦えば良いのか。3バックでも、4バックにしても、主導権を握ることは難しく、自陣にブロックを敷き、5―4―1のような形を強いられるだろう。もし、冨安が使えるのなら3バックにし、両サイドをしっかり固めてからカウンター勝負が現実的だ。三笘の突破力、伊東のスピードを使い、浅野か前田を1トップに置き、手数をかけずにシンプルに得点を狙う。コスタリカ戦で、なかなか入らなかった攻撃のスイッチを入れたのが三笘だった。その突破力は、ぜひ先発で生かしたい。
森保監督は、ここ2戦とも途中で4―5―1から、3―4―3に布陣を変更した。リスクある賭けだったが、実際に3バックの方が機能し、ドイツ相手には逆転という成功体験を得た。だから、スペイン戦も覚悟を持ち、勝負をする。森保監督には4年前のロシアW杯でコーチに入ってもらったが、チームの状態を的確に分析し、細かく修正できるタイプ。選手たちに野心を持たせ、ピッチに送り出すだろう。日本は自分たちの強みを十分理解している。勝機はある。自信を持って挑んでほしい。(前日本代表監督・西野朗)
◆1996年アトランタ五輪の日本代表 1次リーグ初戦でブラジルと対戦した日本は後半27分、敵の連係ミスを突いて伊東が挙げた1点を守り切り、歴史的勝利を収めた。シュート数は4対28と圧倒されたが、GK川口の好守でしのぎ切った。大金星の勢いに乗りたかった日本だが、第2戦はカヌ、オコチャらの高い身体能力に苦戦し、優勝したナイジェリアに敗戦(0●2)。3戦目でハンガリーに勝利(3〇2)したが、得失点差で3位となり、1次リーグ敗退。1位突破のブラジルは準決勝でナイジェリアに敗れ、3位に終わった。
◆西野 朗(にしの・あきら)1955年4月7日、浦和市(現さいたま市)生まれ。67歳。早大時代にFWで日本代表入り。卒業後は日立製作所(現柏)に加入し90年に引退。94年U―23日本代表監督に就任し、96年アトランタ五輪でブラジルを破る“マイアミの奇跡”を演出。その後は柏、G大阪などの監督を歴任してJ1最多270勝。2016年に日本協会の技術委員長となり18年4月、日本代表監督に。16強入りしたロシアW杯後の同7月末退任。19年7月、タイ代表監督に就任し、21年7月に退任した。



