【橋本英郎】逆転劇への転機はVARで取り消された2失点目! 日本はリスクを冒し、ドイツはリスペクトを欠如させた【W杯】

前半の入りの悪さがドイツの油断を生み出した

勝利!

初戦の緊張感ある試合の中、一番大事な結果を出してくれました!

ドイツ戦のポイントは3つ+1つ。メンタル面も加えて書きたいと思います。

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まずは勝因となったゲームのポイントをお伝えします。

①前半の入りの悪さ

フォーメーションの不一致

③戦術の変更

①リスクを冒す勇気

になります。

では、ひとつずつ分析していきます!

【ポイント①:前半の入りの悪さ】

この試合の流れのポイントにもなりますが、日本が前にプレスへ行く感覚で見ていましたが、前線の2人、前田大然選手、鎌田大地選手のところでファーストアクション・プレスがかかりませんでした。

それに引きずられるように両サイドハーフの久保建英選手、伊東純也選手も受け身の守備になりました。そのため、すぐに遠藤航選手、田中碧選手のボランチラインに相手の攻撃の圧力がかかってしまいました。ディフェンスラインも前線からのプレッシャーがかからないため、前向きなチャレンジがしにくい状況。さらにライン設定を高く保てないことにより、ボランチの周辺にスペースを多く作られてしまいました。

上手くプレスがかけられない。また、ドイツに対して少しリスペクトしすぎて自分たちからのアクションを全員で共有できずに苦しんでいるように映りました。この入りの悪さが最終的に90分を通した中で、ドイツに油断を生み出したと僕は考えています。

【ポイント②:フォーメーションの不一致】

左サイドでは久保選手がプレスに飛び出しても、その背後で中央の相手選手が久保選手のサイドに流れながらボールを受けることで、日本のプレスの網を簡単に剥がしてきていました。

日本の右サイドは逆に、サイドバックのオーバーラップへの対応ができていませんでした。こちらの守備は致命的な状況で、酒井宏樹選手と伊東選手のところでドイツのサイドバックとサイドハーフのローテーションを何度もされる繰り返し。伊東選手がゴール前での1対1の守備シーンで後手に回って完璧に背後も取られ、GKの権田修一選手と1対1の形も作られてしまい、結果PKを取られてしまいました。

この時間帯は、選手それぞれがパニックに陥っているようにも見え、解決策を見つけられていませんでした。

そのまま0対1で前半を乗り切らなければいけませんでしたが、残り時間も明確にチームとしてどうするのか?

という方向性が全く定まっておらず、ただ中途半端に攻撃され続けていました。

この時は、上手くいかない、どうすればいいか分からない、といった状況で、日本は混乱が続いていました。

そして、そのままの流れで2点目を取られたかに見えました。しかし結果的にVARによってオフサイドで取り消された2点目が、ゲームのターニングポイントになったと思います。ネットは揺らされましたが、気持ちが吹っ切れたように感じました。

選手の気持ちとして、前半のうちに2失点していたらゲームは終わっていたと思います。オフサイドで失点が取り消され、神様が挽回のチャンスをくれた。このチャンスを活かさないと!

このまま終われない!

という前向きな気持ちに切り替わり、前半を終了しました。

ドイツからすると「いつでも点が取れるなぁ」と思いながら前半を終えていたはずです。イルカイ・ギュンドアン選手のPKのゴールの際の喜び具合も、それほど感情を爆発させるものではありませんでした。日本を自分たちより格下と見ているように感じましたし、チャンスの形も増えていたことで、まずは1点目、ここから2点目を取れるだろう、という心境だったのではないでしょうか。

フリック監督は日本の大胆な攻撃的な変化を理解できていなかった!?

【ポイント③:戦術の変更】

日本は後半頭から冨安健洋選手を投入し、3バックにシステム変更しました。それにより新しい挑戦が始まります。後半途中からは、どんどん選手交代をしていきました。

それに対して、ドイツも主力のギュンドアン選手やトーマス・ミュラー選手を交代、これにより、日本の交代がよりハマる形になっていきました。ギュンドアン選手とミュラー選手は、中盤と前線のあいだの中間ポジションで受ける動き、そのエリアでの技術が高い選手たちです。彼らがピッチにいることで、日本は致命的な2点目を取られるリスクが大きかったのですが、途中交代によってそのリスクは著しく小さくなりました。

これは選手だけでなく、監督にも日本に対しリスペクトが欠ける交代策のように感じました。ハンジ・フリック監督が(相手が)リスペクトしていると見立てを変えて、守備に重きを置く交代策を採っていたとしたら、それ以上に日本は大胆な攻撃的な戦い方へシフトしていたので、ピッチ内の選手たちは対応できなくなってしまった。フリック監督は日本の変化をそこまで理解していなかったように思います。

【ポイント+①:リスクを冒す勇気】

ドイツの交代策の前に、三笘薫選手をウイングバックにするという過去見たことのない攻撃的なハイリスクの交代をしています。交代直後から綻びが起きそうな瞬間も多くありましたが、冨安選手を入れていたことで3枚の最終ラインでなんとか乗り切りました。

その後ドイツの主力2人の交代直後から鎌田選手をボランチに、伊東選手をウイングバックへと前めの選手を守備的なポジションに取らせながら大胆にリスクを冒していきました。

結果的には南野拓実選手の投入直後に同点弾が生まれ、その後相手が前がかりになった背後を突き、逆転弾が生まれました。

逆転弾が生まれたきっかけは、三笘選手の仕掛けと裏への動き出しの警戒心。ドイツの右サイドバックが普段より低い位置を取ってしまい、ディフェンスラインに乱れが出ていました。

普通ならオフサイドになるところでしたが、ドイツ側も失点してしまい、加えて想像以上に攻撃的なポジションチェンジ、交代策を採ったため、混乱させることに成功していたからでしょう。

コスタリカ戦では前半から心理面で前向きにアクションしてもらいたい

前半の日本はリスクを取る戦術のようには見られませんでした。それによってそれぞれの選手がこじんまりとしてしまい、精神的に劣勢に追いやられていきました。

ただ、前半2回目の失点(結果的にはオフサイド)がVARで取り消されたことでメンタル的に吹っ切れたように感じました。

後半に1点取られたら終わり、の背水の陣で臨んだことで、頭の中がネガティブなマインドになる時間を消してしまったようにも感じました。選手それぞれが、やるべきことを明確化し、それぞれがコミニケーションをとり、前線からの守備もどんどん発動するようになり、最終ラインも同数で守り切るリスクも取り、アグレッシブな姿に変貌できました。

その変貌がドイツ側からすると理解できず、また戦術的な噛み合わせも変わってしまい対処できない状況になりました。加えてドイツ側の中心選手の途中交代もあり、ゲームの進め方に綻びが起きました。

偶然と必然が重なった部分があるかもしれませんが、リスクを冒した森保監督に対し、フリック監督は前半のレベル感から日本への警戒心・リスペクトが欠如していた。そして、森保監督のとったリスクに見事に応えた選手たち。リスクを冒したからこそ得られたゴール、結果だったはずです。

次戦は、コスタリカ戦。

スペインに7失点で敗れたので、日本には大量得点で勝ちたい!

大量得点が取れなかったとしても、必ず勝たないといけないマインドになっているはずです。

本来なら堅守速攻で戦ってくるはずですが、前がかりにリスクを取ってくるかもしれません。次戦もゲームプランを大会前に立てていたと思いますが、非常に想像しがたいゲームになると思います。

楽観視は全くできない相手となるだけに、コスタリカ戦では前半から心理面で前向きにアクションしてもらいたいと願っています。

そうすることで、偶然ではなく、必然的にグループリーグ突破が見えてくるはずです。

<了>

橋本英郎

PROFILE

はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。2019年からJFLのFC今治に籍を置き、入団1年目で見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。2021年5月2日の第7節のテゲバジャーロ宮崎戦で、J3最年長得点(41歳と11か月11日)を記録。2022年は関西1部リーグ「おこしやす京都AC」に籍を置いた。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。現役フットボーラーとして奮闘する傍ら、サッカースクールの主宰やヨガチャリティー開催など幅広く活動中だ。173センチ・68キロ。血液型O型。

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