「辛かった」伊東純也に慰められた苦悩の1年目を経て…レギュラーを掴んだコルトレイクの渡辺剛。新加入の田中聡は“本音”「長所がベルギーでは通用しない」【現地発】
田中と渡辺とのダブルボランチが実現
ベルギーのコルトレイクに所属する日本人2人が、レギュラーとして奮闘している。今年1月、FC東京から移籍した渡辺剛(25歳)は、昨季半シーズンは14試合中7試合の出場に留まったが、今季はチームの主力として17戦フル出場を継続している。最近になってCBからセントラルMFにコンバートされた。これには「日本では経験したことのないポジションです」と当人もビックリだ。
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湘南ベルマーレ出身のMF田中聡(20歳)は、ベルギーリーグが開幕してからコルトレイクに入団した。デビュー2戦目の第7節、オイペン戦から7試合連続スタメンとしてプレー。体調を崩したことから2試合休養を取ったが、11月6日のオーステンデ戦から戦列に復帰した。
11月13日のヘント戦で田中がスタメンに戻ったことで、渡辺とのダブルボランチが実現した。ベルギーリーグの好チームの一つ、ヘントが相手だったうえ、25分という早い時間帯でコルトレイクに退場者が出てしまったことから、0-4という大差で負けてしまった。順位も18チーム中17位と低迷している。しかし、2人とも「コルトレイクはいいチームです」とポジティブに日々を過ごしている。
2022年からチャレンジの場をベルギーに選んだ両名にヘント戦後、スタジアムで話を伺った。
「良い1年でした」。そう渡辺は2022年を振り返った。1月、コルトレイクに入団してしばらく出場機会に恵まれたものの、その後4試合続けてベンチ外の憂き目にあった。復帰戦ではサイドバックを任されたが、翌節はベンチを温めた。
最も辛かったのはベンチ外になって2試合目のヘンク戦(2月27日)だった。試合前のアップが終わった後、コーチから「今日はスタンドで試合を見ていてくれ」と告げられた。2時間半かけて遠征したのに控えにすら入れなかった。試合が終わってから伊東純也(現スタッド・ドゥ・ランス)のところへ「はじめまして」と挨拶に行くと「ああ、いたんだ」と驚かれた。
「今日はベンチに入れませんでした」と渡辺が言うと、伊東は「ベルギーでは多いことだから」と慰められた。事実、試合前のアップに参加しながら、ベンチにすら入れなかった日本人選手は他にもいる。
「ああ、俺は何をしに(アウェーまで)行ったんだろうって。チームは負けて『俺が出ていれば』と思っても、試合で使われないとなにもできないので。あの時期が一番辛かったです」
「ボランチをやってみたら、監督もしっくりきちゃったようで」
潮目が変わったのはシーズン終了後のトレーニングマッチから今季のプレシーズンにかけて。好プレーを続ける渡辺に対し、カリム・ベロシン監督(当時)は「本当に良くなった。こっちに慣れてきたな」「パフォーマンスもコンディションも良い。このまま続けてくれ」と信頼を寄せてくれた。
「そこからですね。やっと思い通りのプレーができるようになったのは。半年かかりました。怒涛の半年でした」
レギュラーに定着した今季、渡辺は新たな自分を発見した。
「ベルギーの方が点を獲れそうなんですよ。チャンスが結構あったんですが、あと一歩という感じです。日本ではガッツリ、ディフェンダーだったんですが、今は攻撃も求められています。面白いですね。新しい発見というか。自分に足りないところもわかりますし、いい経験ができてます」
今季の渡辺は1ゴール。それはチームを1-0の勝利に導く貴重なものだった。
第7節から采配を振るアドナン・クストビッチ監督(ヘント戦翌日解任)も渡辺を起用し続けた。
「センターバックは、チームが勝てないときに一番変わるポジションだと思う。信頼してもらっていると思います」
そのクストビッチ監督が「サトシ(田中)がいないから、お前、できるだろ。やってみろ」と渡辺をボランチにコンバートした。
「ボランチをやってみたら、監督もしっくりきちゃったようで(苦笑)。でも難しいですね……」
自身がボールを奪われ失点した直後のインタビューだけに、渡辺のため息も理解できる。だが、この1年間で「もっと上を目指せる」という自信が付いた。
「すごく良い一年でした。大変なこともありましたが、海外に来てよかったと思います。
サッカーはヨーロッパなんだ――と。熱さだったりサッカーに対する思い。こっちに来て友だちが多いわけでもなく、サッカーに対して向き合う生活をした。本当にチャレンジしてよかったと思います。日本に残ってやることももちろんいいんですが、自分の可能性がどこまであるのかなとか、どこまで自分ができるのかなと感じることのできる一年でした」
「練習でミスすると『おい!』って言われるんですよ」
相手の懐に入っていくようにアプローチし、アグレッシブにボールを奪う強気な守備。味方のミスをカバーする献身性。しかし、一旦ボールを持つと突如、プレーが剛から柔に変わり、テクニックで観客席を沸かせた――。田中のプレーは見ていて気持ちよかった。
「今日はたまたま調子が良かったんです」と本人は明かす。
「前回、前々回はあまりよくなかった。僕はあんまりメンタルが強くないので、やっぱり剛くんがそういうときにいると心の拠り所のように話すことができます。サッカー面でも私生活でもほんとうに助けてもらってます」
勝ち気なプレーと似ても似つかぬ素顔を見せる青年がそこにいた。
「今日はミスなく試合に入ることができたのでよかったんですが、練習でちょっとミスすると、こっちは『おい!』って言われるんですよ。しかも何を言ってるかわからないし。でも俺に言ってるんですよ。すると俺、すぐ凹んじゃうんです。それでプレーの自信を失いボールを受けたくなくなるとか、思いっきりの良さをなくしてしまう。今日は比較的楽しくプレーできたんですが、ベルギーに来てからはそういう(凹んだ)時期がありました」
ヘントにはホン・ヒュンスクという売出し中の韓国人アタッカーがいる。前半、田中はそのホンに激しいデュエルを仕掛けてボールを奪うと、今度はテクニシャンの姿を見せてホンを翻弄しパスを繋げた。それから1分後、田中はホンからお返しのファウルを受けている。後半には元ベルギー代表のMFクムスのトラップ際に詰めてボールに触り、レートファウルをしたクムスを退場に追い込んだ。
「今日はメンタルを保てたので。最近、『サッカーはメンタルスポーツだな』と身にしみてます」
ベルギーに来て感じたのはフィジカルとスピードだ。
「『対人・球際では負けない』という自分の長所が、ベルギーでは通用しないというのを感じます。『これ、取れる』と思って行っても、スピードで入れ替わってしまうことや、自分が倒されていることがある」
0-4で大敗した悔しさから、試合が終わると真っ直ぐ更衣室へ向かったチームメートが多い中、田中はファンへの挨拶に残った数少ない選手の一人だった。 「コルトレイクのサポーターは負けてもすごく応援してくださるのでありがたい。感謝しないといけない。そういう人としてのことはプレーにもつながってくると信じてます」
そして、田中は続ける。
「コルトレイクは本当に自分のレベルに合っていると思う。すごく上のチームに行って試合に出ないのも良くない。良いチームに入りました。だけど、コルトレイクはそんなにボールをつなげるチームじゃない。そこで、どれだけ自分がチームを助けることができるか。それが今後の自分にとって経験になると思うので、ポジティブに取り組んでます」
11月に欧州遠征するU-21日本代表のメンバーに田中の名はない。パリ五輪に向けてこれからの巻き返しを次のように誓った。
「ジョエルくん(藤田譲瑠チマ/横浜・Fマリノス)、リヒトくん(山本理仁/ガンバ大阪)とか良いボランチがこの世代にはいっぱいいます。今は自分の序列はまだ下なので、追い越せるように頑張りたいと思います。普段の練習から頑張ります!」



