「GKに求められる最も重要な要素が凝縮」 楢崎正剛氏が選ぶ年間ベストGKとは
シーズンを通して最も優れたパフォーマンスを披露したGKにG大阪の東口順昭
2月に2022シーズンのJ1リーグが開幕してから、毎月、元日本代表GKの楢﨑正剛氏がその月で最も優れたベストセーブを選出・紹介してきた。今年は11月中旬に開幕するワールドカップの影響で、例年より約1か月早く11月5日にJ1リーグは最終節を迎えた。今シーズンも最後の砦として数々の好セーブでゴールマウスを守ってきたGKのなかから、楢﨑氏にシーズンを通して最も優れたパフォーマンスを発揮したGKを選んでもらった。
【動画】「GKに求められる最も重要な要素が凝縮」 楢崎正剛氏が絶賛、年間ベストGKに選出されたG大阪東口が8月に見せた好セーブ
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2022年のJ1リーグは横浜F・マリノスの優勝で幕を閉じた。今月7日に開催されたJリーグアウォーズでは同チームのGK高丘陽平がベストイレブンに選出され、元日本代表GK楢﨑正剛氏は納得の表情を浮かべた。
「リーグ制覇した横浜F・マリノスがシーズン通して安定した戦いをできていたのは、最後尾に高丘選手がいたからといっても過言ではありません。的確なセービングはもちろんのこと、11人のうちの1人として攻撃プレーにも積極的に関わっていました。GKとして90分間という試合を作っていくための役割を、マリノスのスタイルのなかで表現していた。ベストイレブン選出に誰も異論はないでしょう」
楢﨑氏は常々言っている。良いGKの条件は「チームを勝たせることのできるGK、試合を壊さない選手」と。現代サッカーではGKが多岐に渡る仕事を求められるが、すべては所属チームの勝利や結果のため。高丘のパフォーマンスは「すべてにおいてハイレベルだった」と目を細める。
そんななか、年間を通して月間ベストセーブを選定してきた視点で名前を挙げておきたい選手がいるという。ガンバ大阪の東口順昭だ。
残留争いに巻き込まれる苦しいチーム状況においても、実績にたがわぬ高いパフォーマンスを見せた。監督、選手の投票で決まる優秀選手にノミネートされたのが動かぬ証拠だろう。3月に右膝内側半月板損傷の手術を行った影響でシーズン前半を棒に振ったものの、復帰後は絶体絶命のピンチを幾度となく救った。
楢﨑氏があらためて東口の存在感について語る。
「なかなか結果が伴わないチームとしても、怪我があった個人としても、とても苦しいシーズンだったと思います。リーグ終盤、ガンバ大阪は残留できるかどうかの際どい状況に追い込まれていました。そこで、彼はひとりでチームを救うパフォーマンスを見せた。特にすべて無失点で終えた残り4試合はガンバを残留させる最大の要因になりました」
「技術や理論だけでは語り切れないセービング」と評した第31節の柏レイソル戦
数多くのファインセーブを見せたなかで、楢﨑氏が「この試合は特に印象に残っています」と切り出したのは10月2日の第31節柏レイソル戦だ。
前半から被決定機を幾度となく防ぎ、迎えた後半22分。左サイドからのクロスボールをドウグラスに頭で合わせられた。至近距離から打点の高いヘディングシュートに襲われたこの場面で、東口は身体を面にするようにして対抗。ボールを身体に当てて危機を脱し、理屈では語れないビッグプレーでチームに活力をもたらした。
「技術や理論だけでは語り切れないセービングでした。経験に基づいた動きや準備は大切ですが、最終的には本能というか、GKに求められる最も重要な要素が凝縮されていたように感じます。このシュートが決まらないならこの試合はもう決められないかもしれないな、と相手に思わせるほどのシュートセーブでした」
試合をスコアレスドローで終え、G大阪は勝ち点1を獲得。すると東口の鬼気迫るパフォーマンスがチーム全体に伝播したのだろう。柏戦を含めたラスト4試合を2勝2分けで乗り切り、辛くも15位でJ1残留を決めた。
J1参入プレーオフ決定戦に回る16位の京都サンガF.C.との勝ち点差はわずかに1ポイント。得失点ではG大阪が劣っていたため、柏戦で獲得した勝ち点1が大きな意味を持った計算になる。
「リーグ戦は終盤だけがドラマではありません。34試合トータルの結果で競うわけですから、どの試合の勝ち点が最終的な価値を決めるのか、判断が難しいところもあります。ですが、このケースに限って言えばガンバが窮地に立たされていたのは紛れもない事実。追い込まれた精神状態でプレーするなかで、そこで力を発揮できるかどうかは本当の意味での選手の価値につながります。プレーヤーにとって真の力量が問われるシチュエーションで、東口選手は最高の仕事をやってのけました」
昨今、GKは外国籍選手の活躍が目立つなかで、依然としてリーグ屈指のGKとして呼び声高い東口。36歳とベテランの域に差し掛かっているが、楢﨑氏は経験に基づいた持論を展開する。
「僕自身もプレッシャーがかかる状況でプレーした経験があります。リーグ優勝した時は重圧を感じましたし、日本代表でも期待とともに責任を求められました。残留争いをしてなんとか持ちこたえたこともありますし、反対に残留させられなかった苦い経験もあります。これらを振り返って感じるのは、年齢を重ねるほどプレッシャーが重くのしかかるということ。自分がやらなければ、という思いもあったのでしょう。ただ、フィジカルやメンタルをトータルで考えた時に、僕が一番動けていたと感じるのは30代半ばくらいの時期です。自分自身の能力を把握し、チーム状況とゲームの流れを読めて、それでいて落ち着いてプレーできる。おそらく東口選手もいろいろなものが見えているタイミングではないでしょうか」
修羅場をくぐってきた数だけ、それは血肉となるのだろう。J1残留というタスクを見事に達成し、その原動力となった東口はますます円熟味を増している。



