G大阪史上最高の助っ人と断言できる。チームを救ったブラジル人はパトリックだけだった【番記者コラム】
「僕は絶対に諦めることのないメンタリティを持っている」
悲願だったクラブ初タイトルに貢献したアラウージョ、シュート精度がずば抜けていた元セレソンのマグノ・アウベス、アジア初制覇に貢献した人格者のルーカス……。過去、様々なブラジル人選手が、ガンバ大阪の歴史にその名を刻み込んできた。
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しかし、長年G大阪を追い続けてきた筆者の私見ではあるものの、クラブ史上最高の助っ人は、パトリックだと自信を持って断言できる。
過去タイトル獲得に貢献したブラジル人は数多くいたが、残留争いでもチームを救ったのはパトリックのみである。
2014年の三冠達成の原動力になっただけでなく、昨季と今季は2年連続でチーム最多スコアラーとして残留に貢献。その印象的なゴールの数々がなければ、G大阪はすでに昨年、2度目のJ2降格を余儀なくされていてもおかしくなかったのだ。
アラウージョやルーカスらのように際立った技術を持つどころか、14年の加入当初、練習で一緒にボールを蹴った宇佐美貴史は「最初のパス練習の時、まともにボールが足に当たってなくて、コイツ素人かと思った」と当時、率直な言葉を口にしたことがあるが、35歳を迎えた現在でも技巧派とはお世辞にも言えないプレースタイルであるのは間違いない。
強靭なフィジカルを生かした強みは、いまさら言及するまでもないだろう。ただ、母国ブラジルでメインストリームを歩んでこなかったパトリックだからこそ持つ強みは「僕は絶対に諦めることのないメンタリティを持っている。展開がどんなに難しくても、絶対に勝つことを諦めないね」と公言する心の強さである。
そんなパトリックの真骨頂が発揮されたのは14年の三冠イヤーで最初の栄冠となったナビスコカップ(現ルヴァンカップ)決勝戦。サンフレッチェ広島相手に前半だけで2点を追いかける絶体絶命の状況にも、まったく顔色を変えることなく、2ゴールを叩き込んで逆転優勝への足がかりを作ったのだ。
「『ナビスコを勝ててなかったら、たぶんひとつもタイトルを獲れてなかっただろうな』と健太さんもあとに言っていた」と宇佐美は語ったことがあるが、パトリックの追撃弾が三冠への呼び水となったのだ。
腐るどころか「ガンバ愛」は不変だった
長谷川健太監督が率いた当時は圧巻の推進力と空中戦の強さで相手守備陣を蹴散らす、フィジカルモンスターだったパトリックだが、近年はヘディングよりもむしろその足でゴールを量産してきた。
「僕は年齢的なものをあまり気にしていなくて、今自分が置かれている現状、つまり自分が成長するために何がベストかを考えてやっている」(パトリック)
コロナ禍のなかで、クラブ史上例を見ない超過密日程を強いられた昨季、パトリックはチーム最多の13得点をマーク。興味深いのはヘディングシュートがわずか4点だったことと、決してチャンスを多く作り出せない今のG大阪にあって、驚異的な決定力で相手ゴールネットを揺さぶってきたことである。
パトリックが多くのサポーターを魅了し、時にチームメイトを驚嘆させてきたのはその勝負強さだけでなく、その奇想天外なプレースタイルではなかろうか。
昨年11月27日のアウェー、大分トリニータ戦は残留争いの直接対決だったが、G大阪はパトリックの「パットトリック」で3-2の劇的な逆転勝ち。J1残留を決めたが、パトリックは難易度の高いシュートを含めてすべて足によるシュートで3点をゲットした。
「練習でも見たことがない」としばしば、チームメイトは評するが今季も残留争いの大一番だった10月29日のジュビロ磐田戦では途中出場でピッチに立つとオーバーヘッドで試合を決定づける一撃を叩き込んでみせた。
片野坂知宏前監督が率いた時、戦術的な理由とのことで5月21日の「大阪ダービー」はメンバー外。ブラジル人であれば最もモチベーションを高めるはずのダービーでサブメンバーにも入れなかったパトリックだが、腐るどころかその「ガンバ愛」は不変だった。
パトリックが今季決めた5得点は決して突出した数字ではなかったが、ゴールを決めた5試合はすべて勝利につながっており、うち3得点は決勝ゴール。勝点1差でJ1参入プレーオフ行きを回避したG大阪にとって、文字どおり値千金のゴールだった。
日本語でサポーターへの想いを伝えたいという流儀
G大阪では最後の公式戦出場となったアウェーの鹿島アントラーズ戦後、安堵感を見せながらミックスゾーンに姿を表したパトリックと筆者のやり取りは、側から見ると風変わりに見えただろう。
ポルトガル語で質問する日本人記者に対して、ブラジル生まれのストライカーはすべての質問に対して日本語で答えを返してきた。
「サポーター、とても嬉しい。選手、とても嬉しい。スタッフ、とても嬉しい、今日」
DAZNのフラッシュインタビューなどでもお馴染みの光景だが、通訳を通じた言葉でなく、自身が口にする日本語でサポーターへの想いを伝えたい、というのがパトリックの流儀なのだ。
鹿島戦から2日後の11月8日、G大阪はパトリックとの契約が今季で満了すると発表した。
「今クラブを出ることになるのは想像していなかったです」。クラブを通じて発表したコメントからも、自身が望んだ契約満了でないのは明らかだが、功労者にもいつかは別れが来るのがサッカーの世界。
「脱パトリック」へと舵を切ったクラブの判断は決して間違いではない。ただし、それは来季パトリックの不在を感じさせない補強が大前提ではあるが……。
自身の感情を表現する時「メチャ」という言葉を用いることが多かったパトリック。
もはやポルトガル語で別れを伝える必要はないだろう。
「ありがとう、パト。そしてメチャ、寂しいよ」
筆者の率直な思いである。



