【番記者の視点】G大阪、薄氷のJ1残留 立役者は宇佐美貴史、最大功労者は松田浩監督
◆明治安田生命J1リーグ第34節 鹿島0―0G大阪(5日、カシマ)
最後まで苦しみ抜いた。最終戦、特に後半は一方的に攻め立てられながら、守り切ってのドロー。この勝ち点1が、J2との入れ替え戦に回った16位・京都との差になった。松田浩監督をはじめ、多くの選手たちの思いは「ほっとしました」だった。
J2降格した12年以来となるシビアな残留争い。9月に右アキレス腱の断裂から復帰した宇佐美は「ずしっと重力が重くなるような感覚。何をしていても、本気では笑顔になれない。日常生活に支障をきたしましたよ。おいしいごはんを食べても、夜寝る前も、朝起きていい天気で、本来なら幸せやなあ、って感じるとき、全部にでも…って付いてくる。でも(J2に)落ちそうやしな、と言う感覚が頭にこびりついていた」と重圧と戦った日々を振り返った。
9月18日の第30節・神戸戦で逆転負けを喫し、降格圏の17位に沈んたチームにとって、宇佐美の復帰は最後の光明だった。10月1日の第31節・柏戦で約7か月ぶりに復帰すると、メンバー外となっていたMF倉田に代わってキャプテンマークをまき、技術面、精神面ともにチームの拠り所となった。宇佐美の復帰後、チームはラスト4試合で2勝2分け。得点こそなかったが、守備の時間が多い中でも「貴史につなげば何とかしてくれる」(DF昌子)とチームメートに言わしめた彼の存在がなければ、2度目の降格は避けられなかっただろう。
一方で最終節まで残留を争った低迷は、結果オーライと見過ごしていい問題ではない。片野坂監督の下「強いG大阪と取り戻す」という合言葉とともにACL圏内という目標を掲げ、攻撃的なスタイルを構築しようとスタートした今季。しかし宇佐美の負傷離脱や、FWレアンドロ・ペレイラら助っ人の力を生かせなかったこともあり、チームは低迷。片野坂監督は現実的に勝ち点を積み上げるため、相手に良さを消す受動的な戦いに傾いていった。しかし選手たちは理想とする攻撃的なスタイルとはかけ離れ、試合ごとに代わるメンバーや戦略に戸惑った。不満の声も漏れ聞こえたが、一方で「格下のチームが、相手の良さを消す戦いをするのは当たり前」と語る選手もいた。選手間でも考え方の違いもあり、チームの進む方向性は定まらなかった。
シーズン途中に解任された片野坂監督のあとを継ぎ、8月に就任した松田監督の功績は、チームの戦い方をはっきりと定めたことだ。布陣は4―4―2、攻撃は前線の個を生かし、守備は「ハードワークをシェア」しながら固いブロックを維持し、失点を減らした。ブラジル人選手たちを巧みに起用して戦力とし、勝った試合では極力先発を代えない、という方針も、少ない時間の中でチームをまとめるためにはまった。経験豊富な62歳の指揮官が示した「目の前に全力を」という姿勢は、降格が迫った危機的状況と相まって、選手たちの今持てる力を引き出した。
松田監督が就任して10試合で4勝3分け3敗、うち無失点が7試合。ブロックを下げてもゴール前で体を張り、セットプレーなど少ないチャンスで1点をもぎ取る、という戦い方は、シーズン当初に目指したスタイルとは正反対だったかもしれない。しかし残留というミッションを果たすためにはこれしかなかった。残留の最大功労者は、文句なしに松田監督と言える。
G大阪の小野忠史社長は、シーズン終了後の総括としてHPにて声明を発表。「『強いガンバを取り戻す』と言う目標に対しては大きな差がある状況となり、皆様のご期待に沿えないシーズンとなったことに、心よりお詫び申し上げます。来シーズンに向けては、ガンバ大阪としてのフットボールを構築し、強く、魅力あるチーム作りの実現を進めて参ります」(一部を抜粋)と語っている。クラブは松田監督の続投、新監督の招へいと両方の可能性を残し、来季の組閣に着手する。しかし最後まで来季がJ1かJ2か定まらなかったことで、現時点では選手補強などの動きで他クラブに遅れを取っていることは間違いない。
勝ち点37、入れ替え戦圏までわずか1差の15位。これが今の立ち位置だ。来季に向けては、まずはJ1残留、勝ち点40が現実的な目標になる。いつの日か攻撃的で強いG大阪の復活を、という願いはあるが、理想はいきなり成し遂げられるわけではない。来季はまず、J1で戦い続ける地力を養う1年となることを願う。(G大阪担当・金川誉)