自分を支えてくれた“同期”のために。筑波大MF岩本翔が見据えるチームの勝利と辿り着くべき未来

[8.9 関東大学L1部第13節 明治大 1-0 筑波大]

まだまだこんなものじゃないことは、自分が一番よくわかっている。もっともっと輝く場所へ、もっともっと陽の当たるステージへ、羽ばたくための準備は整った。筑波のために。そして、4年間を一緒に過ごしてきた仲間のために。

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「筑波に入って、4年間でまだタイトルを1つも獲れていないという悔しさが、一番自分の中で感じているところなので、自分も4年ですし、今年に入ってからはタイトルを獲るという目標を掲げています」。

筑波大が誇る、10番を背負った稀代のファンタジスタ。MF岩本翔(4年=ガンバ大阪ユース出身)は突き抜けた未来へと辿り着く日をしっかりと見据えて、今までの自分と新たな自分のハイブリッドを、真剣に目指していく。

「このチームの中で一番上手い選手なので、ボールが一番収まりますし、配球もできますし、彼にはピッチの中に立っていてほしい中で、まさに時間を作れる選手ということで、それを1つ後ろに置くか、一番前に置くか、だけなんですよね」。チームを率いる小井土正亮監督はそう語る。リーグ再開後。ここ2試合で岩本が任されているポジションは“一番前”。フォワードとしてピッチに送り出されているのだ。

第12節の東洋大戦ではいきなり今季リーグ戦初ゴールを叩き出すと、いったんは追い付かれながら、再び岩本が勝ち越しゴールをマークして、チームも2-1で勝利。「初めてフォワードで試合に出て、その試合で2点獲れたことは結構自分の中で自信に繋がりました」と話した本人に、「『オレってフォワードもできちゃうな』という想いはありました?」と尋ねると、「ちょっと、ありました(笑)」と返してくれるあたりに、本来持ち合わせているサッカーセンスへの自覚の一端も窺える。

ただ、この日は首位を快走する明治大のディフェンス陣相手に、苦戦を強いられる。「前回の試合よりプレッシャーも強く来られていた中で、あまり自分のところで時間を作れるプレーが少なかったですね」と語ったエースの岩本にもマークが集中。前半はボールも動き、アタックの機会も少なくなかったが、後半はなかなか良い形で前進することも叶わない。

結果は0-1の敗戦。「前半はワンタッチや速いテンポのパスで、良い場面を作れたところもあったんですけど、相手に少ないチャンスをモノにされて、自分たちもチャンスを作ることはできても、それが点に繋がらなかったので、悔しかったですね」。フォワードとしての“2試合目”は、改めて新たなポジションの難しさを突き付けられる90分間となった。

ジュニアユースから加わったガンバ大阪のアカデミー時代は、年代別代表の常連でもあり、U-23ではJ3リーグの公式戦も経験。ゴールも記録するなど、早くからその才能は多くの人の知るところとなっていたが、岩本は筑波大へと進学する道を選択する。

入学後もいきなり開幕戦から途中出場を果たし、関東大学リーグデビューを飾る。以降もコンスタントに起用されながら、得点を奪うまでには至らず、初ゴールを目指してさらなるステップアップを期していた1年生の冬に、想定外の出来事に襲われる。左ひざ前十字靭帯の断裂。重傷だった。

「ケガをした時は『長いリハビリになるな』ということはわかっていたので、チームに長い時間迷惑を掛ける分、復帰した時にはゴールや結果で恩返ししないといけないなというのは、常に考えながらリハビリをしていました」。結果的に2年生の1年間は丸々リハビリに費やすことに。本格的な戦線復帰は、3年生の夏まで掛かってしまうことになる。

決して短くなかった苦しい時期に、自分を支えてくれたのは、何よりも“同期”の存在だった。「やっぱり同期が常に一緒にいてくれましたし、いろいろなところで声を掛けてくれました。ツラい時の方が多かったですけど、同期がいてくれたからこそ、自分もこうやって復帰できて、今もプレーできているので、同期には本当に感謝しかないですね。自分が復帰した時にも、あれだけ長い間待ってくれていた選手たちと、どう一緒にプレーできるかを一番考えていました」。

2021年8月7日。リーグ復帰戦となった国士舘大戦で、交代出場から2分後に岩本はゴールを決めてしまう。自身の復活と周囲への感謝を最高の形で示した圧巻の一撃に、本人以上に喜びを爆発させるチームメイトたち。ケガをしたからこそ、一層感じることのできた仲間との絆は、これからの人生においても何よりの財産になることは、あえて言うまでもないだろう。

ジュニアユースとユースの同期には、カタールW杯に臨む日本代表入りを真剣に狙う旧友がいる。谷晃生。湘南ベルマーレの守護神であり、東京五輪でも正GKとして世界を相手に戦った男の存在を、岩本も意識しないはずがない。

「オリンピックに行っちゃったぐらいからは、ちょっと上に行き過ぎてしまいましたよね(笑)。ちょこちょこ連絡は取っているんですけど、やっぱり刺激になっています。中学から高1ぐらいまで一緒にやっていた仲間があれだけA代表でも活躍しているわけで、そういうところを自分も目指さないといけないですし、そのためにもリーグでもっともっと活躍しないといけないなと思っています」。

大きなことを言うタイプでないことは、少し話していれば察しが付く。ただ、心の中に秘めている、自分が立つべき舞台への想いは、言葉の端々に滲んでいた。昔から抱き続けてきた夢を叶えるために、今は目の前の自分と向き合っていく。

小井土監督が岩本について言及した言葉が印象深い。「前十字靭帯を切ってからは、なかなか彼のトップパフォーマンスは出せていないなと思います。その中でも、日々もがきながら頑張っている姿は毎日見ていますし、今は彼自身も何とか自分を輝かせるためにトライをしているので、『頑張れ!』って応援したくなる感じなんですよね。『新しい自分を掴んでほしいな』と思いながら一緒に時間を過ごしています」。

筑波のために。4年間を一緒に過ごしてきた仲間のために。そして、まだ見ぬ新しい自分を掴むために。優しく背中を押してくれるみんなの大きな力を感じつつ、日々もがきながら、トライし続けている岩本の進化は、まだまだこんなものじゃない。

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