“3人で年俸367億円”の衝撃…パリ・サンジェルマンの台所事情を探る
サッカー長者を集めたサッカークラブ
パリ・サンジェルマンというフランスのサッカークラブが、日本で旋風を巻き起こした。
プレシーズンマッチとして川崎フロンターレ、浦和レッズ、ガンバ大阪のJリーグのチームと対戦する予定で、7月17日に来日。サッカーにさほど興味がない人でも名前を聞いたことのあるであろうアルゼンチン代表リオネル・メッシやブラジル代表ネイマールに加え、前回ワールドカップで新鋭ストライカーとしてフランス代表の優勝に貢献したキリアン・エムバペら豪華なメンバーがやってきた。
ここに挙げた3人の選手は高給としても名を馳せている。米経済誌『フォーブス』が発表する2022年度版アスリート長者番付では、1億3000ドル(約178億円)を稼いだメッシが首位で、ネイマールが9500ドル(約130億円)で4位、エムバペが4300ドル(約59億円)で35位にランクインしている。
サッカー選手で50位以内に入った選手は、その3人を含めて5人しかおらず残りの2人はマンチェスター・ユナイテッドに所属するポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド(1億1500万ドル/約158億円/3位)と、リバプールに所属するエジプト代表のモハメド・サラー(4500万ドル/約62億円/33位)のみとなっている。
ちなみに、その他にランクインしたアスリートと挙げると、1億2120万ドル(約166億円)を稼いだバスケットボールのレブロン・ジェームズが2位、同じくバスケのステフィン・カリーが9280万ドル(約127億円)で5位、ゴルフのタイガー・ウッズが6800万ドル(約93億円)で14位、テニスの大阪なおみが5920万ドル(約81億円)で19位、大谷翔平の同僚であるマイク・トラウトが4950万ドル(約68億円)といった様相だ。
高額選手を集められるワケ
そんなサッカー選手の長者トップ5のうち、3人も所属するパリ・サンジェルマンは、なぜ高額な選手を取りそろえることができるのだろうか。
パリ・サンジェルマンは決して歴史のあるクラブではない。1970年に2つのクラブが合併してできたクラブで、ヨーロッパで名を馳せるようなメガクラブに比べるとその歴史は浅い。創設から4年後の1974年にトップリーグへの昇格を果たし順風満帆な出だしとなったが、そこから40年近くは降格こそないものの、数年に一度の割合でタイトルを獲得する程度で、今ほど圧倒的な強さを誇ったわけではなかった。
クラブとして大きな転機を迎えたのは2011年で、カタール・スポーツ・インベストメントがクラブの筆頭株主となってナセル・アル・ケライフィ氏が会長に就任し、現在の礎を築き始める。莫大な資本を得たクラブは次々と名のある選手を獲得。2012-13シーズンから昨シーズンまでの10年間で8度のリーグ優勝を経験するなど、まさに黄金期を迎えている。
投資は回収できているのか?
2017年にFCバルセロナからネイマールを獲得する際には2億2200万ユーロ(現在のレートで約308億円)の世界最高額の違約金を支払ったり、エムバペをASモナコから獲得するために1億8000万ユーロ(現在のレートで約250億円)を用意したりと、近年のパリ・サンジェルマンはその支出ばかりが取り上げられた。実際に2011年からの11年間で14億4000万ユーロ(約2002億円)もの金額を選手の移籍金として支払っている。しかし、湯水のようにお金を注ぎ込むだけでなく、しっかりと事業として成立させ回収している。
監査法人デロイトが毎年公表している世界サッカークラブ長者番付にパリ・サンジェルマンが登場したのは2012-13シーズンの収益ランキングになり、3億9880万ユーロ(現在のレートで約554億円)という額でレアル・マドリード、FCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッドに次ぐ5位にランクイン。前年度までは20位より下位の圏外だったにもかかわらず、いきなりトップ5入りを果たしている。その後はずっとトップ10入りしており、9年間の平均収益を5億1500万ユーロ(約716億円)としている。単純計算ではあるが、高額な選手を獲得した投資をきっちりと回収している。
また、クラブ長者番付にランクインした当初は収益の23%ほどが放映権による収入だったのだが、2020-21シーズンには全体の収益の36%ほどが放映権による収益となっており、その額も2.2倍ほど伸ばしている。さらに、フランスのリーグアンに関する放映権を保有するひとつがbeINメディアグループなのだが、その会長を務めるのがパリ・サンジェルマンでも会長を務めるアル・ケライフィ氏で、放映権を高く買い取ってクラブの収益をつくり、自ら作り出したソフトであるパリ・サンジェルマンを含む放映権を各国へ高く売るというカラクリをつくり上げている。
代表戦よりも高い“強気の価格設定”
今回のジャパンツアーも収益をつくる事業のひとつとなっている。まず、20日に国立競技場で行われた川崎戦では、6万4922人が観戦。6月6日に行われた日本代表vsブラジル代表で記録した6万3638人を抜いて、新しくなった国立競技場の最多観客数記録を更新した。続いて行われた埼玉スタジアム2002での浦和戦、パナソニックスタジアムでのG大阪戦でも満員御礼で人気の高さをうかがわせている。
そのチケットの価格を比較しても、パリ・サンジェルマンのすごさがわかる。同じ国立競技場で行われた日本代表vsブラジル代表の試合と比較すると、日本代表戦のカテゴリー1で8900円に対して、川崎vsPSGは28000円という価格だった。最も安い第3層のゴール裏でも3200円に対して7000円となっており、同じ競技場の同じ席でも2倍から3倍近く高額とする強気な価格設定で販売。にもかかわらず、日本代表vsブラジル代表よりも川崎vsPSGのほうが集客数が多いという結果になり、チケットの売上高だけでも単純に3倍近い差をつけることになった。
また、来日したスーパースターらは試合日以外にも積極的に稼働して各種イベントに参加。連日ニュースとして取り上げられており、来日中は名前を聞かない日がなかった。そういった毎日の露出効果も影響し、クラブのオフィシャルグッズも好調に売れ行きを伸ばしたという。特に、会場での物販はどの会場も売り切れに近い状態となり、近年来日を果たしたどのヨーロッパのクラブよりもグッズを売っていったとうわさになっている。
実際には、クラブとプロモーター間で契約を締結してジャパンツアーの契約金が支払われ、チケットの売上やグッズの売上は直接的にクラブの売上にはなっていないのだろうが、およそ1週間ほどの滞在にもかかわらず大金を動かしていったことがよくわかる。
お金持ちの道楽として大金を投じてスーパスターを集めた金満チームというイメージが強いパリ・サンジェルマンだが、大きな額の投資で大金を稼ぐ仕組みをつくり上げたハイリスク・ハイリターンを実現させたドリーム・チームなのだ。今後しばらくはこのスタンスが変わりそうもないので、引き続き世界のサッカー界を席巻する注目のチームと言えるだろう。