北川信行の蹴球ノート 他チームのサポーターを歓迎し、受け入れる寛容さが日本のサッカー文化をつくる

「いいな」と思う光景に出合ったので、紹介したい。17日にJ1、京都サンガサンフレッチェ広島が行われた「サンガスタジアムbyKYOCERA」(京都府亀岡市)での試合後の出来事である。同スタジアムの指定管理者である「合同会社ビバ&サンガ」が初の試みとなるピッチサイドでのテント泊を含めたイベント「DREAM FESTA」を開催していた。ちなみに、試合は1-1の引き分けだった。

【写真】試合後のピッチでミニサッカーを楽しむ子供たち

■選手たちがプレーしたばかりの場所で…

同様のテント泊は他のクラブでも既に実施しているが、ユニークだったのはJリーグのナイター試合が行われたばかりのスタジアムを使用したこと。参加したのは21組57人。時計の針は既に午後10時を回っていたが、ピッチサイドの人工芝部分にテントやテーブルセットといったキャンプに必要な設備がズラリと配置され、憧れの選手たちがプレーしたばかりのピッチ内では、イベントに参加した子供たちがミニサッカーに興じていた。熱闘の余韻が残るスタジアムの天然芝で、思う存分ボールを蹴れる機会は、そうはない。

■胸スポンサーを見ると…

「いいな」と思ったのは、それだけではない。多くの人が試合を観戦した際に着ていた紫色のレプリカユニホーム姿のままイベントに参加していたが、目をこらすと胸スポンサーが京都サンガの「KYOCERA」ではない家族連れが1組いる。刻まれていたのは「EDION」の文字。同じ紫色が基調なので気づきにくかったが、サンフレッチェ広島のサポーターも一緒に楽しんでいた。

尋ねてみると、広島から同スタジアムを訪れたわけではなく、京都市在住の一家だったが、父親の影響で家族全員がサンフレッチェ広島のサポーターになっているとのこと。対戦相手のサポーターを分け隔てなく受け入れた主催者と京都サンガサポーターの寛容さをたたえたい。

これこそ日本流のサポーターの在り方、交流の仕方ではないかと思う。試合では激しく戦う選手たちをそれぞれ応援し、終われば健闘をたたえ合い、一緒にイベントも楽しむ。サッカーが盛んな欧州では、地元のチームとその他のチームのサポーターを峻別し、対決意識を鮮明に打ち出す歴史や文化を持つ地域もあるが、そんなことまでマネする必要はない。2019年のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の際にさかんに喧伝(けんでん)されたラグビー界の「ノーサイドの精神」は、日本サッカー界も積極的に取り入れてもいいのではないかと思う。

■アウェーのサポーターを歓迎するメリット

ついでに紹介すると、ヴィッセル神戸のホーム試合の際に、ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)の場内放送で流れる「ようこそ神戸へ…」とアウェーチームのサポーターをリスペクトし、来場を歓迎するアナウンスにも、拍手を送りたいと思っている。

ホームチームのサポーターだけでなく、アウェーチームのサポーターも楽しめるスタジアム空間を創造することは、デメリットよりもメリットが大きいと思うからである。例えば、アウェーチームのサポーターがスタジアム回りで飲食すれば、それだけ出店や地元の商店街は潤うことになる。いい印象を持ってもらえれば、リピーターになるかもしれない。あるいは、自分たちのチームでも同じような取り組みを始めようという動きが広がるかもしれない。新型コロナウイルス禍による来場者減をコロナ禍前まで回復させる手立ての一つは、いかにアウェーチームのサポーターを取り込むかではないか-とさえ思う。

かつて関西では京都サンガ、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、ガンバ大阪の4クラブの社長が定期的に集まる「社長会」が開かれていた。懇親の意味合いが強かったが、抱える課題を話し合い、4クラブが歩調を合わせて解決に取り組んだり、Jリーグに意見具申したりする姿勢も見せていた。ピッチで激しく戦う一方で、試合運営やイベントなどでは互いに協力しあう。そういう文化はもっと醸成されていいのではないか。

先週、日本サッカー協会は日本のサッカーのありかたや将来への展望などを記したビジョン『Japan’s Way』を公表し、その中で「世界一サッカーで幸せな国になることを目指していく」との理念を打ち出した。「フットボール・ファミリーの拡大」の章では「多様なグループが真に楽しめるものであること」「多様な価値観、楽しみ方を、寛容に受け入れること」などの指針が示されている。主に「する立場の人たち=プレーヤー」を念頭に置いた指針だが、「見る立場の人たち=ファンやサポーター」もそうあってほしい。また「支える立場の人たち=チームやクラブのフロントなど」も、日本流のサッカー文化を根付かせる努力を続けてほしいと思う。

https://www.iza.ne.jp/

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