<ガンバ大阪・定期便37>ワクワク感溢れる、パナスタ新時代へ。サポーターの今。

■入場曲『Bolero』に込められた想い。

 今シーズン、ホームゲームでの入場時に流れる音楽がある。Def Techの『Bolero』だ。コロナ禍が続き、未だ『声』での応援が再開されない状況下、「スタジアムを盛り上げる要素の1つになれば」との思いから、クラブスタッフが議論を重ね、選曲された。

 選曲にあたったのは、スタジアム運営に携わるクラブスタッフ5〜6名。それぞれが入場シーンをイメージして「これは!」と思う曲を3〜5曲ずつ提案し、それぞれが集まった約20曲を繰り返し聞いて検討を重ねたそうだ。その中から、選手のロッカーアウトから入場までの時間を考慮し「ロッカーアウトした選手がスタジアムに入ってきた瞬間に、ボルテージが最高潮の状態に持っていけるような曲を」という狙いも踏まえて『Bolero』に決定した。

 実はこの曲を提案した、運営担当の川島洋斗氏は、ガンバ大阪ユース出身。かつては、同期の市丸瑞希(VONDS市原)や高木彰人(ザスパクサツ群馬)、初瀬亮(ヴィッセル神戸)らとともにプロになることを目指した選手だった。残念ながら、トップチーム昇格は叶わなかったが、そのユース時代を含め、中学生の頃から試合前に必ず聞いていたのが『Bolero』だった。

「プロサッカー選手を目指してサッカーをしていた中で、音楽を聴いてモチベーションを上げるタイプだった僕は、いつも試合の日は自分の好きな曲を聴いて気持ちを高めていました。中でも『Bolero』は、試合直前のロッカールームで聴いていた曲。ピリッとした空気が漂う中で、さぁ、これから試合に行くぞ、という時に気持ちを引き締め、自分を昂らせてくれる曲でした。ガンバユースでの3年間はスーパーな同世代にたくさんの刺激を受ける毎日で、将来はガンバのユニフォームを着てJリーグのピッチでプレーすることが目標でした。実際、万博記念競技場のスタンドからトップチームの選手が戦う姿や勝利に湧くサポーターの皆さんの姿を見て、あるいは14年の『三冠』などを目の当たりにして、何度も『自分も、あそこに立ちたい』と思っていました。結果的に、その目標は叶わなかったですけど、こうしてクラブスタッフとしてガンバに戻ってくることができて幸せです。あのスタジアムの高揚感、ファン・サポーターの皆さんの熱を知っている一人として、アカデミー時代から変わらずに持ち続けているクラブ愛をしっかり携えて、日々、情熱を持って仕事にあたろうと心がけています。その中で、大好きな『Bolero』がガンバを盛り上げる曲になっているのは素直に嬉しいし、僕自身、ホームゲームで毎試合、この曲を聴くたびにいろんなことを思い出して、パワーをもらっています(川島氏)」

 記憶に新しい6月18日のJ1リーグ17節・横浜F・マリノス戦ではサッカーと音楽をコラボレーションしたイベント『GAMBA SONIC』が開催。選手の入場時には、最初のパフォーマーに選ばれたDef Techがでその『Bolero』を熱唱し、スタジアムを盛り上げた。試合運営にあたっていた川島氏は仕事に追われて、ゆっくり楽しむことはできなかったが、リハーサルの段階ですでに「鳥肌が立っていた」そうだ。

「家に帰ってから、動画でDef Techさんがパナスタで歌っている姿を何度も目に焼き付けました。曲のパワーがあってこそですが、SNSなどでもご来場いただいた皆さんからたくさんの反響をいただきましたし、選手の皆さんにも『すごく良かった』と言ってもらえて嬉しかったです。ファン・サポーターの皆さんにとってガンバを思い出すパワーソングの1つになったら嬉しいし、チームの戦いを後押しするものになったらいいなと思っています(川島氏)」

■パナスタを、いろんなワクワクを感じられる場所に。

 今後も定期的に開催されるという『GAMBA SONIC』を含め、ガンバは今シーズン、パナソニックスタジアム吹田におけるさまざまなイベントを企画している。『GAMBA EXPO』は、毎年恒例となった一大イベントだが、顧客創造部・企画課長の奥永憲治氏によれば、それ以外にも「スタジアムに足を運ぶ高揚感を高められるイベント」を開催予定だという。

「ご来場いただくファン、サポーターの皆さんは、一番に試合を楽しみにされていらっしゃると思いますが、今後も、試合以外のところでも楽しんでもらえる、よりスタジアムに足を運ぶ高揚感を高められるようなイベントを提供していきたいと考えています。それによって、スタジアムを後にする時に『今日は試合も、スタジアムも楽しかったね』という思いになっていただくことが理想です。先日のJ1リーグ19節・浦和レッズ戦での花火もその1つでしたし、週末の『大阪ダービー』はロート製薬さんのパートナーデーとして、ご来場の方全員に暑さを少しでも緩和してもらおうと団扇の配布を予定しています。またアイスクリームのサンプリングも行いますし、今シーズン最大数の飲食ブースの出店や、MBS『ガンバTV』とガンバOBのご協力のもとでのトークショーの実施など、場外でも楽しんでもらえる企画を準備しています。また、8月14日の清水エスパルス戦で開催する『GAMBA EXPO2022』はおかげさまで、ファン・サポーターの皆さんに馴染みのあるイベントとして定着しつつありますが、そんなふうに今後も皆さんに『定番』で楽しんでいただけいるイベントを随時、開催していくことで、スタジアムに足を運ぶことが、より皆さんの生活の中で描きやすくなれば嬉しいです(奥永氏)」

 19年から続くコロナ禍にあって、Jリーグは未ださまざまな制限のもとで開催されている。段階的に入場者数の制限が緩和されたり、『声出し応援』が実験導入されたりといった前進は見られるものの、正直、観客数を含め、かつてのスタジアムの賑わいを取り戻すにはまだまだ時間がかかるだろう。だが、そんな今だからこそ、積極的な仕掛けを行っていきたいと奥永氏は言葉を続ける。

「今シーズン、ガンバは新エンブレム・ロゴと共に日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランドになることを宣言しました。その上で、さまざまな活動を展開してきましたが、スタジアムでも新たな体験を生み出せるような企画を積極的に行っていきたいと考えています。近年はコロナ禍で、ファン・サポーターの皆さんにもたくさんの我慢をお願いしている状況もあり、本来のパナスタの熱狂や高揚感を味わっていただくことができていません。にもかかわらず、たくさんの方にスタジアムに足を運んでいただいて、拍手やフラッグでチームに熱を送っていただいていることをクラブも、チームもとても心強く感じています。そんな皆さんの思いに応えるためにも、僕たちクラブスタッフは、パナスタで過ごす時間がより楽しいものになるように、これからもたくさんのワクワクを届けていきたいし、そうして満員のスタジアムを取り戻す努力を続けることで、チームと共に戦いたいと思っています(奥永氏)」

■サポーターも大きな『プラス1』の応援を目指す。

 そんなふうに「チームと共に戦う」ことへの思いを強めているのは、サポーターも同じだ。ここ最近、スタジアムに足を運んだ方なら気づかれたかもしれないが、彼らの『熱狂』は今、少しずつ変化を見せている。

 きっかけは、今年の5月、ヨドコウ桜スタジアムで開催された『大阪ダービー』だろう。この試合後、一部のガンバサポーターによる観戦ルール違反行為が確認されたことを受け、クラブは当該サポーターが所属するグループメンバー全員に対し、ガンバのアウェイゲームを含む無期限入場禁止という厳罰を下した。毎試合、必ずと言って良いほどスタジアムに足を運び、ゴール裏から声援を送り続けてきた彼らのガンバを愛する思いに嘘はなく、だからこそ、それが間違った方法で表現されてしまったことを残念に感じる出来事だったが、そのことが『応援』を見直すきっかけになったのか。その直後に行われた6月1日の天皇杯2回戦・FC岐阜戦で、ゴール裏から届いた拍手やその熱に変化を感じたこともあり、続くホームでのJ1リーグ17節・横浜F・マリノス戦でゴール裏に足を運んでみる。

 サポーターの中心グループの1つで、応援の先頭に立つTIFOSO所属のハタケさんが教えてくれた。

「コールリーダーが変わっても大きく応援を変えるつもりはなく、長い時間をかけてみんなで作ってきた応援スタイルは継承していきたいと思っています。ただ、リーダーそれぞれに色があり…僕自身は、手拍子の長さとか、みんなが応援に入りやすいようにメリハリをつけることは心がけていて、それによってこれまでとの変化を感じ取っていただいたのかも知れません。応援をリードしていく中で、より意識しているのは、環境としては日本一だと自負しているパナスタのスタジアム環境を活かして、ゴール裏だけではなくメインスタンド、バックスタンドを含めた『スタジアム全体で作る応援』です。そのために、一般のお客さんが応援に参加しやすいようにするにはどうすれば良いのか、みんなで常に話し合っていますし、その取り組みの1つとして、僕らのグループで手拍子の応援歌詞カードみたいなものを作って、配布させてもらっています。それによって初めて観戦に来られた方にも、少しでも応援に参加してもらえたら嬉しいな、と。スタジアムに足を運ぶ人たちは、みんなガンバが好きなはずで、一人で頑張って応援するというのも否定しないし、大事な『1』だとは思います。でもその1が、1万、2万、3万で作る『プラス1』になれば、とんでもなく大きな力になる。そして、その大きな『プラス1』の応援ができれば、きっとチームにも大きなパワーを贈ることができるはずです。僕自身、実際にそういう雰囲気をスタジアムで体感して、もっとガンバを好きになって、応援するのが楽しくなって、というのを経験してきたからこそ、応援って楽しいものだよ、ゴール裏って楽しい場所なんだよ、ということを仲間と一緒に、よりたくさんの人に伝えていけたら良いなと思っています(ハタケ氏)」

 そうした思いが少しずつ形になりつつあるのか、以降のホームゲームでもサポーターを中心にスタンドから届けられる応援は今も少しずつ変化を続けている。相変わらず『声出し応援』はできないため、わかりづらいかもしれないが、選手たちの熱が伝わるプレーにはその都度、拍手が贈られ、例えば、J1リーグ19節・浦和レッズ戦の後も、攻守にハードに戦い抜きながらも勝ちきれなかった選手をバックスタンドも、ゴール裏も、メインスタンドも拍手で迎え入れた。その様子を見ながら、ハタケ氏の言葉を思い出す。

「もちろん、僕らは勝利が一番嬉しいです。でも、サポーターってある意味、すごく単純なので。選手が懸命に闘っている姿を見るだけで『次も頑張って応援しよう』って気持ちになる。だって、みんなガンバが大好きですから(ハタケ氏)」

 ガンバの新たなホームスタジアムとして、パナソニックスタジアム吹田が誕生して7シーズン目。ガンバを愛するすべての人たちの思いを結集させて、パナスタは今、コロナ禍に逞しく立ち向かいながら、新たな時代に突入しようとしている。

そうした中で迎える、今週末の『大阪ダービー』。ホームでは、4年ぶりに入場者数の制限が取り払われた中での開催となる。

「ダービーは負けられない試合ではなく、勝たなければいけない試合(ハタケ氏)」

 サポーターの間でも、そんな思いを強めていると聞く伝統の一戦に、特別な熱狂が待ち受けていることは言うまでもない。

https://news.yahoo.co.jp/byline/takamuramisa

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