後半戦の巻き返しなるか ”残留争い”の渦中にあるJ1リーグ下位6チームの現状と課題
【識者コラム】浦和は“最も期待を裏切られたチーム”で、巻き返しの可能性も十分
J1リーグはインターナショナル・マッチデー(IMD)前までで第16節を消化。サンフレッチェ広島とガンバ大阪の第15節が6月29日に延期されたが、シーズンの折り返しまであと1試合で中断期間を迎えており、中間査定をするにはベストに近い時期だ。
そこで今回は”残留争い”に巻き込まれそうな状況にある下位6チームの現状と課題、ポジティブな要素などを分析して紹介する。
■13位:ガンバ大阪(4勝5分6敗/17得点20失点)
大分トリニータを率いていた片野坂知宏監督を迎えての新シーズン。4勝5敗6分という数字は特別に悪い数字ではないが、この順位にいる理由はだいたいはっきりしている。もちろんエースとして期待を背負うFW宇佐美貴史の負傷離脱は非常に痛いが、片野坂監督の戦術が十分に浸透しているとは言い難く、4勝のうち完勝と言えるのは相手に早い時間帯の退場者が出た第12節ヴィッセル神戸戦(2-0)ぐらいだ。
3-4-2-1と4-4-2を併用する形で、守備で相手をハメて、攻撃ではズレを作るというプランは伝わってくる。個人の仕掛けや一発逆転のロングカウンター、そして終盤のメガトンハンマーで強引に殴るような攻撃しか得点パターンがなかった昨シーズンまでに比べると、意図的な崩しが見えるだけでも確かな進歩だが、まだ自分たちのものにできていないなかで、最後は個の力のウェートが大きくなるのは否めない。
MF齊藤未月とMFダワンというJ1屈指の守備強度を誇る中盤をベースに、FW山見大登などのスピードを生かしたショートカウンターに磨きをかけるのか。片野坂監督が得意とするサイドアタックの質を高めるのか。なんでもかんでも改善する余裕はないなかで、もっと強みを先鋭化させて行く必要はありそうだ。それと同時に無駄なボールロストを減らして、守備を安定させたい。
■14位:浦和レッズ(2勝9分5敗/15得点16失点)
筆者の中ではここまで、J1で最も期待を裏切られたチームだ。逆に言うと現在の下位チームの中で後半戦、最も巻き返す底力を秘めている。この時点で目標のリーグ優勝に手が届くには浦和の快進撃に加えて、上位がまとめて転げ落ちる必要があり、現実味は非常に薄い。それでもチームをIMDでしっかりと立て直して、1つ1つ勝ち点3を積み上げていった先に、どういう結果が待っているか。
今は自分たちに矢印を向けていきたいが、怖いのはなんとなくチーム状態が上向くことを信じて、精度とクオリティーを上げていけばいいというマインドになることだ。最大の課題はアタッキングサードの迫力だが、そこまでボールを運べても相手のセンターバックをボックス内ではがすところまで行けない。それは本格的なFWがキャスパー・ユンカーしかおらず、しかも怪我がちという事情もあるが、ボックス内に強さを出していかないと、いくら手前まで行けても何も起こらない。
もう1つがセカンドボールの回収力の低さで、実は低迷の大きな原因と考えている。自分たちからボールを動かすスタイルでやる以上、1試合に何度か危険なカウンターを受けるのは仕方がない。しかし、そのたびにセカンドを奪われて全体を下げさせられると、ボールを保持している意味がなくなってしまうのだ。
夏の補強を期待する声は多いが、そこのプラスがどうなるにしても、チームとしての設計調整は必要だと考えている。また中盤にはMF平野祐一、MF伊藤敦樹、MF岩尾憲、MF柴戸海など万能型ではないが、特長のあるタレントが多く、試合の適正に応じた組み合わせも鍵になりそうだ。
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■15位:ジュビロ磐田(3勝6分7敗/18得点25失点)
昨シーズンまで甲府を率いていた伊藤彰監督の1年目、しかも昇格シーズンということで、前半戦から簡単に行くわけがないと考えれば、少し甘く評価してしまいがちだが、主力の平均年齢などを考えても、このまま経験を積んでいけばチームが上向きになっていくというポジティブな見方は非常に危険だと考えている。
戦術的にも守備時は5-4-1、攻撃時は3-4-2-1をベースとしながら可変性の高いポゼッションで相手ゴールに迫るスタイルが、J1のステージで通用していない部分が多く見られることも確かだ。ただ、伊藤監督のポリシーを考えても、残留のために明確な堅守速攻に舵を切ることはおそらくないだろうし、そうするぐらいなら監督交代に踏み切るべきだろう。
希望の種としてはルヴァンカップで起用してきた若手選手が徐々に場慣れして、リーグ戦でも当初の主力とあまり差のないパフォーマンスを出せるようになってきたこと。中盤のMF鹿沼直生などは象徴的な1人だ。ただ、当初の主力を脅かすインパクトを出しているのは外国人FWのファビアン・ゴンザレスとリカルド・グラッサぐらい。現在の若手の成長速度では、チームを一気に浮上させる原動力にはなり難い。
特に基本的な戦い方を変えないなかで、システムや戦術のバリエーションを効果的に使いこなせるチームになって行くには、さらなる若手の奮起に期待するしかないが、彼らと別にJ1企画でのFWやセンターバックの補強が必要かもしれない。
■16位:清水エスパルス(2勝7分7敗/15得点24失点)
最も先が見えないチームだ。IMD直前に3連敗を喫して平岡宏章監督が契約解除となり、篠田善之ヘッドコーチが暫定監督となった。ここまでの戦いを筆者が観ていて感じたのは戦術的な発展性の乏しさだ。
ソリッドな4-4-2は相手にいい立ち位置を取られるとプレスがハマらず、常に後手後手の守備を強いれてしまう。ボールを持つ側になっても、守備のバランスが意識にあるのか、オフの選手が相手の嫌がるところにポジションを取っていけず、ボールホルダーの選択肢が限定される。
そうなるとMF鈴木唯人の推進力やFWサンタナのキープ力に対する依存度が強くなり、彼らに合わせてうしろが無理に押し上げると、ボールを失った時に裏返しのカウンターを受けてしまう。要するに悪循環だ。ジュビロ磐田との”静岡ダービー”のように両チームのかみ合わせでハマる試合もあるが、多くの試合で後手に回り、前線やサイドハーフの負担が無駄に大きくなってしまっていた。
いかなる監督が来ようと、シーズン途中からボールを握って相手を圧倒するようなサッカーはできないだろう。そうなると堅守速攻のベースに、攻撃で相手のディフェンスを上回る戦術プランを選手たちに与えられる監督ということになる。
ブラジル人のゼ・リカルド監督が就任したが、いわゆる欧州ベースの外国人監督が主流になっているなかで、この人事がどう出るのか。第1のタスクは残留圏に浮上させることだが、それで万々歳ではなく、しっかりと軸を持ったチーム作りが期待される。
最下位・神戸は目先の結果に捉われない先を見据えた戦いを
■17位:湘南ベルマーレ(3勝4分9敗/13得点23失点)
現在の”ボトム6”では最もチームとしてのバランスが取れているように見える。いい戦いをしながらも勝ち切れない、勝ち点3のゲームを3にできないのは湘南の課題だが、序盤戦はそれが顕著に出てしまった。大きな要因は前線の点取り屋を確立できていなかったことだ。
しかし、ここに来てFW町野修斗が”領域展開”しており、神戸戦(2-1)、川崎フロンターレ戦(4-0)と立て続けに2得点。一躍エースに名乗りをあげた。フィニッシュに自信が付くと、そこにどう持って行くかチームとして明確になってくる。いまだ1得点の瀬川祐輔や大橋祐紀、ウェリントンらほかのFW陣にも相乗効果が出てくるはずだ。もう1人、ルヴァンカップで結果を出しているFW池田昌生がリーグ戦でスタメンのチャンスをもらい、それに応える形で中盤のアクセント役になっている。
IMD前のセレッソ大阪戦は前半の早い時間帯と後半アディショナルタイムに失点して0-2の敗戦を喫したが、流れは悪くなかった。もともとボールに関わる強度は上位に迫るものがあるだけに、生命線であるハードワークを夏場にどう維持しながら、際の勝負をものにしていけるか。また若手の勢いも大事だが、苦しい時にMF米本拓司、MF永木亮太など経験豊富な選手を獲得した意味が出てくると残留、さらに上まで行く足掛かりになりそうだ。
■18位:ヴィッセル神戸(2勝5分9敗/14得点22失点)
開幕前は優勝候補に挙げる声もあったが、筆者はそこには疑問があった。やはり三浦淳宏前監督は優れたセレクターではあったが、戦術的な設計が明確ではなく、攻守の端々で出てくるラグを選手の能力や経験値で埋めていた部分は昨年から見られたからだ。
その要だったDFトーマス・フェルマーレンが現役引退、MFアンドレス・イニエスタが長期欠場となるとパフォーマンスの落下は否めず、またMFセルジ・サンペールの舵取りに頼るところも大きいので、彼の欠場も大きく響いてしまう。そうしたところを埋めるためにDF槙野智章やMF扇原貴宏を獲得したのだろうが、戦術プランが明確ではない新天地で明確なアイデンティティーを出すのは難しい。
ただ、そうは言ってもリーグ戦12試合まで未勝利が続き、最下位に低迷するとは予想できなかった。FW大迫勇也の不調、FW武藤嘉紀の離脱など、ここまで主力に想定外のことがあると苦しい。ACL直前にミゲル・アンヘル・ロティーナ新監督が引き継いだが、周知の通り戦術を緻密に組み上げていくタイプの監督で、応急処置には向いていない。
それでもチームに戦術プランができることはポジティブな要素であり、チームを作りながら結果も出して行くという難易度の高いミッションを監督スタッフと選手が共有して、一丸になっていけばシーズン最後まで残留争いをする戦力ではない。ただ、結果がどうなるにしても1年足らずで監督を交代するようなことはしないで、2年、3年で完成させて行くビジョンをクラブで描いてほしい。
神戸のような規模のクラブがJ2で戦うというのは大変なニュースになってしまうが、そこから返り咲いて翌年J1でタイトル争いに加わったり、さらにタイトル獲得を成し遂げた事例はいくつもある。もちろん今シーズンしっかり残留を決めて、来年の飛躍に持っていければベストだが、そこも目先の結果でジタバタしないプランニングが終盤戦での浮上につながると見ている。
[著者プロフィール]
河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。