なぜ代表復帰した堂安律は森保監督に突き付けられた“落選ショック”を「今は感謝している」と総括できたのか?
4ヶ月ぶりに日本代表へ復帰したMF堂安律(23、PSV)が31日、オンラインでメディアに対応した。森保ジャパンの初陣から継続的に招集されながら、3月シリーズで選外となった堂安は「いまは感謝している」と意外な心境を吐露。募らせた悔しさが公式戦で11ゴールをあげ、カタールワールドカップ代表入り争いに再び加われる原動力になったと明かした。チームはこの日、パラグアイ代表との6月シリーズ初戦(2日、札幌ドーム)へ向けて北海道入りした。
「落選したことで今の自分がいる」
胸中に募らせたネガティブな感情を、さらなる成長を遂げるための糧に変えた。
敵地シドニーで難敵オーストラリア代表を撃破した日本が、7大会連続7度目のワールドカップ出場を決めた3月シリーズ。森保ジャパンの命運がかかった大事な一戦で遠征メンバーにも加われなかった堂安は、パラグアイ戦を2日後に控えたオンライン取材のなかで、当時の心境を「もちろん悔しかった」と明かした。
「日本代表に入りたい、という気持ちでサッカーを始めたので」
少年時代を振り返りながらこんな言葉もつけ加えた堂安だったが、2ヵ月あまりがたったいまでは、悔しさとは対極に位置する思いを抱いている。
「それでも、今では感謝しているというか。ああして落選したことによって、今の自分がいると思っているので。なので、今は特に気にしていません」
ロシア大会後の2018年9月に森保ジャパンが旗揚げされてから、DF冨安健洋(23、アーセナル)とともに「飛び級」で招集され続けた。堂安の名前が見られなかったのは負傷で離脱している場合か、東京五輪代表に専念している場合だった。
A代表で居場所を築いていた自負があっただけに、選外になった直後の3月16日に自身のツイッター(@doan_ritsu)へ投稿したつぶやきが波紋を呼んだ。 「逆境大好き人間頑張りまーす! あ、怪我してません!!」(原文ママ)
アジア最終予選に突入してからは、堂安はともに途中出場で2試合、わずか32分間プレーしただけだった。主戦場とする右ウイングでは伊東純也(29、ヘンク)が絶対的な存在感を放ち、システム変更とともに生まれたインサイドハーフも守田英正(27、サンタ・クララ)と田中碧(23、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)で固定された。
今年に入ってからは中国代表戦で5分間プレーしただけで、サウジアラビア代表との大一番はベンチに座ったまま勝利を見届けた。激減していく出場機会に不満を募らせた結果として、森保監督との間に軋轢が生じたのではないか。意味深なつぶやきもあって、堂安が選外となった3月シリーズ以降はこんな憶測が飛び交った。
6月シリーズに臨むメンバーが発表された5月20日の記者会見。リストに再び堂安の名前を書き込んだ森保一監督へストレートな質問が飛んだ。
「堂安に態度の問題があったと噂が出ていた。和解して戻したのでしょうか」
困惑した表情を浮かべながら、森保監督はこんな言葉を返している。
「事実ではないので、どのように答えればいいのか。呼べる選手の枠が毎回決まっているので、素晴らしい選手が数多くいる日本の厚い選手層のなかで、招集に関してはすべての選手に保証できない。そこは共有させていただければと思う」
4月にヨーロッパを視察した際には、森保監督はアイントホーフェンへ足を運んで堂安と話し合いの場も持った。そのときのやり取りを、堂安はこう振り返っている。
「監督が思っていることも伝えてくれましたし、いい時間になったのかなと思う」
選外になった直後から、PSVで堂安が刻む軌跡はさらに右肩上がりに転じた。リーグ戦で出場した6試合はすべて先発。3つのゴールを積み重ねて、フローニンゲン時代の2017-18シーズン以来となる、公式戦でのゴールを2桁に到達させた。
4月17日には国内のすべてクラブが参加するKNVBカップ決勝で、勝ち点2ポイント差でリーグ戦の優勝をさらわれた宿敵アヤックスを逆転で撃破。後半途中から出場した堂安はチャンスを演出し、10シーズンぶり10度目の戴冠に貢献した。
堂安とともに復帰させたMF鎌田大地(25、アイントラハト・フランクフルト)がUEFAヨーロッパリーグを制した点を踏まえて、森保監督はこんな期待もかけていた。
「彼らは所属チームで存在感を常に見せ続けていた。大きく変わったところで言えば、ともにタイトルを取ったこと。タイトルを取った自信は間違いなく上乗せされていく。彼らの雰囲気が変わり、さらに貪欲な向上心を見せてくれると期待している」
実はオンライン取材を介して、堂安からは以前と異なる雰囲気が伝わってきた。成長を追い求めるギラギラしたオーラではなく、自然体と表現すればいいだろうか。
フローニンゲンからPSVへステップアップした2019-20シーズン。オランダを代表する名門での挑戦に意気込むも、公式戦出場21試合で2ゴールと不本意な結果に終わった理由を自問し、そのた上で弾き出された自己改革が自然体だった。
「PSVでの1年目は、自分のプレーを分析しすぎたというか、こうした方がよかったとあれこれ考えすぎていた。特に悪いシーンを分析すると、同じ状況になったときに悪いイメージが出てしまうので、逆によかったシーンを多く見るようにしました。何も考えずにプレーしているときは楽しい。考えすぎないことが大事かなと思っている」
オンライン取材でこう語った堂安は2020-21シーズンに、自ら望んでアルミニア・ビーレフェルトへ期限付き移籍。ブンデスリーガ1部に昇格したクラブで、ボールを支配される時間が長くなったシーズンを通して強度の高い守備を身につけた。
PSVへ復帰した2021-22シーズンを「ウイングにも守備を求める監督なので、そこが評価されて出場時間を多くもらえたと思う」を振り返った堂安は、公式戦39試合に出場。オランダの名門からドイツの昇格クラブへ移った選択が正しかったと証明した。
さらにシーズンが佳境に差しかかった段階で代表落選を味わわされた。選手ならば誰でも悔しい。複雑な感情を、成長を加速させる発奮材料に変えたからこそツイッターで「逆境大好き人間」とつぶやき、オンライン取材で「今は感謝している」と口にした。
そして、強く脈打つ自然体の精神はいま、再びスタートラインに立った、カタールワールドカップに臨む代表メンバー入り争いへ向けられている。
「ワールドカップは小さなころからの夢なので、どのような舞台なのか想像もつかない。一日一日を頑張ってたどり着けたらいいな、と思っています」
開幕まで半年を切ったカタール大会をこう位置づけた堂安は、6月シリーズから幕を開ける内なる戦いを「サバイバルとは特に意識していない」とし、こう見すえた。
「ワールドカップ前の最後のテストになる試合だとは思っているけど、人のことを考えすぎると自分は調子がよくないので。人のことにあまりとらわれすぎず、自分のプレーに集中します。そのなかで活動が終われば、サバイバルに対しての評価を周りがしてくれる。もちろん競争はウェルカムですけど、自分と誰かを比較することはないですね」
ガンバ大阪から戦いの舞台をヨーロッパへ求めて5年。試行錯誤を繰り返しながらたどり着いた“無我の境地”を武器に、堂安の新たな戦いが幕を開けようとしている。