“無名”18歳ルーキー・鎌田大地の衝撃 鳥栖時代の恩師が証言、「心に響いた」凄さとは
森下仁志監督「若手育成の哲学」第2回、初めて見て惹かれた鎌田大地の才能
Jリーグ各クラブの下部組織には“育成のスペシャリスト”である指導者が多く名を連ねているが、その中でやや異なる道を歩んできたのがガンバ大阪ユースの森下仁志監督だ。39歳でジュビロ磐田の監督に就任して以降、4チームのトップ監督としてJリーグを戦い、苦い経験も味わいながら再びユース年代を指導し、有望な若手の才能を引き出している。順風満帆とは言えない指導者キャリアを歩みながら、追求してきた森下監督の育成哲学とは――。今回はサガン鳥栖の監督時代にJリーグデビューさせ、その後日本代表にまで上り詰めた鎌田大地(現フランクフルト)の才能について振り返る。
【動画】C.ロナウドもベイルも同じ蹴り方…足で蹴るのではなく「股関節で押し出す」 異色の指導者が極めた「絶対に“ふかせない”」シュート
◇ ◇ ◇
「パッと見て、これは凄いな、と思いましたよ。(鎌田)大地のプレーは心に響いてきました」
ガンバ大阪のユース監督、森下仁志(49歳)はそう振り返る。サガン鳥栖の監督時代、当時18歳だった鎌田をプロデビューさせている。
今や日本代表で、ドイツ・フランクフルトの主力となった鎌田だが、高校時代は無名に近かった。Jリーグのクラブからはなかなか声がかからなかったが、鳥栖のオファーを受けて入団した。そもそもG大阪ジュニアユースに所属していたにもかかわらず、ユースに昇格できていない。
しかし、森下監督は起用を躊躇わなかった。高卒ルーキーだった鎌田を開幕前のキャンプから積極的に使い、トップデビューのタイミングを探っていた。そして2015年のJ1リーグ第11節・松本山雅FC戦、確信をもって送り出した。
プロデビュー&ゴールから、鎌田の進撃は始まったのだ。
――当時、鎌田の起用に迷いはなかったですか?
「全くなかったですね。キャンプでトレーニングマッチを重ねるなか、もちろん要求するところはたくさんあったんです。でも、一目見て面白い選手だなと思って。当時の鳥栖は、尹晶煥監督(現ジェフユナイテッド千葉監督)から長年かけて作ったスタイルがあって、“チームを進化させる”というところが自分に求められていました。そこで、“大地を生かすにはどうしたらいいのか”と考えて。キャンプの試合をやるごとに、これはなんとかせんとあかん、って。デビュー戦、ファーストプレーで30メートルくらいのスルーパスをトヨ(豊田陽平/現ツエーゲン金沢)に入れたシーンは今でも覚えています。それで彼が(ミドルシュートで)点を入れて引き分けたんですが、改めて凄いな、と」
選手の凄さは「立ち姿や雰囲気に出る」
――森下さんはG大阪で証明しているように、若手の抜擢に定評のある指導者ですが、その秘訣は?
「自分ではストロング(ポイント)と思っていないのですが、選手を見て、感覚の中で“これは来るな”っていうのはあります。もちろん、みんな可能性はあるんです。でも、“この選手は、きっとヨーロッパのクラブまで行ってしまうな”というのは何か違って」
――感覚的なものなんですね。
「選手には、『心と判断と技術が大事』っていつも言っています。特に心の部分がないと、他があってもどうにもならない。心意気というか。それはサッカー選手としての立ち姿や雰囲気に出ます。ボールを扱う間にもつながって、これが大地はすごく響きました。うわって思いましたね。なんで、これだけの選手が他のチームに引っかからんのかなって不思議で。鳥栖にとっても、自分にとっても、ラッキーでした」
――先日、UEFAヨーロッパリーグ準々決勝、FCバルセロナとの第1戦での鎌田のプレーは見事でした(1-1と引き分けた後、第2戦に3-2で勝利し、ベスト4に進出した)。
「大地は上手く脱力することで、相手を見ているし、周りも見えている。さぼっている、休んでいるわけではなくて。例えば、ペドリとの局面でのマッチアップではスイッチが入っていました。とにかくボールを取られないし、ほとんどロストしていないと思います。走り出しのタイミングも抜群に良くて、味方が出してくれたらチャンスになっていたシーンもいくつかありました」
――さらに上のレベルでやれそうですね。
「もっと高いレベルでやれるはずです。ワールドカップの日本代表としても。大地は要求すればするほど、絶対にやれる選手。『大地、ここやぞ』と要求したら、もっとやれるところを見せるでしょう。鳥栖時代も要求に応えてくれました。ただ、言葉を発せずにプレーで見せるタイプというか、『仁志さん、こうやろ?』みたいな感じでやってのけてしまう」
――鎌田選手は見かけによらず、熱量の豊富な選手ですね。
「今まで出会った選手で、トップレベルに行く選手というのは感情のアベレージが高いです。起伏が少ないというか、乱れを見せず、感情を出してもコントロールしながら、自らも奮い立つことができる。それは偉大な選手につながる要素かもしれません」
鎌田は「負けん気が本当に強い」
――鎌田選手は不敵な面構えです。
「トップトップでやるには、負けん気は絶対必要で、それをどう使うか。指導者としては、まずは負けん気を認めるところから入りたいですね。必ず武器になるから。大地はガンバのジュニアユース育ちですが、このチームで育った選手として納得というか、その負けん気が本当にいいです」
――負けん気が成長につながるんですね。
「大地は『自分のサッカーを見せつけてやる』という負けん気が本当に強いですね。それが、要求に応えるスピード、それを続けられる力につながっているんです。ドイツでの立ち姿やプレーは基本的に日本にいた時と変わっていないと思うんですが、2年前にドイツで彼に会った時、本人は『考えて、考えてプレーのやり方は少しずつ変えていっていますよ。例えば中盤ではワンタッチも増やして、とか』と話していました。勝つために考え続けているから、世界のトップとやり合えるんだなと感心しました。彼の活躍をテレビで見られるのは、本当に幸せですよ」
(第3回へ続く)
森下仁志 1972年生まれ、和歌山県出身。現役時代は帝京高、順天堂大を経て95年にガンバ大阪に加入。コンサドーレ札幌、ジュビロ磐田と渡り歩き、J1通算202試合9得点、J2通算37試合1得点の成績を残した。2005年の現役引退後は指導者の道へ進み、12年に磐田監督に就任。京都サンガF.C.、サガン鳥栖、ザスパクサツ群馬の監督を経て、19年に古巣G大阪U-23監督となり、昨年からユースを率いている。中村敬斗(現LASKリンツ)や食野亮太郎(現エストリル・プライア)らの才能を引き出すなど、若手の指導に定評がある。