W杯出場へ期待…森保ジャパン未招集「個性的な8人のタレント」 異なる“武器”を持ったJリーグの成長株がずらり
【識者コラム】鹿島MFはセットプレーで脅威、配球力とボール奪取力を備える川崎MF
カタール・ワールドカップ(W杯)のアジア予選突破を決めた日本代表は抽選会でスペイン、ドイツ、プレーオフ2(コスタリカとニュージーランドの勝者)と同じE組に。ベスト8という目標を考えれば、2010年と14年のW杯王者が同居する非常に厳しい組だが、世界的な強豪にガチンコで挑める願ってもないチャンスとも言える。
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そうした相手を打ち負かす可能性を少しでも上げるために、森保一監督は従来のメンバーにこだわらずスペシャリティーを持った選手を国内外で発掘し、限られた準備期間でチームに組み込むことが大事になってくる。今回はJリーグから合宿も含めた“森保ジャパン”未招集の個性的な8人のタレントをピックアップする。
■樋口雄太/Yuta HIGUCHI
所属:鹿島アントラーズ
年齢:25歳
ポジション:MF
今季J1リーグ成績:7試合0得点
今回の8人でも筆者が一押しする選手だ。中盤にクオリティーを与えられる選手であり、システムやポジションを問わずに機能する。プレーエリアを問わず、攻守が切り替わった瞬間に効果的なプレーを繰り出せるセンスも強みになる。未知数なのは国際経験だが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)も経験しているレネ・ヴァイラー監督から世界基準を叩き込まれているので、それほどラグもなく代表チームに入れるはずだ。
そして最も推したい理由はセットプレーのキッカーとして優れていること。特にコーナーキック(CK)の精度は抜群で、狙ったターゲットマンにピンポイントでボールを届けることはできる。現在の日本はMF田中碧(デュッセルドルフ)やMF久保建英(マジョルカ)のように、鋭い弾道のキックを蹴れるタレントはいるが、狙った選手に合わせられることがデザインされたセットプレーの成否に関わってくる。国内外の選手を合わせても樋口のキック精度は特筆に値する。
■橘田健人/Kento TACHIBANADA
所属:川崎フロンターレ
年齢:23歳
ポジション:MF
今季J1リーグ成績:8試合0得点
広大な守備範囲とビルドアップのセンス、止めて蹴る技術を兼ね備える。J1王者の川崎では4-3-3のアンカーが板に付いているが、もともと中盤はどこでもこなす選手であり、インサイドハーフや2ボランチも問題なくこなす。そしてゾーンやハーフポジションが主体の相手にとって、スモールエリアを攻略してくるボールの持ち出しや配球は非常に厄介だろう。
有事にはサイドバック(SB)も担える。対人守備はパワーでガツっと行くよりも、タイミングよく体を寄せながらボールを刈り取るので、欧州の大柄な選手とのデュエルに向いているように思われる。大きなアドバンテージは代表に川崎の選手もしくは出身者が多いことで、リソースをそのまま生かせるメリットは直前キャンプの時間が短いカタールW杯にも間違いなくメリットになる。
共鳴力が高い万能型の柏FW、浦和MFのセカンドボール奪取力は段違い
■細谷真大/Mao HOSOYA
所属:柏レイソル
年齢:20歳
ポジション:FW
今季J1リーグ成績:7試合3得点
攻撃的なポジションであればどこでもこなせる万能型のアタッカーであり、FWとしてはポストプレーと裏抜けの両方を使い分ける。パリ五輪世代で成長途上だが、前からのディフェンスはすでにJリーグでもトップレベルで、プレッシャーをかけてコースを限定するだけでなく、高い位置で引っ掛けてそのままショートカウンターに持ち込むシーンも多い。
そんな細谷のスペシャリティーは周囲との共鳴力の高さ。動き出しのタイミングが抜群で、相手のディフェンスよりも先に動き出して、気が付けばオフサイドにかからず裏を取っている。スペースに持ち出すドリブルも推進力があり、トップスピードからでもシュートに持ち込める。ドイツやスペインの猛者を驚かせるにはもう少し迫力が必要だが、残り7か月あればさらにスケールアップしている期待は高い。
■明本考浩/Takahiro AKIMOTO
所属:浦和レッズ
年齢:24歳
ポジション:MF
今季J1リーグ成績:8試合0得点
登録選手が通常の23人から26人に増加する見通しのカタールW杯は“究極のユーティリティープレーヤー”にとって代表入りの追い風だ。FW、サイドハーフ、SB、トップ下、ボランチ、さらにインサイドハーフもこなしてしまう。どのポジションでプレーしようと基本スタイルはアグレッシブで機動的であることだ。
そしてセカンドボールの奪取力が鬼レベルに高い。上背はないがヘディングも強く、逆サイドのクロスにファーから飛び込んでダイビングヘッドで合わせるシュートなど、欧州トップリーグでもあまり見ない個性だ。日本代表の基準で見ると技術面はやや粗いが、気持ちの強さも代表向きであり、短期決戦での意外性を加えるには持って来いのタレントだ。
鳥栖FWは危険なシャドーストライカーに、横浜FMのMFは大岩剛監督も資質を認める1人
■岩崎悠人/Yuto IWASAKI
所属:サガン鳥栖
年齢:23歳
ポジション:FW
今季J1リーグ成績:6試合0得点
無尽蔵の運動量で左サイドを上下動しながら攻守の多くの局面に絡んでいく。アンダーカテゴリーの代表候補として期待されてきたが、パフォーマンスの波が激しく、移籍する先々でレギュラーに定着できていなかった。しかし、川井健太監督のハイインテンシティーなスタイルにフィットして、素早い攻守の切り替えを武器にインパクトを放っている。
しばらく日の丸からは離れているが、もともと国際経験は豊富なので、そうした環境にビビることはないだろう。現在の鳥栖は3バックをメインにしているが、流れのなかでウイングのようなポジションになることは多く、起用をウイングバックにこだわる必要は全くない。また機を見てインサイドに潜り込めば、危険なシャドーストライカーに変身する。
■藤田譲瑠チマ/Joel chima FUJITA
所属:横浜F・マリノス
年齢:20歳
ポジション:MF
今季J1リーグ成績:8試合0得点
中盤でボールを奪う能力が高く、起点のパスから流れに応じて、バイタルエリアに顔を出してチャンスに絡むこともできる。ボックス・トゥ・ボックスのダイナミズムは現在のA代表に入ってもスペシャリティーになる。昨年はトレーニングパートナーとして森保監督が率いた東京五輪の直前合宿に参加し、強化試合のホンジュラス戦で短い時間ながら出場した。
A代表入りの意識も人一倍高い。リーダーシップがあり、パリ五輪世代で挑んだドバイカップU-23ではキャプテンマークを巻いた。大岩剛監督もA代表の資質を持つ選手の1人に挙げており、森保監督と共有されているかもしれない。課題はJリーグのパフォーマンスにやや波があること。横浜FMはAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)にも参加するので、国際試合で影響力を発揮して、さらなる成長を示したい。
得点力も備えたマルロールな磐田MF、G大阪DFは攻め上がりのセンスは抜群
■鈴木雄斗/Yuto SUZUKI
所属:ジュビロ磐田
年齢:28歳
ポジション:MF
今季J1リーグ成績:7試合4得点
昇格組の磐田でチームトップの4得点を叩き出している。チームは3-4-2-1を採用しているが、流れに応じてシャドーのようなポジションにシフトし、そこから鋭い裏抜けや仕掛けで決定的なクロスやシュートに結び付ける。
身体能力が高く、戦術眼も備えたタレントであることはDF山根視来(川崎フロンターレ)と共通するが、3バックならセンターバックとウイングバック、4バックであればSBとサイドハーフの両ポジションでプレーできることも推せる理由だ。またサイドのマルチロールでありながら182センチあり、セットプレーの高さを加える効果も高い。
■黒川圭介/Keisuke KUROKAWA
所属:ガンバ大阪
年齢:24歳
ポジション:DF
今季J1リーグ成績:7試合1得点
“人材難”が叫ばれる左SBで、質量ともにアップさせるポテンシャルを備えている。筆者が初めて生で彼のプレーを観たのは2019年2月頭、まだ大学生で、G大阪の特別指定になる前の沖縄キャンプだった。その時から攻め上がりのセンスは抜群だった。
しかし、チームの監督が代わり、戦術がしばしば迷子になるなかで、頭角を現すのに時間がかかった。今シーズンは片野坂知宏監督の明確な戦術に後押しされて、ビルドアップに参加しながら効果的なオーバーラップやインナーラップを繰り出し、相手にとって危険な存在となっている。名古屋グランパス戦でドリブルから決めた右足のミドルシュートは彼のことをよく知るG大阪サポーターからも驚きの声が上がっていた。生粋の左利きだが、キックだけでなくボールタッチも左右で扱えるので、対面する相手は非常に読みにくいだろう。
[著者プロフィール] 河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。