前代表監督の西野朗氏が祝福「ポイチはスペシャルな監督」「悲願のベスト8を、ぜひ、オールジャパンで」
◆カタールW杯アジア最終予選B組 オーストラリア0―2日本(24日・シドニー)
前日本代表監督の西野朗氏(66)が、チームを立て直してW杯に導いた森保監督の手腕を語り、日本サッカー界の悲願であるW杯8強入りへエールを送った。
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日本代表の皆さん、W杯出場おめでとう。普段のように呼ばせてもらいますが、「ポイチ」、本当にご苦労さま。予選を戦い抜いた経験のない私がチームづくりの難しさをはかることはできないが、よく戦ったと同時に、これからが本番だと声をかけたい。手探りだった最終予選の序盤こそつまずいたが、全く心配していなかった。ポイチのマネジメントと選手たちがギアを入れ直せば、問題なくW杯に行けると思っていた。
ポイチはスペシャルな監督だ。批判を受けることもあったが、ここまで揺らぐことなく、チームを前に進めてきた。普段は見たままの穏やかで誠実な男だが、指導者としては本当に厳しい。柔らかい物腰ながら、選手への要求は高い。「先発で行く以上は覚悟を持て」「代表にはお前が必要だ。だからこの部分を求めている」「サッカーをできる喜びを忘れるな」など、勝負に対する妥協は一切許さない。
ただ、練習時から選手との意見交換を大切にしているように、フォローがしっかりしている。ロシアW杯ではコーチに入ってもらったが、私の指示の補足などをしっかり伝えてくれていた。観察力、洞察力に秀でていて、気がつけばアドバイスを送る。戦術や起用など大胆さは少なく安定型だが、選手、チームの状態を的確に分析して、細かく修正していくタイプ。そして、どの選手に対してもフラットに接するから、信頼関係が厚く、チームを前向きにして、結果が出ないときも簡単には崩れない。優しさと厳しさの絶妙なバランスを持つ、モチベーター型の監督とも言える。
私が日本協会の技術委員長時代の2017年、東京五輪代表監督になってもらった。日本サッカーの次世代を担うのはポイチ。そう思っていたから、同時に協会へは(ロシアW杯後の)A代表監督との兼務を推挙した。A代表監督には多少のためらいはあったものの、覚悟を持って引き受けてくれた。
一緒に仕事をして感じたのは、ポイチは本当に動じない。日本代表監督をする喜びと感謝という基本の信念があるからブレない。私が日本代表監督を退任してからも会う機会があるが、常に笑顔でネガティブな言動はなく、自信が漂う。これは(J1優勝3回の)広島時代のキャリアの裏付けもある。若いが経験値は高い。ユース指導の経験もあり、育成力もある。これらは日本協会が監督就任に際して期待していた部分だった。
日本サッカーはここまで歴史を積み重ねて成長してきた。だから、カタールW杯ではベスト8を明確な目標にしてほしい。私はロシアW杯を終え、ポイチに監督のバトンを渡したときに、それが可能だと感じていた。海外でプレーして世界を知る選手が増え、それに国内組が刺激を受けるという良い流れで、日本サッカー界が大きく膨らんでいるからだ。本大会まで、また選手も成長するだろうし、すごいサッカーをやるなと世界に示してほしい。悲願のベスト8を、ぜひ、オールジャパンで達成してもらいたい。(西野朗=前日本代表監督)
◆西野 朗(にしの・あきら)1955年4月7日、浦和市(現さいたま市)出身。66歳。早大時代にFWで日本代表入り。卒業後は日立製作所(現柏)に入団して90年に現役引退。94年にU―23日本代表監督に就任し、96年アトランタ五輪でブラジルを破る“マイアミの奇跡”を演出。その後は柏、G大阪などの監督を歴任。2016年3月に日本協会の技術委員長となり18年4月、日本代表監督に就任。16強入りしたロシアW杯後の同7月末に退任。19年7月、タイ代表監督に就任し、21年7月に退任した。