5年前のW杯予選で井手口陽介に“手痛い一撃”を食らったオーストラリア代表監督…今、セルティックで“一緒に仕事”をしている不思議な因縁
日本代表にとってW杯切符に直結する敵地オーストラリア戦。大一番を前にライバルの現状、そして5年前に相まみえたセルティック井手口陽介とアンジェ・ポステコグルーの数奇な縁の記事をお届けします(全2回/オーストラリアの現状編も)
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2017年8月31日。ワールドカップ2018アジア最終予選、日本vsオーストラリア。
試合終盤の82分、埼玉から日本中がどよめく瞬間が訪れた。
オーストラリアのビルドアップの場面、原口元気がボールをカットするとボールは井手口陽介のもとへ。ハーフスペースでボールを持った背番号2はそのまま敵陣ファイナルサードへ強引にドリブルすると、相手ディフェンダーを引きつけながらミドルシュートを放つ。
ボールはマシュー・ライアンの手をかすめゴール右上に突き刺さった。スコアは2-0。日本が6大会連続のワールドカップ本大会出場を決定的にした瞬間だ。
アジア予選では直前のイラク戦で出場するまで、ベンチ入りすらしていなかった21歳が突然の活躍。井手口の名前は紙面を独占し、瞬く間に日本代表のカルトヒーローとなった。
一方のオーストラリアはW杯出場圏内の2位に一歩及ばず。A組3位のシリア、そして北中米カリブ海予選4位ホンジュラスとのプレーオフに勝利し、滑り込みで本大会行きを決めた。
当時サッカールーズを率いていたのは他でもない、アンジェ・ポステコグルーである。
あの日の敵同士が現在タッグを組んでいる
「私たちの思っていた通りに中盤を支配することができなかった」(日本戦後のインタビュー) あの日埼玉で英雄となった若者と、窮地に立たされた智将がどういう巡り合わせか今、スコットランドの地でタッグを組んでいるのだ。
「ヨウスケは私がオーストラリア代表チームにいたときから追いかけて、スカウトしていた選手だ」
井手口がセルティックに加入した1月、ポステコグルーが公式インタビューのなかでこう語った。それほど、あのゴールだけでなく、初めて井手口を見たときのインパクトが強かったということだろう。
井手口が最初の海外挑戦を終え、2019年8月にガンバ大阪に戻ってきた後も、横浜F・マリノスの監督として3度戦っている。幾度の対戦経験で知り尽くしているからこそ、自信のある補強だったようだ。
「彼は若くて素晴らしいタレントであり、彼を迎え入れ、共に仕事ができることを嬉しく思っている」
そう期待を寄せていたのだが――。
移籍直後に削られて戦線離脱、旗手の好調
直近のロス・カウンティ戦、セルティックは4-0で快勝した。中盤はキャプテンのカラム・マクレガー、オーストラリア代表のトム・ロギッチ、そして同時期に入団した旗手怜央の3枚でスタートした。
試合途中で3人とも交代を命じられているが、代わって入ったのはマット・オライリー、ニル・ビトンと、この日負傷から復帰となったデイビッド・ターンブル。井手口はベンチに入るも、出場機会が訪れなかった。
移籍後わずか2戦目のカップ戦で、悪質なタックルにより負傷離脱を余儀なくされた。新天地でアピールが必要な時期に、脚を治すことに集中しなければならなかったのである。さらに今冬の補強により中盤の選手層が厚みを増したことで、定位置確保に苦しんでいる。
現地では、レンジャーズとのポイント差もほとんどなく、熾烈な優勝争いにある今の状況が井手口の出場機会を狭めていると考えているようだ。
セルティック専門メディアの『67 HAIL HAIL』は「アンジェがこの時期に、このような重要なポジションで波風を立てたくないと思うのも無理はない」と監督の判断に理解を示した。
井手口のパフォーマンスの問題というよりは、タイトルの懸かった時期に新戦力をフィットさせる余力はないということである。本格的に出場機会を得るのは、来季に入ってからかもしれない。
日の丸を背負うチャンスは残されている
一方で、来季の活躍次第では逆転でワールドカップメンバーに名を連ねる可能性だってあるのだ。
カタールW杯が開催される来季は7月30日に開幕し、11月14日のリーグ中断まで16試合を戦う。本大会メンバーが発表されるまで、スコットランドからアピールするチャンスは残されている。
4年半前はW杯出場の立役者となったものの、その後リーズに移籍し、ローン先のスペインで芳しい成績を残すことができず、本大会メンバーから漏れた。しかしセルティックで本来の輝きを放つことができれば、今回こそ日の丸を背負うチャンスがあるはずだ。
あの日、苦杯を喫したポステコグルーだからこそ、井手口のポテンシャルを信じていることは獲得した時点で間違いない。あとは本格開花を待つのみである。
そして彼らが同じチームで戦っている今、再び日本がオーストラリアとの大一番を迎えることになろうとは。
もはや“恒例”のW杯を懸けた日本vsオーストラリア
最短で出場を決めるには、24日のオーストラリア戦での勝利が必要だ。ワールドカップ出場が懸かった場面で彼らと対戦するのは2013年、2017年に続いて3度目である。もはや腐れ縁とでも言えよう。
過去2回はスタンドが青く染まった埼玉だが、今回は完全アウェイのシドニー。加えて主軸の冨安健洋、大迫勇也、酒井宏樹らが負傷により不在で、これまでとは違う戦い方が求められることは必須だ。
それでも日本は本大会出場を決めるのか。4年半前、敵将を唸らせた井手口のように、日本のヒーローとなる者が現れるのか。
日本のサッカーファンが心から熱くなる時は必ず、向かいにオーストラリアがいる。<オーストラリア代表の現状編に続く>