地元出身で生粋のサポーターがプロ選手へ。新生ガンバの担い手・山見大登が辿った新奇な人生
Jリーグ2022開幕特集ガンバ大阪/山見大登インタビュー
関西学院大学在学中の昨年、山見大登はガンバ大阪の特別指定選手として大きなインパクトを残した。
なかでも、忘れられないのはJ1リーグ第24節(8月13日)の清水エスパルス戦だ。特別指定選手としての登録から10日後、初めてベンチ入りを果たすと、スコアレスで迎えた76分、途中出場でピッチへ。その直後には、挨拶がわりの豪快なミドルシュートを放った。
残念ながらこのシュートは相手GKの好セーブに阻まれたが、その6分後、小野裕二(→サガン鳥栖)からの縦パスを受けた山見はドリブルで縦に仕掛け、強烈なミドルシュートでゴールネットを揺らす。”J1初ゴール”はチームに勝利を呼び込む決勝点になった。
「ドリブルが特徴なので、出場する時から仕掛けようと決めていた。コースが見えたので、思いきって振り抜きました」
試合後にはやや緊張した面持ちでインタビューに応えていたのが印象的だったが、ガンバに加入した今年、改めてあのゴールについて尋ねると「たまたま決まったゴール」だと苦笑いを浮かべた。
「正直、大学でもあんな形で綺麗にゴールを決めたことはなかったので、たまたまです(笑)。自分としては、最初のプレーでうまく(試合に)入れたら乗れるかなとは思っていたなかで、入ってすぐに(山本)悠樹くんからいいパスがきてシュートまで持っていけて、『今日は動けてるな』って感触があり、2本目も思いきり打てた、というのはありました。
ただ、あのゴールも、ルヴァンカップ(準々決勝第1戦)のセレッソ大阪戦で決めたゴールも、自分でも驚くようなスーパーな2発が決まりましたけど、大学では簡単なゴールほど結構外していて……。去年、天皇杯でガンバと対戦した時も、シュートをたくさん打ちながら1本も決められなかったですから。
しかも、J1リーグは大学リーグ以上に切り替えのスピード、プレーの強度がより高いと考えても、いかにゴールの精度を高めていけるかは今シーズン、自分に求めていかなきゃいけないところだと思っています」
ガンバのホームタウンとなる大阪府豊中市出身の山見は、実は両親の影響を受けた生粋のガンバファンだった。小学4年生の頃から足繁く通うようになった万博記念競技場では、ゴール裏のガンバサポーターに混じって声を張り上げたこともある。
「当時在籍していた選手のチャントもほぼ覚えていますし、高校生くらいになってからは、ひとりでも観戦に行っていました。満員のスタンドでガンバの試合を見るのがすごく楽しかった」
とはいえ、高校時代は全国を意識するような強豪校に在籍していなかったこともあり、「(自分が)プロサッカー選手になることはまったく描いていなかった」ことから、卒業後はサッカーをやめて、理系の大学に進学しようと考えていたそうだ。
「安定した職業につきたかった(笑)」
だが、関西学院大サッカー部から声がかかって思い直し、あと4年間思い切りサッカーをしようと進学を決めたところ、2年生の時に出場した試合で転機が訪れた。天皇杯2回戦で”ジャイアントキリング”を実現したガンバ戦だ。
「あの試合で決勝ゴールを決めて、自分の意識が変わったというか。サッカーに対する意欲が一気に高まり、初めて”プロ”を意識するようになった。
それに伴って、私生活の部分もサッカー中心の生活に変わっていったし、何より『特徴を出してプレーすることを心がければ、プロの世界でも通用する』と思えるようになったことは自信になりました」
その意識の変化はプレーの変化へとつながり、山見は大学屈指のストライカーに成長。スピードに乗ったドリブル突破、得点力が評価され、3年生の時にはガンバとのプロ仮契約を締結した。
「ガンバの練習場やパナソニックスタジアム吹田は、幼少の頃から仲がいい友だちや両親がすぐに見に来られる距離にある、親しみ深い場所。大学生の時に初めて応援する側ではなく、応援される側としてあのピッチに立った時には、感慨深いものがありました。
そのガンバでプロになれて幸せだし、ガンバの一ファンでもあった僕は応援する側の人たちの気持ちもわかるからこそ、できるだけ(試合を)見きてくださった人たちが笑顔でスタジアムをあとにできるような試合をたくさんしたいし、そのためのゴールを決めたい。コロナ禍で、本来のスタジアムの雰囲気のなかでのプレーはまだできていないけど、スタジアム全体がドッと沸くような、あの雰囲気を早く選手として味わってみたいです」
その決意を表すべく、プロ1年目の目標には「ふた桁ゴール」を設定した。特別指定選手として過ごした昨年の時間をアドバンテージにして実現したいと意気込む。
「人見知りもあって、特別指定選手として登録されてからも、最初は自分から周りになかなか話しかけられなくて……。でも、清水戦でゴールを決めて周りの選手から声をかけてもらうことも増えたし、チームの一員として認めてもらえた気もしました。そういう意味では、昨年の約半年間は、自分がJリーグに慣れるだけではなく、チームに適応するうえですごく大きかった」
もっともその活躍によって、持ち味、プレースタイルを含めて、Jリーグでも知られる存在になったことを考えれば、今年はプロ1年目ながらしっかりと相手に対策を練られたなかでプレーする可能性は高い。それを上回る自分をどうイメージしているのだろうか。
「同じタイミングでガンバに加入した石毛秀樹選手(清水→)や福岡将太選手(徳島ヴォルティス→)にも、『(ゴールを)決めたよな』って言われたように、いろんな人があのゴールや僕のプレーを記憶に留めてくれているなかで、プレーする難しさは確かにあると思います。
でも逆に、味方とのコンビネーション面では(以前よりも)周りの特徴を理解しているし、僕の特徴も(周囲に)知ってもらえているなかでプレーできるのはプラスに働くはず。実際、ガンバには自分の動き出しに合わせて精度の高いパスを送り込んでくれる選手がいると考えても、自分が相手の予測を上回るプレーを示せれば、結果は出せるはずだし、それを求め続けることが成長にもつながると思っています。
片野坂(知宏)監督のサッカーは、パスに重きを置いていることを考えれば、当然、足元の技術を磨かなければいけないとは思っています。でも、全員がパスサッカーに徹していてはゴール前で苦しくなってしまうことも考えられるので、自分の武器、特徴で勝負することも忘れずにやっていきたいと思います」
その先に描くのは、少年時代にスタンドから見て、何度も胸躍らせた「強くて、得点力のあるガンバ」の復活だ。その新たな歴史を作るひとりとして、愛するガンバのユニフォームをまとって戦えることを幸せに感じながら、いよいよ山見のプロキャリアがスタートする。
山見大登(やまみ・ひろと)1999年8月16日生まれ。大阪府出身。大阪学院大高を卒業後、関西学院大に進学。2年時にガンバ大阪と対戦した天皇杯2回戦で決勝ゴールを決め、注目を集める。以降、右肩上がりの成長を続けながら3年時にガンバとプロ仮契約。4年時には特別指定選手としてプレーし2ゴールを挙げた。プロ1年目の今季は即戦力としての活躍が期待されるFW。