【バイタルエリアの仕事人】Vol.13 明神智和|プロの世界では、常に同じ監督の下、同じ戦術でプレーができるわけではない!育成年代の選手に今求めたいこと――。
守備には、ボールを奪う、ゴールを守るという2種類がある
攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第13回は、元日本代表の明神智和氏だ。前編ではプレーヤーとしての話を語ってくれたが、後編では、指導者・明神智和として、育成の現場で思うことを明かしてくれた。
G大阪でユースコーチを務める元日本代表戦士の教えとは――。
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まず、守備で伝えたいのは、守備にはゴールを守ること、ボールを奪うことの二つがあるということです。
ゴールに近ければ、“守る”ことの方が優先されます。ただ、守備者としてはボールを奪うことが一番。今はボールを奪いに行くのか、スペースを守るのか。エリアによっての判断もありますし、ボールにどれだけほかのプレッシャーがかかっているのかも考えてほしい。
たとえ自陣のゴール前に近い場所でも、味方のプレッシャーがかかっていてチャンスと判断できるなら奪い切ることも必要です。中盤の選手は、ボールが動くたびに、相手へのプレッシャーのかかり方の変化を察知して、その度に判断を変えていくのが重要だと思います。
一方で、攻撃時に指導者として心掛けているのは、順番を間違えないこと。現代サッカーでは、なかなかバイタルエリアを使えなくなっています。相手もコンパクトに守備をしてくるからです。そのなかで、まずは相手の背後を狙う。背後を狙うからこそ、ディフェンスラインが下がり、バイタルエリアが空く。その順番を間違えないように教えたい。
現代では、ポゼッション志向のチームも増えて、ボールを繋ぐ、失わないようにするという意識が強いことも多いですが、足下にボールを受ける意識が強くなり過ぎると上手く攻撃ができません。
相手を攻略するためには、背後を突いてスペースを作る動きが不可欠だと考えています。さらに、ひとりだけではなく、周囲との関係も重要です。誰かが相手DFの背後をとり、空いたスペースへ味方が入っていく。そういう連動性が重要になってくるでしょう。
また、以前に比べ様々なチームで守備が整備されているため、バイタルエリアでプレーできる時間も短くなってきていると感じます。そのため、左右両足を使える技術はもちろん、ボールの受け方にも意図が必要で、状況判断のスピードも求められます。
育成年代では独力で突破できる選手が多いですが、ユースからプロへ、年代が上がるごとに相手のプレッシャーや速さが段違いに上がっていきます。自分がプレーできるスペースは狭くなり、ボールを保持できる時間はどんどん少なくなっていきます。
そんななかで、いかに素早くゴールを目指せるか。右足しか使えない選手が左足でボールを受けてしまったら持ち替えている時間はないでしょうし、ボールを受けてからワンタッチで仕掛けるのか、ツータッチできるのか、それともダイレクトでないと間に合わないのか、状況に応じた判断も瞬時に行なわなければならないでしょう。
育成現場で教えている“ポケット”を突くことの理由は?
もちろん、指導者や、チームによって、教えも考え方も違うと思います。最近バイタルエリアという言葉を使わなくなってきました。中央に簡単に入っていけないので、サイドに起点を作って、ペナルティエリア脇の“ポケット”にランニングしていくことを教えています。
育成年代で、そういう形を教えることは大事だと思うのですが、なぜ、その動きが必要なのか。どうして相手にとって嫌なのか。そんなことを考える必要があると思っています。
試合中に、「走れ」と指示が出たら、選手たちも反応するでしょう。ただ、その時になぜそのプレーが必要だったのかを選手たちには理解してほしい。タイミングや理由が分かっていれば、より効果的なプレーに繋がります。
なぜ今走ることが良かったのか。なぜ相手の背後を取ることがよいのか。選手が自分で理解できていれば、どんな監督、指導者の下であっても、たとえ方法論が変わったとしても、選手が自分の持ち味を発揮できるようになる。
プロの世界では、常に同じ監督の下、同じ戦術でプレーができるわけではない。特に育成年代を教えているとそんなことを実感します。将来的にどんな監督の下でも、自分で判断してプレーできるようなそんな選手の育成を目指して、指導していきたいと思います。
◆プロフィール 明神智和(みょうじん・ともかず)/1978年1月24日、兵庫県出身。シドニー五輪や日韓W杯でも活躍したMF。黄金の中盤を形成したG大阪では2014年の国内3冠をはじめ数々のタイトル獲得に貢献。現在はガンバ大阪ユースコーチとして活躍中。



