【月間表彰】G大阪・小野裕二が“復活のスルーパス”に込めた想い。ベルギーで変わった意識とは?
「ゴールに関わるのがチームの中での自分の役割」
DAZNとパートナーメディアによる「DAZN Jリーグ推進委員会」では、「Jリーグ月間表彰」企画を実施している。スポーツ・サッカー専門メディアが独自の視点で、その月に印象的な活躍を見せた選手やチームを表彰する同賞。サッカーダイジェストWebは「Jリーグ月間ベストアシスト」を毎月選出している。
8月のベストアシストには、ガンバ大阪の小野裕二が第23節の徳島ヴォルティス戦で披露したスルーパスをセレクト。チアゴ・アウベスのゴールを演出した正確なパスを本人に振り返ってもらうとともに、チームの現状やベルギー時代について話を訊いた。
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――第23節の徳島戦での、チアゴ・アウベス選手へのスルーパスが、8月のベストアシストに選出させていただきました。
「ありがとうございます!」
――まずは、あのシーンを振り返っていただけますか?
「ボールが来た瞬間に相手が二人いたのが分かったので、失わない事を優先して受けました。そしたらタイミング良く前を向く事ができて、その瞬間にレアンドロ(ペレイラ)が斜めに走っていくのが見えて、チアゴが奥にいたのが分かった。後は、ドゥシャン選手だったと思うんですけどセンターバックの選手に触られないような、キーパーが出てこれないようなところに落としてあげられるようにというのを考えてパスを出しました。ピッチの状況をよく見て、全てが自分の理想通りに出せたパスでしたね」
――ピッチレベルで、あのパスコースが見えていた?
「ああいう場面で、コースが見える選手は少なくないと思います。ただ、最初に『通らないだろうな』と思う事が多いのかなと。あの場面では、点を取りに行かなきゃいけなくて、ゴールを優先的に狙うシチュエーション、時間帯だったので、思い切って出せましたけど。例えば、勝っている状態だったら違う選択をしていたかもしれないですね。
あとは、あそこにいたのが、チアゴのようなシュートが上手い選手ではなかったり、足が速くない選手だったりしたら、また状況は違っていたかもしれないです。そういい意味では、全てハマったのかな」
――普段からスルーパスには自信があるほう?
「あるにはあるんですけど、ゲーム中になかなかそういう場面がないんですよね。チームとして、ああいう場面をもっとパスを増やせれば得点も取れると思いますし、相手の脅威にはなると思います。サッカーの本質というか、やはりゴールから逆算していくのが一番かなと。まずはシュートに直結するパスを出すのが理想的で、それができないなら、違う選択をする。そういう意識があるので、あのパスが出せたのかなと思います」
――これまでしたアシストで、記憶に残っているものは?
「あまりないですね。結局、あのアシストもパスが良かったには良かったですけど、チアゴがよく決めたなというゴールだった。1点のうち0.9点分みたいなアシストはなかったですね」
――続く清水戦の山見(大登)選手の得点も小野選手のパスからでした。復帰してからゴールによく絡んでいる印象がありますが、常に得点を意識してプレーをしている?
「そうですね。どのポジションをやるにしても、ゴールに関わるのがチームの中での自分の役割です。徳島戦も清水戦も、得点を取らなきゃいけない状況で交代カードを切っていた。ゴールを取るために何をしなきゃいけないかを一番に考えた時に、彼(山見)が良いところに走り出してくれてたのが見えたので、なるべくスピードを落とさないで、かつ彼の特徴である前を向いてどんどん仕掛けられるようなボールを意識してパスをしました。
トラップからシュートまでの一連の流れに無駄がなくて、すごく良いゴールだったと思います。僕のパスはそのシチュエーションになるきっかけでしかなかったと思います。ただ、あのようなプレーを僕がすることによって、チームとしてああいうところを狙う共通認識がもっと高まっていけばいいかなと」
――J1デビュー戦でゴールを決めた山見選手はどんなプレーヤー?
「前を向いてどんどん仕掛けに行くところが彼のストロングポイントだと思います。そういう場面をたくさん作ってあげる事がチームにプラスになる。身体は小さいですけど、その分俊敏で、相手のマークを外すのが上手いですね」
「いいメンバーがいるだけじゃ勝てない。大事なのは…」
――昨年、9月には大きな怪我がありました。ベルギー時代にも長く故障で離脱した時期がありましたが、どんな心境に?
「やってしまったか、とは思いましたけど、落ち込んだりはしなかったですね。ある程度の復帰までのプロセスのイメージは持っていましたし、自分が復帰までに何をしなきゃいけないのかっていう事を、さらに復帰した後にチームに貢献するために、より良い状態で合流するために何をしなきゃいけないのか、ということを考えました、ああいう長い怪我は、一日一日の積み重ねで、6か月あるうちの4か月をいい加減に過ごして、ラスト2か月で調整すれば完璧に戻りますというわけにはいかないので、本当に怪我をした次の日からやれることを自分で探して、それを続けました」
――6月の天皇杯で一度復帰しましたが、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)で再び故障して、本格復帰したのは8月になってからでした。
「天皇杯が久しぶりの試合で、そこからACLに行って中2日、3日というのがあって、怪我してから負荷をかけてやるというのができてなかったので、ACLでは身体に負担がかかっていたのかなとは思いますね。8月に復帰してから出場時間も少しずつ増えていって、だんだん試合の90分の強度には身体が慣れてきてはいる。しっかりこれを継続して、コンディションと自分の自信とか感覚を取り戻すことが一番だと思う。まだ100%とは言えないですけど、やっと自分のイメージとか身体のフィット感が少しずつ合ってきたとは感じています」
――今シーズンのチームの戦いについてはどう感じている?
「少なからずコロナの影響はあったと思います。ACLを含めると21連戦という誰も経験したことがないスケジュールの中で、みんな必死に喰らいついてやってきました。それでも、結果が出ないというのは本当にもどかしかった。ただ、何か練習でやって、すぐ次の試合から上手くいく事はあまりないと思うので、それを地道に続けて準備していくことが改善する方法だと思います。あとは、上手くいかない状況だからこそ、コミュニケーションと互いに要求していくことが大事になってくる」
――「こんな順位にいるメンバーではない」というファンも少なくないと思います。
「それは自分たちもみんなも思っていますし、ファンの方たちが思うのも無理はないと思います。ただ、現実に自分たちはいま、この順位にいる力しかないんだということを受け入れる必要もある。受け入れたうえで、じゃあ何が必要なのかということを各々が考えて、チームとして同じ方向に持っていくという事が大事だと思う。
鳥栖にいた時も(フェルナンド)トーレスや金崎(夢生)君、高橋秀人君、権田選手、原川力と良いメンバーがいましたけど、残留争いに巻き込まれました。そこがサッカーの面白いところでもありますけど、いいメンバーがいるだけじゃ勝てないし、それをしっかりチームとして同じベクトルに向けてやっていく事が一番大事なのかなと」
――離脱している間に宮本(恒靖)監督の解任がありました。もどかしさもあった?
「そうですね。去年加入した時に、本当にサポートしてもらいましたし、多くを語らない人ですけど、チームを勝たせるために色々な事をやってくれた。ガンバではレジェンド的な存在ですし、選手たちはみんな責任を感じています。ただ、下を向いていても意味がないですし、こうなってしまったことは仕方がないので、次にやるべきことというのをしっかりやらなきゃいけない。
サッカー界は狭いので、またどこかで会うとは思いますし、会った時にまた話せたらなと思います。そのためにも、しっかり残留させたいですね。後はこの状況を変えられるのは自分たちだけですし、しっかり難しい状況というのに向き合って、少しでも勝点を積み上げて、上の順位に行くという所にフォーカスしてやっていければと思います」
――松波(正信)監督から求められていることは?
「ピッチの中では、やはりゴールやアシストだと思います、あとはチームが勝つために何をしなきゃいけないかという事を見せてくれと思っていると思うので、自分が出た時にはそういう部分をしっかりピッチの上で表現したい。練習からもそういう事を意識してやっているつもりなので、これを続けてもっともっと戦える集団にしていきたいなと思います」
ベルギーと日本のサッカーの違いは?
――ベルギー時代の話も聞かせてください、13年1月に横浜からスタンダールへ移籍したのはどういう経緯で?
「永井謙佑選手と同じタイミングで、川島永嗣選手もリールセからスタンダールに行ってちょうど半年くらいでした。ロンドン五輪で活躍した(当時は名古屋に所属していた)永井君をスタンダールのスカウトが見に来ていて、マリノスと名古屋の試合で僕に興味を持ってくれたという話は聞きました。それで、シーズンが終わったタイミングでオファーが来たという感じだったと思います。
――海外のクラブからオファーがあれば行きたいという気持ちだった?
「プロになった時から、海外でプレーしたいという気持ちはありました。ただ、その時のベルギー・リーグはいまみたいに、日本では有名ではなく、ベルギー代表自体もそこまで強くなかった。周りの人から、マリノスの10番を捨ててまでなんのためにヨーロッパ行くのかとか、ステップダウンじゃないかと言われたこともありました。
でも、自分は行ってみたいという気持ちが強くて、行ってみなきゃ何も分からないと思っていました。なので、話を頂いてすぐ『行きます』と。ベルギーに行くまで、どんなリーグでスタンダールがどんなクラブかも全然分からなくて。とりあえず『川島さんがいる』ということぐらいしか分からなかった(笑)。永井君が同じチームに入るということも、向こうに行ってから知ったんじゃなかったかな」
――実際にベルギーでプレーして、レベルは?
「レベルは高かったですね、僕がいた時は、アンデルレヒト、スタンダール、ヘンク、クラブ・ブルージュ、ヘントの5チ―ムぐらいが抜けていて、それ以外は中堅から下と言う感じだった。スタンダールは勝つのが当たり前みたいなチームだったので、ファンもそういう目で見ていました。ダービーの前なんかにサポーターが発煙筒を焚いて練習場に乗り込んでくるとか、そんなのが日常茶飯事でしたね。
選手がそのサポーターたちのところに行って、『俺らは練習があるから、明日応援してくれ』って直接話したりとか、そういう環境でした。リーグやクラブの歴史が100年くらいあって、もう生活の一部というか、サポーターの人たちのクラブやサッカーが生きがいみたいな感じはすごかったですね」
――日本のサッカーとの違いは?
「やはりパワーとスピードはすごかったですね。本当に縦に速い。マリノスにいた時は、繋いで繋いでという感じでしたけど、向こうは、前にスペースがあるんだったら蹴って走れ、みたいな。前線にはだいたい大柄のストライカーがいて、その選手がボールをキープして、どんどん追い越していく。悪く言うと、間延びしたサッカーになることが多く、その分1対1の局面が多くなる。
だから、球際のところで闘えなかったら、チームメイトからも信頼されないし、どれだけ上手くてもファイトできなければ試合に出られない。日本だったらファウルを取られるようなプレーが、流されることもよくありました。練習の時から勝ち負けにこだわりがあって、そういうところはすごかったですね」
――ベルギ―から帰ってきて、鳥栖では横浜時代とは違う激しさを感じました。
ベルギーで学んだものが大きかった? 「そうですね。そこは変えちゃいけないと思いますし、そういう風なプレーをしようというのは心掛けてましたね。ただ、どうしても何年も日本でプレーしていると、その環境に慣れてしまうというのはありますね。サッカーが違うので。向こうだったら、前を向いてボールを持ったら、あと半歩近くで来ていたなとか、違いを感じることはありますね」
――小野選手がスタンダールの後に移籍したシント=トロイデンをはじめ、今では多くの日本人選手がベルギーでプレーしています。
「すごく良いと思います。僕がシント=トロイデンにいた時は、いまとは会長も違っていて、ほかに日本人は一人もいなかった。ちょうど2部から1部に上がったタイミングで行ったので、まだ1部に定着するようなチームじゃなかった。それに比べたら、今は1部で良いサッカーをしていると思います。
日本人選手が行きやすい環境だとは思いますけど、違うチームで上手くいかなかったから、とりあえずシント=トロイデンに行こうとかじゃなくて、本当に上を目指す、自分がステップアップするために行くんだという気持ちであれば、クラブも成長するし、選手もどんどん羽ばたいていけるのかなと。ただ、どうしても日本人で固まってしまうと思うので、せっかく海外に行ってるんだから、他の国の選手と関わって色んな文化、考え方を吸収したほうがプラスになるとは思います」
――いまの日本代表では、小野選手と同じ“プラチナ世代”の選手が活躍しています。刺激をもらうこともありますか?
「(伊東)純也に関しては、小学校の時から知っていて、高校(神奈川県立逗葉高)も同じでした。僕がマリノスのユースで、純也は高校の部活で。だから、本当に尊敬していますし、頑張って欲しいなと思います。ベルギーに限らず、海外のクラブで1シーズンずっと出続けるのは、けっこう難しいんです。調子が良いときはいいですけど、チームの状態が悪くなった時に、日本人は外されすいので。そんななかで、ベルギーで活躍してチームの中心として出続けるのはすごいなと思います。
他の代表選手も何回かプレーしたことがあったりしますけど、引き続き日本代表を強くしてほしいですね。刺激は少なからずもらいますけど、自分は今やらなきゃいけないこと、自分ができること、今はこのクラブに貢献するということが、やりたいこと、やらなきゃいけないことなので、そこにフォーカスして、ガンバでしっかり結果を出したいと思います」
――最後に、今シーズンも残り少なくなりましたが、今後に向けての意気込みをお願いします。
「今シーズンなかなかチームとして上手くいかず、上のチームとも勝点差が離れてしまいましたが、一つでも順位を上げてガンバというクラブの価値を保ちたい。そして、こんな状況でも毎試合見に来てくれているファン・サポーターの方に少しでも戦う姿を見せて、またたくさんの人が見に来れるようになった時に、行きたいなと思ってもらえるようなシーズンの終わり方ができればと思っています」