「久保建英は手ぶらじゃない。メダルはないけど、いろんなものをもらった」「谷晃生は来年のW杯で代表の正GKかも」【東京五輪サッカー】最後の激論(7)
U-24日本代表の東京オリンピックは8月6日で終わった。3位決定戦のメキシコ戦に1-3と敗れたものの、全6試合を経験したことは、日本サッカーにとってはかり知れない価値がある。久保建英と堂安律を攻撃面の中心に据え、吉田麻也、冨安健洋の両CBに加えて板倉滉、そしてボランチの遠藤航、田中碧といった才能が結集し、史上最強とも言われた五輪代表の戦いを、取材歴50年のサッカージャーナリスト・大住良之と後藤健生はどう見たか――。
―久保が最後に言っていた「今日は手ぶらで帰るだけです」というコメントについては?
後藤「2012年のロンドンオリンピックで、競泳男子200メートルリレーの日本代表チームが、“(北島)康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない”っていう言葉を残していたけど、あれが出典かな?」
大住「なるほど。そうかもしれないし、違うかもしれない。けど、彼の年齢にしてみては、すごく気の利いた言葉を残したよね」
後藤「彼は素晴らしいよ。あの年齢で気の利いたセリフが満載だもん」
大住「彼が試合後に号泣した姿を見たときに、もちろん彼には大きな悔しさもあったのだろうけど、僕は高校生みたいだなって思ったよ。高校生はああいう場面で大泣きをする。緊張が一気にとけて、悔しさも出てきて。そして大泣きをした後は、意外とスッキリしているもんなんだよね」
―久保への期待はどうですか?
後藤「もちろんあるよ。今回のメキシコ戦だって、コンディションの良い時に比べたら、たしかに回数や効率は悪かった。けど、前半にはディフェンダーの2人のあいだを通して相馬へ出した場面があったし。ゴールの場面だって、三笘が逆サイドでフリーになったのを見つけて、正確にパスを出したし」
大住「あの前の時間の久保だったら、あの場面で打っていたよね?」
後藤「そうそう、いつものコースだから打つかなと思ったら、あそこにパスを出した。やっぱりすごいよ。上手いし、頭がいい」
大住「そして自分をコントロールできる。あのパスが出せたのは、本当にすごいと思った」
後藤「前半の最後とかで疲れ切っていて、代えたほうがいいよ、って思っていたけど、最後に生き返って、そして最後の時間の彼は素晴らしかった」
■「手ぶらで終わってない」「多くを学べたね」
大住「それは、彼にとってもすごく大きいと思う。頭も足も動かないような状態から、自分の中の新しい力を引き出した。ああいう経験はすごく大きい」
後藤「将来にいつかそれが役に立つ」
―そうすれば“手ぶら”じゃないですね?
後藤「手ぶらじゃないよ。メダルがなかっただけで、いろんなものを貰った大会だった」
大住「しかも、久保は3点も決めているし」
後藤「久保だけでなくて、このチームにとっても本当に素晴らしい経験だった。スペインのような、ヨーロッパのあれだけのチームが、本気で日本と戦ってくれた。それには感謝しないとね。フランスみたいに、いいかげんなチームを相手に4点を取って、すごいすごいって大会を終わっちゃったら、何も得るものはなかった。A代表並みのメンバーのスペインが、あれだけ本気で戦ってくれたのが、本当に良かった」
大住「そしてそれが実現できたのは、その前のニュージーランド戦で、うまくいかない中で何とか次に繋いだ成果だけどね」
後藤「メキシコ戦でもキーパーの谷晃生があのPKを止めてくれたらな……そしたら、1968年のメキシコオリンピックの横山謙三さんのPKストップと同じ展開だなって思っていたんだけど」
■「谷は次に期待できる」
―その谷晃生も、お土産をたくさん貰えましたね?
大住「来年はガンバ大阪の正キーパーだよ」
後藤「ニュージーランド戦のPKでの活躍だけじゃなくて、試合中も本当に的確なプレーをしていたよね」
大住「あのサイズがあって、高さにも強い、判断も安定している。代表のキーパーグループには確実に入るだろうし、もしかしたら来年のワールドカップで日本代表の正キーパーになっているかもしれない」
後藤「そして、鈴木彩艶もいるから。本当に夢のようだよ、日本に若くて有望なキーパーがたくさんいるって。少し前までは、日本にはキーパーがいないだの、守備の文化がないだの言われていたのに。たまに、守備の強いチームができたとしても、田中マルクス闘莉王と中澤佑二で弾き返すだけのチームだったし」
大住「後藤さんって、フィリップ・トルシエの“日本には守備の文化がない”発言をけっこう根に持っているよね?」
後藤「いや、僕も当時は同じことを思っていたから」
大住「ははは。とにかく今回の東京オリンピックは、日本サッカー界にとって大黒字だった。これからのワールドカップ最終予選に期待しましょう」