A代表夢じゃない、GK谷晃生の雰囲気はクレヨンしんちゃんのボーちゃん?
大阪が生んだ“ボーちゃん”にとって、東京オリンピック(五輪)は世界と互角に渡り合えた舞台だった。
53年ぶりの銅メダルが懸かったサッカー男子の日本は、3位決定戦でメキシコに完敗した。チーム競技としての結果には否定的な意見もあるが、個人の評価を確実に上げたのはGK谷晃生(20=湘南ベルマーレ)だろう。
久保や堂安ら既に世界で戦っている選手と違い、谷は事実上、昨年のJリーグから実績作りをスタートさせたばかり。原則24歳以下に制限された大会に20歳で出場、しかも当初は第2GKだったのに、開幕1カ月前に第1GKに昇格。知名度はもちろん、期待値も久保らほど高くなかったはずだが、大会全6試合、フルタイム600分間に出場した。
武器は190センチの体格を生かしたシュートストップ、足元の技術、空中戦など、あらゆる点でレベルが高く、安定していること。6試合の中ではキックミスなども何度か見られたが、ニュージーランドとの準々決勝では、突入したPK戦で相手のシュート1本を完璧に阻止。GKがヒーローになり、世界に存在をアピールした。
96年アトランタ五輪でブラジルを破る「マイアミの奇跡」を演じた、現役時代の川口能活GKコーチ(45)と比較されるかもしれないが、記者の知る限りは川口コーチは普段から闘将型。練習場でも他人を一切、寄せ付けない空気があった。一方で谷は“静”のイメージが強い。
東京五輪前、大阪・堺市に住む谷の母真由美さん(52)に取材する機会があった。実際に小学校卒業までは、性格的に目立つ存在ではなく、どちらかといえば控えめだったという。
母いわく、しゃべり方も含めて雰囲気が、漫画「クレヨンしんちゃん」に登場する「ボーちゃん」に似ていたと、教えてくれた。それが地元でコツコツ練習を続け、大阪の選抜選手になり、ガンバ大阪ジュニアユースに進んだ頃には、よりシビアな勝負の世界で生活することになり、顔つきが急変していったという。今やファッション誌「メンズノンノ」にも登場するイケメンJリーガーだ。
3位決定戦でメキシコに敗れた試合後、谷は相手GKで同国の英雄36歳のオチョアから健闘をたたえられていた。これも世界大会でしかできない貴重な経験。今大会で得た自信を胸に、再びJリーグで自身の可能性を突き詰めていくことになる。
そういえば、川口コーチはアトランタ五輪から1カ月後にA代表に初抜てきされ、日本が史上初めて出場した2年後の98年ワールドカップ(W杯)フランス大会代表に22歳で入った。
その計算でいけば、谷も9月から始まるW杯アジア最終予選でA代表に入り、来年のW杯カタール大会に滑り込むのは決して夢物語ではない。W杯開幕翌日の11月22日に川口コーチと同じ22歳になる。
大阪生まれの「ボーちゃん」が今後、どう進化していくか見届けたい。