ガンバ大阪・パナスタの画期的な「新スキーム」サッカースタジアムの「西高東低」
みなさんはもう、新しい国立競技場を訪れただろうか。いや、西日本や九州にお住まいのサッカーファンはもう、「聖地・国立」なんて思っていないのかもしれない。なにせ、見やすい最新式のサッカー専用スタジアムが、西日本や九州地方に続々と誕生しているのだから。陸上競技場でのトラック越しのサッカー観戦で満足しているのは、関東在住のサッカーファンだけなのかもしれない。サッカー観戦環境に“西高東低”問題が発生している――。
東京オリンピックは新型コロナウイルス感染症の影響でほとんどの会場が無観客となった。そのため、サッカーの試合が有観客で開催されたのは宮城スタジアムだけだった。僕もその宮城スタジアムで行われた唯一の日本代表戦、7月27日の女子日本代表対チリの試合を観戦してきた。
このスタジアムは2002年ワールドカップで日本代表がトルコに敗れた会場だが、西側メインスタンドが2層式で東側バックスタンドが1層式になっている。下層スタンドは陸上競技のトラックがある上に、他の陸上競技場と比べてもスタンド最前列がトラックから非常に遠く離れていて、しかもスタンドの傾斜も緩いので(記者席も含めて)非常に試合が見づらい。
今回のオリンピックの試合では観客数が1万人以下に制限されることになったため、宮城スタジアムでは同一ブロック内は移動自由の扱いになった。しかも、実際の入場者数は1万人の枠の半数以下だったから、事実上自由席だった。
そこで、僕は日本対チリ戦は2階席の最前列から3列目で観戦した。2階スタンドからは角度を取って見下ろすように俯瞰的に試合を見ることができるからだ(3列目なのは、それより前の席では手すりが視界を遮るから)。しかし、それでも宮城スタジアムはスタンドからピッチの距離が遠く、やはり試合が見づらいことに変わりはなかった。
■“西高東低”なスタジアムのサッカー観戦環境
大会前に、日本代表の準備試合の多くが行われた西日本にはサッカー専用スタジアムがいくつもあったのに、オリンピック本大会で使用された東日本のスタジアムはほとんどが兼用競技場だった。
これは、いったいどういうことなのだろうか? 考えてみると、通常時には日本代表の重要な試合の多くは首都圏のスタジアムで開催されるが、そのほとんどが陸上競技兼用なのだ。そのため、最近はワールドカップ予選はほとんど埼玉スタジアムで開催されている。
首都圏で国際試合に使用されるスタジアムのうち、「サッカー専用」は埼玉スタジアム2002と(やや小規模な)フクダ電子アリーナだけであり、日産スタジアム(横浜国際総合競技場)、味の素スタジアム(東京スタジアム)、そして新国立競技場はいずれも陸上競技場である(味の素スタジアムは日本陸上競技連盟による公認期間が満了となったため陸上競技に使用できず、現在はトラック部分に人工芝が敷き詰められたままになっているが、スタンドとピッチとの位置関係は陸上競技場と同じであり、専用スタジアムに比べて試合が見にくいことに変わりはない)。
首都圏外の関東地方全域を考えても、国際試合が開催できる大規模な専用スタジアムはカシマだけなのだ。つまり、サッカー専用スタジアムの数は間違いなく“西高東低”なのである。
■民間資金を活用した西日本のスタジアム
ここ数年で、西日本のスタジアム事情は大幅に改善された。
かつては、大阪の2つのクラブ(ガンバとセレッソ)はともに陸上競技場を本拠地にしていた。長居スタジアム(ヤンマースタジアム長居)は2002年ワールドカップを前に全面改修されて近代化されたが、5万人収容であり、セレッソ大阪の集客力を考えれば明らかに大きすぎたし、ガンバ大阪が使用していた万博記念競技場(陸上競技場)はアクセスがちょっと不便な上に施設はかなり老朽化していた(開場は1972年)。
そこで、ガンバ大阪はついに専用スタジアムの建設を決定した。
ガンバ大阪は任意団体「スタジアム建設募金団体」を設立して経済界やサポーターからの寄付金を募ってスタジアムを建設し、完成したスタジアムを吹田市に物納で寄付するという形でスタジアム建設資金を調達して新スタジアムが建設された。いわば、官民合作のスタジアムである。
日本では、これまでの多くのスタジアムは自治体主導で建設されてきたが、ガンバ大阪が建設した市立吹田サッカースタジアム(パナスタ)はそれとは一線を画した、民間主導の新しいスタジアム建設のスキームだった。
同じ関西圏には、これに類似した方式で建設されたスタジアムがすでに存在していた。御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸)である。
御崎公園には1970年に完成した神戸市立中央球技場が存在していたが、2002年ワールドカップの開催地として立候補した神戸市はこの球技場を改築することを決定。その際に使われたのが「公設民活方式」だった。設計から施行、運営までを一括した事業コンペを行って、スタジアム所有者である神戸市が民間企業に委託したのだ。運営主体である民間企業が設計段階から関わるので無駄を排することができる。
そして、入札の結果、神戸製鋼所と大林組のグループが受注して完成したのが現在のスタジアムなのだ(ワールドカップの時には仮設スタンドを設置。大会後に撤去してダウンサイジングを行った。そして、完成以降は株式会社「神戸ウイングスタジアム」が一貫して運営を行っている)。
他のスタジアムとの大きな違いは、スタンド下がトレーニングジムなどとして利用され、地域住民のために使用されている点である。
2017年に完成した北九州市小倉北区の北九州スタジアム(ミクニワールドスタジアム北九州)も民間資金を活用し、民間に施設整備と運営を委託する方式で建設された(「PFI方式」と呼ばれる)。事業は九電工グループが落札し、設計・建設から運営までを一括で受注。「株式会社ウインドシップ北九州」が設立されて、現在もスタジアムの運営を行っている。
つまり、西日本のサッカー専用スタジアムの多くが、民間資金を活用し、民間に運営を委託する方式で建設されているのだ。