湘南GK・谷晃生が大谷翔平に憧れるわけ。世界で活躍する野心は隠さない

サッカーのゴールキーパー(GK)は経験が必要なポジションだ。攻守に求められるものが多く、試合におけるいろんなシチュエーションでの経験がGKの能力を高めていくことになる。

湘南ベルマーレの谷晃生(こうせい)は、いずれ日本代表のゴールを守るであろうと将来を嘱望されている逸材だ。チームでは守護神としてプレーし、東京五輪を戦うU-24日本代表では3月のアルゼンチンとの親善試合に初招集され、1試合に出場。強敵をゼロに抑えて勝利に貢献した。

クラブでの活躍がU-24日本代表招集に結びついたわけだが、谷は昨年、ガンバ大阪から期限付き移籍で湘南にやってきた。

「移籍を決めたのは、1年で見違える成長をしたいと思ったからです。オファーをいただいたなかで、湘南なら成長できるんじゃないかと、自分の直感で決めました」

ガンバの正GKは日本代表であり、経験豊富な東口順昭が君臨している。GKのポジションは1つしかなく、フィールドプレーヤーのように試合途中で交代というわけにはいかない。ゆえに、レギュラーが決まるとなかなか動かせないポジションである。

レベルの高いGKと練習して多くを学ぶことはできるが、試合に出て実戦経験を積み、プレーレベルを上げていくことは難しい。そうしたこともあり、谷は出場機会を求めて必要とされるチームに移籍することを決めた。

それにしても、なぜ湘南で成長できると考えたのだろうか。

「湘南は多くの若い選手が試合に出ていましたし、がむしゃらに自分たちのスタイルを貫くところも面白いと思って見ていました。『たのしめてるか。』というクラブのモットーも、僕自身サッカーを楽しみたいと思っていたので、このチームなら成長できるんじゃないかと」

1年目のシーズンとなった昨年、谷は6節の鹿島戦でリーグ戦デビューを果たし、25試合に出場。期限付きのため1年でガンバに戻るという選択肢もあったが、今年も湘南でプレーすることを決断し、背番号1を背負う。

「昨シーズンは18位。不甲斐なさと悔しさを感じました。湘南はもっと上にいけるクラブですし、これまで経験させてもらったことを応援してくれるファン、サポーターに結果で恩返ししたいです」

また、1年間J1でプレーした経験は非常に大きかったと谷は言う。

「試合でしかないシチュエーションとかプレーが絶対にあるので、そういうのをどれだけ経験できるか。昨年プレーして、いろんな予測を立てられるようになった」

谷が昨年から言い続けていたのは「準備と予測」である。

「ゴールを守るためには、しっかり準備しないといけない。そのためには予測も必要になってきます。なかでも意識しているのがポジショニングです。ポジショニングがよければ、多くのシュートを止められますし、プレーの幅が広がる。いいポジショニングをとれている時は見える部分が多いので、予測が立てられる」

試合経験を積むことで「準備と予測」は洗練されていくのだが、谷のプレーにもいくつか変化が見られた。たとえば、シュートを防ぐシーンでの構えが非常にリラックスしていて自然体になった。

「今までは力が入ってしまって、うまく自分のパワーを発揮できなかったんです。なのでリラックスした状態で力を発揮できるように取り組んできて、試合に出続けることでそれができるようになってきました」

そうしたシュートストップの技術をはじめ、GKとしての厚みを増していった谷は、メンタルも強くなったという。

「自分のミスで失点した時は顔に出さないようにしていますけど、もともとそういうところが弱かったんです。ユース時代は自分のミスで失点すると、悪い方向にいっていたんですが、今は立て直せるようになりました」

そう語る表情は自信に満ちあふれていた。心技体が充実している証だろう。

まだ20歳の谷だが、2年前に選手として大きなターニングポイントを経験している。

「肩を脱臼した時ですね」

2019年2月に肩を痛め、4月に脱臼して手術を行なった。

「ケガでU-20W杯やコパアメリカに行けず、自分が何もできないなか、同世代の選手が活躍して……正直、うらやましいなと思って見ていました。彼らの活躍は刺激になりましたし、体やプレーについていろいろと考えさせられました」

また谷は、2018年ロシアW杯でも貴重な経験をしている。練習パートナーとして日本代表チームに帯同したのである。

「この経験は相当大きかったですね。僕自身の目標はW杯で優勝することなので、その目標とする舞台で戦っている選手を間近で見ることができた。コロンビア戦とセネガル戦の2試合を見たんですけど、W杯のなんともいえない空気感を味わうことができたので、本当にいい経験になりました」

W杯期間中に日本代表選手を間近で見て、谷が大事だと思ったことは「切り替え」だった。

「タフな試合を中2、3日で戦うのは本当に大変ですし、プレッシャーもあると思うんです。でも大会中、選手はずっと気を張っているわけではなく、メリハリをつけて過ごしていました。とくに大きな大会ではオンとオフのスイッチの切り替えが大事だと思いました」

W杯は来年、カタールで開催予定だが、その前に今年は東京五輪が予定されている。谷はU-20W杯こそケガで出場できなかったが、2017年のU-17W杯に出場している。今回、東京五輪を戦うU-24日本代表に選出されれば、世代別カテゴリーで2度目の世界大会出場になる。

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谷にとって東京五輪は、どのような位置づけなのだろうか。

「そこは目指さないといけない舞台ですし、金メダルを獲るために大きな存在でありたいと思っています。ただ、自分の目指す場所はそこが最終ではなく、W杯での優勝です」

東京五輪のU-24日本代表登録メンバーは18名である。そのうちGKは2名。レギュラー争いはもちろん、本大会のメンバーに入るのも激戦だ。

「2名に入るにはチームでのパフォーマンスが重要になります。そのためには湘南で試合を楽しむこと。とにかく成長するしかない。そうすれば、たとえ選ばれなかったとしても先につながると思っています」

また、東京五輪には25歳以上の選手を3名招集できるオーバーエイジ(OA)枠がある。4位になったロンドン五輪の時のようにOAの選手がチームにフィットすればチームの躍進につながるため、森保一監督はOAの選手を招集する意向を示しているが、その場合、必然的に谷も含めたU-24世代の枠が少なくなる。

「OA枠については難しいですね。経験のある選手がいて、チームにもたらしてくれるものは大きなものだと思います。同世代だけでやりたいか? うーん、今回は世代別といっても限りなくA代表に近いですし、結果が大事だと思っているので……」

目標は「金メダル」と谷は言う。世界が注目する大会で活躍したいという野心を、谷は隠そうとしない。

「世界で通用するかどうか、やってみないとわからないですが、まずそのチャンスを自分でつくっていかないといけない。東京五輪がそのきっかけになるのか、リーグ戦に出続けることがきっかけになるのかわからないですけど……。GKは世界に出ていくのが難しいと言われていますが、難しいで終わらせたくはないです」

東京五輪が終われば、来年のカタールW杯への戦いが始まる。 「まずは東京五輪が目前の大きな目標になります。そこで結果を残すことができれば、次の道も見えてくる。もちろん、W杯も出たいですね。そこで優勝することが最終目標なので。6歳の時に初めて見たドイツW杯で、優勝したイタリア代表の選手たちがトロフィーを掲げるのを見た時、自分もそれをやりたいと思ったんです」

誰も達成したことのないことをやり遂げたい──谷を突き動かすものは「前人未到」への挑戦なのかもしれない。それゆえ、谷が憧れるヒーローが「大谷翔平」というのも頷ける。

「二刀流ってすごいですよね。それをメジャーで実現しているのはすごい。サッカーでいうとFWとGKみたいなものじゃないですか。自分も点を取りたいですし、取らせたくない。大谷選手を見て、子どもたちはそういう選手になりたいと思うでしょうし、僕もそれぐらい影響力のある選手になりたいと思っています」

谷も小学生の頃、前半はFWで点を取って、後半はGKとしてゴールを守っていた。その頃の名残か、今もゴールへの欲求は強い。

「今も点を取りたいですよ」

ゴールを守りながら、常にゴールに直結するプレーを意識する。そうした発想が、GK谷晃生をさらに進化させていくはずだ。

プロフィール谷晃生(たに・こうせい)/2000年11月22日、大阪府生まれ。ガンバ大阪の下部組織出身。2017年3月12日、ガンバ大阪U-23としてJ3・ガイナーレ鳥取戦でJリーグ初出場を果たす。16歳3カ月18日での出場は、歴代5位の年少出場記録となった。2018年にガンバ大阪に入団。2019年12月に湘南ベルマーレへ期限付き移籍した。

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