大黒将志“ストライカーコーチ”、育成年代指導への覚悟 「点を取れたのは偶然じゃない」
【大黒将志ストライカーコーチインタビュー|第1回】今季からG大阪アカデミーのFWコーチに就任
222ゴール――。かつて“大黒様”と呼ばれた元日本代表FW大黒将志は、昨季限りで現役を引退し、今年2月からガンバ大阪のアカデミーストライカーコーチを務めている。現役時代に積み上げたゴールは計222。多くのクラブを渡り歩き、存在感を示してきた稀代の点取り屋は、日本で“異例”のストライカーコーチとしてどのような信念で指導しているのか。「Football ZONE web」のインタビューに応じた大黒コーチが明かした。
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「ストライカーコーチとしてジュニアユース、ユースのFWを中心に点が取れるように教えている。(小学生向けの)一般のスクールもやっているので、それはストライカーコーチとしてというより普通のコーチとして子どもたちに楽しんでもらえるように一緒にプレーしている。ジュニアユースやユースにはFWが将来トップや海外、日本代表で活躍できるように指導している」
大黒はG大阪のアカデミーで育ち、1999年にトップ昇格。プロ1年目で11試合に出場し、コンサドーレ札幌を挟んでG大阪がJ1初優勝を果たした05年まで在籍した。04年には20得点、05年には16得点の活躍で、06年にはフランス2部グルノーブル、同年9月にはイタリア1部トリノへ移籍。08年に日本へ戻り、東京ヴェルディ、横浜FC、FC東京、横浜F・マリノスでプレーした。中国1部杭州緑城を経て、再びJリーグに復帰。京都サンガF.C.、モンテディオ山形とJ2を経験し、栃木SCで現役生活に幕を閉じた。
日本代表を含め、公式戦で挙げたゴールは222。各クラブで多くの得点を重ねてきた。そんな大黒は今年の2月から、古巣G大阪のアカデミーでストライカーコーチを務めている。中学生から高校生相手に「点を取るためにどうやったらいいのかということを全部教えている」と、点取り屋としての“いろは”を叩き込んでいる。
「選手一人ひとり特徴は違うけど、課題は似ている。そういうところをどんどん指摘して、できていないところを改善していく。ユースには映像を切り取って分析して一緒に見て、『ここはもうちょっとこういう体の向きにしたほうがいい』とか細かく指導している。ジュニアユースは、すぐ劇的に変わらない。体が全然違うので、なかなか時間がかかるなという風には思っている」
ジュニアユースとユースで指導法を変え、工夫しながら選手たちにゴールまでのアプローチを伝授。現役時代から研究熱心で、ストライカーというポジションを論理的に捉えてきた大黒だからこそ、言語化も難しくない。トレーニングの中ではシュート練習一つをとっても大黒“らしさ”を重んじ、精神面でもコントロールする。
“育成”に関わるうえで一番大切にしていること「ただ褒めるだけでは現状維持になる」
「点にはこだわってほしい。例えば、ユースのある日の練習で1点も入っていない子がいたら『今日0点やで』と、『俺は数えているで、見てるで』みたいな感じで言ってあげる。次の週には『今日は点いっぱい入れたな』と言うと、『7点入れました』と返してきたりする。こっちが何も言わないと、もしかしたら0点でもなんとも思わない可能性もある。そういうのをどんどん刺激してあげる。ただ、外しているのに(コーチに)言われると『鬱陶しいな』と思うFWの気持ちも分かる。でも、できていないことを見つけてあげることも大事。褒めることも大事だけど、ただ褒めるだけでは現状維持になる。
自分でやりながら感じたこととか、どういう練習をしたらどういう時に試合に生かせているかを感じてもらいたい。現役時代にもっとこういう練習をしたらいいのにな、と思っていたシュート練習をやらせたりしている。どんなボールが来ても対応できるように。ユースの子は試合で割と強めのパスが来てもそんなに強く感じない。僕が練習でもっと強いパスを出しているので」
大黒がストライカーコーチとしてノウハウを伝えるうえで一番大事にしているのは「ゴールにこだわる」という気持ち。自身は点を取るために現役時代からDFの動き、駆け引き、タイミングといろいろなパターンを分析してきた。練習からゴールにこだわっていたから、研究にも熱が入った。
「僕がどこのクラブに行っても点を取れていたのは偶然じゃない。考えてやっていたから。練習すれば、こういうパターンで点を取れるというのが分かる。特にタイミング。サッカーでは止めるタイミング、動くタイミング、いろいろあるけど、サッカーの面白いところはただ速いだけではダメなところ。陸上じゃない。タイミングに基づいてやらないとなかなか上手くいかないスポーツ。それだけで点が入る、入らないが左右されるので、点を取れる選手はタイミングをよく分かっている。それをしっかり教えてあげれば、僕が言うのもなんですけど、簡単に点が入ると思う」
プロになる前の夢か現役続行か…進むべき道での葛藤「危機感があった」
細かい改善点を何度も何度も選手に伝える。それはプロになった時の“基盤”を作るため。欧州では元オランダ代表FWロビン・ファン・ペルシーが古巣フェイエノールトでFWコーチを担当しているが、日本では“異例”のポスト。現役だった昨年にG大阪から打診があった。指導者はプロになる前から思い描いていたビジョン。最終的には「監督」を目指すうえで決断を下した。
「プロになる前から漠然と将来は監督をやりたいな、と思っていた。(打診は)ありがたかったし、嬉しかった。ただ体も動いたので、そこでどうしようかな、と悩んだ。現役を長く続けることはできたけど、それにつれて指導者のスタートも遅くなる危機感があった。体も頭もできるし、能力は落ちていない。でもずっとやっていたら、何歳に(指導者を)始められるのかというのがあった。(ストライカーコーチは)できていること、できていないことを細かく見て、絶対何かしら見つけられる。監督はFWだけ見ているわけにはいかないけど、僕はFWの動きをずっと見ている。だから、ちょっとした変化に気付ける。自分たちが育ててもらったクラブで後輩たち、子どもたちを教えさせてもらっているので、自分のすべてを教えたいなと思っている」
育ったクラブへの恩返しの気持ちは強い。 「しっかり教えたユースの子たちがガンバで活躍して、早くツネさん(宮本恒靖監督)を助けるようになって欲しい」 今、自身のすべてをかけて選手たちと向き合っている。大黒の思いを背負った選手たちがJリーグの舞台で輝く日はそう遠くないはずだ。