ガンバ大阪のタイトル奪取へのキーマン、韓国代表チュ・セジョンの正体
ガンバ大阪チュ・セジョンインタビュー 韓国代表のボランチとしても知られるチュ・セジョンが、宮本恒靖監督からの2年越しのラブコールに応えるべく、ガンバ大阪への”移籍”を決断したのは「ミッドフィルダーとして、もうワンランク、成長するため」だった。過去に受けた中東や中国からのオファーには振れなかった気持ちが、初めて動いた。
「Kリーグはフィジカルや運動量をたくさん求められるパワフルなサッカーをするのに対し、Jリーグはパスや戦術という部分で、より精密な、細かい部分が要求される。また、サッカーの試合のテンポもKリーグより速い。
ミッドフィルダーとして、そうした環境に身を置くことで見出せる成長はあるはずだし、すばらしい能力を持った選手がたくさんいるガンバの中盤でプレーすることで、韓国とは違う、いい刺激をたくさん受けられると思い移籍を決めました。
また、個人的な目標の1つである、次のカタールW杯で代表メンバーに選ばれて活躍するためにも、不可欠な選択だと思いました」
その決意の大きさが伺えたのは、ガンバの昨年の戦いについての印象を尋ねた時のことだ。ピッチの中で、周りとのコンビネーションがより求められるボランチを主戦場とすることもあって、準備は周到だった。
「今年も宮本(恒靖)監督が指揮を執ることもあり、加入までに昨年のガンバの試合はすべて映像でチェックしました。予備知識としてできるだけ多くのことを知っておくことが、加入後の助けになると考えていたからです。
僕にとっては初めての海外移籍ですが、外国籍選手ができるだけ早く結果を出すには、J1リーグ(のサッカー)やチーム戦術へのフィットが不可欠です。その意思をプレーで示さなければ、周りに受け入れてもらえないし、長い期間ガンバですごすこともできないとも思っています」
同じく韓国代表でプレーする、DFキム・ヨングォン(ガンバ)や、かつてガンバに所属したFWファン・ウィジョ(FCジロンダン・ボルドー)からも、背中を押された。
「ウィジョやヨングォンには、ガンバに在籍する選手のプレーの特徴やガンバを取り巻く環境、ガンバの選手、スタッフのみなさんがとても優しく面倒見がいいこと。また、スタジアムのすばらしさや、家族にとって大阪がとても住みやすい街であることも教えてもらいました。それによって今回の移籍を決断できた部分も多分にあります。
そういった周りのサポートも力にしながら、新しいチャレンジを充実したものにしたいと思っているし、ガンバの一員として一日も早く、チームが目指す”タイトル”(奪取)の力になれるようにしていきたいと思います」 たくさんのガンバの試合映像を見たなかで印象に残ったのは、「堅い守備」と「高さのあるFW陣を生かした攻撃と、緻密に短いパスをつなぐ攻撃を使い分けていること」の2つだと話す。もちろん、今シーズンもチームとして新たなチャレンジをしているため、それがすべてだとは思っていないが、少なからず自身のプレーを融合させていくうえでは助けになっているようだ。
「僕は中盤でのパスワークやゲームコントロールに限らず、キックの精度にも自信を持っています。ガンバの高さを生かした攻撃では、それを生かしたいと思ったし、足元でつなぐ時には前線にボールを供給する役割も担えると感じました。
ガンバの前線には(宇佐美)貴史をはじめとする、すばらしい能力を持った選手がいます。彼らに数多くのパスを通すことができれば、より攻撃チャンスは広がるはずです。そのことは意識してプレーしたいし、その部分は今シーズン、”タイトル”を求めるうえでもキーになると考えています」
なかでも宇佐美については、FCアウクスブルク時代のチームメイトだった、元韓国代表MFク・ジャチョルからもたくさんの情報を得たと言う。
「貴史の足元の技術、シュートの精度の高さは、ク・ジャチョルやウィジョからも聞いています。また、昨年の試合を見たなかでも、彼の能力が前線で遺憾なく発揮されることも、ガンバの攻撃力を勢いづけるうえでとても重要だと感じました。チームとして彼にできるだけ多くのパスを配給したいし、僕もそのひとりになれればと思っています」
それに対して、宇佐美もまた彼のプレーに期待を寄せる。
「去年の戦いを振り返っても、より攻撃的に試合を進めるうえでは、ボランチでさばきながら圧倒的にボールの配給ができる選手が必要になる。その部分で、個人的にはセジョンが入って、どれだけボールが回るようになるのかはすごく楽しみ。そこの質が上がっていけば、ボールをできるだけ長く保持しながら、より攻撃にかけられる時間も長くなると思う」(宇佐美)
もっともFUJI XEROX SUPER CUP2021には両選手とも出場がなく、リーグ開幕戦も宇佐美が途中交代したあとに、チュ・セジョンが投入されたため、いまだ公式戦では同じピッチでプレーしていない。
宮本監督も「セジョンがJリーグのリズムやスピード、試合の強度などに慣れるには時間が必要」と話していることから、息のあったコンビネーションを楽しめるのは、もう少し先になるかもしれない。ただ、本人がその時を楽しみにしながら、日々積み上げていることに嘘はない。
「今回の移籍は、自分のキャリアにおいて2度目のターニングポイントだと思っています。一度目は、釜山アイパークからFCソウルに移籍した時で、そこで新たな刺激をたくさん受けたことが韓国代表にもつながったように、今回の移籍も間違いなく自分にとって大きな意味を持つはずです。
自分にとっては初めての海外移籍で、難しさを伴うこともあると思いますが、この決断を成長につなげられるように、これまでのキャリアでも大切にしてきた”学び”の姿勢を大事に進んでいきたいと思っています。
ガンバへの加入に際しては、僕がここに来る前から、多くのガンバサポーターのみなさんがSNSなどで歓迎のメッセージを寄せてくださいました。それをすごくうれしく受け止めると同時に、みなさんの期待に応えるためにも、また、この先の”タイトル”を一緒に喜ぶためにも、ガンバに必要だと思われる選手にならなければいけない。
過去にガンバで活躍してきた先輩方のように、このチームには韓国人選手が必要だと思ってもらえるプレーをしたいと思っています」
1月末には、チームにできるだけ早く馴染むために、「できる限り自分の知っている日本語や、学んだ日本語を使うように心がけている」と明かしていたセジョン。取材後にも「ヨロシクオネガイシマス」「ワタシハ、チュ・セジョンデス」「オツカレサマデス」と覚えたての日本語を並べ、笑顔を見せた。
その際には「今は選手の名前を覚えるのが一番大変で、毎日、家に帰って勉強しています」とも。また、自身の素顔についても、「今はまだ少し緊張もありますが、本来はとても明るい性格。親しくなるほど冗談も増える」と明かしていた。
あれから約2カ月半。今ではチームメイトの名前も、プレースタイルも頭に刷り込まれ、日々、チーム戦術への理解も深まっている。となれば、あとは彼本来の輝きがピッチで示される、その時を待つばかりだ。
チュ・セジョン1990年10月30日生まれ。韓国出身。身長176cm。Kリーグの釜山アイパーク、FCソウル、牙山ムグンファFCなどでプレー。足元の技術に優れたボランチで、韓国代表でも奮闘している。今季、ガンバ大阪へ完全移籍した。