2021シーズンJ1開幕!本命、対抗、有力…そして大穴候補は?【記者のJ1優勝予想】
いよいよ開幕する2021シーズンの明治安田生命J1リーグ。昨シーズンは川崎フロンターレの圧勝で終わったが、新シーズンはどのクラブが覇者になるのか? 『Goal』では、広く国内外のサッカーを取材する河治良幸氏に優勝予想をお願いした。
本命 鹿島アントラーズ
[昨季成績]
J1:5位
天皇杯:不出場
ACL:不出場
ルヴァン杯:グループステージ敗退
■ザーゴ監督2年目の戦術ベースに個性の上積み
ザーゴ監督が2年目を迎えてタイトルを狙う陣容が整ってきている鹿島アントラーズ。若い選手も多く、成長過程にあるチームながら、戦術的なベースの上に個性がどれだけ積み重なってプラスアルファの力を発揮できるかがカギになりそうだ。少なくとも新しいスタイルの適応に苦しんだ昨シーズン序盤のようなことはないだろう。
注目は昨季リーグ戦10得点の上田綺世と18得点のエヴェラウドを擁する前線だ。合計28発の“二本角”は戦術的なベースアップによるサポートを得て、さらに得点数を増やす期待がある。特に東京五輪のエース候補でもある上田が真のブレイクを果たすかに注目。一方で昨季は怪我に苦しんだ染野唯月も合宿からアピールしており、最初はジョーカーの立ち位置だとしても“二本角”に迫る得点力を発揮するポテンシャルは十分だ。
タイトル奪還の“ラストピース”になり得るのがサントスから新加入のMFディエゴ・ピトゥカ。アルゼンチン人の智将ホルヘ・サンパオリにも師事した経験があり、ブラジルの中では欧州流を取り入れている名門で主力を担っただけに、ポジショナルプレーをベースにしたザーゴ監督の戦術に素早く適応できるはず。ネックは新型コロナによる入国制限の影響で来日が遅れていることだが、三竿健斗、レオ・シルバの中盤に合流してくれば心強い。
どのポジションも競争が激しい中で、新卒のルーキーを含めた若手がどれだけ台頭するかがカギだが、「良い意味で期待を裏切りたい」と宣言する11年目の土居聖真などの奮起も期待できそうだ。
有力 川崎フロンターレ
[昨季成績]
J1:1位
天皇杯:優勝
ACL:不出場
ルヴァン杯:ベスト4
■リーグとACL制覇、前人未到に挑む
川崎フロンターレがリーグ連覇はもちろん、全てのタイトルを目指す立場にあることは鬼木達監督の言葉からも感じられる。だが、JリーグとAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の二冠を同年に達成したクラブは歴史上一つもない。いわば前人未到に挑むことになるが、川崎フロンターレであれば不可能ではない目標であることも確かだ。
懸案の一つだったアンカー・守田英正のポジションには、タイプこそ異なるものの名古屋グランパスからジョアン・シミッチを獲得。守田ほどの幅広いオーガナイズはできないが、ボールを奪う能力は高くファーストパスの正確性は抜群だ。空中戦にも強いため、相手のロングボールが多くなる状況でも、センターバックの手前ではね返せる。
前線は変わらず破壊力を持つ。20日のFUJI XEROX SUPER CUPではガンバ大阪に一度は追い付かれながら、終盤に登場した小林悠が劇的な勝ち越しゴールを決めて今季最初のタイトルを獲得した。レアンドロ・ダミアン、小林に、大分からレンタルバックした知念慶を加えて厚みを増している。三笘薫と家長昭博の左右ウイングがJ最強であることに疑問の声はない。
不安要素はセントラル開催となるACLの前後に待つ超過密日程と、4つの降格枠があることで、昨季より守備的に来る相手が増えそうなことだ。ゼロックス杯で2得点を決めた三笘が、G大阪は特別な対策をしてこなかったと語っていたが、リーグ戦になれば話は別。残留争いが目標のチームとなれば尚更だろう。そこを打ち破って勝ち点3を獲得し続けられるかは大きな注目点の一つとなる。
対抗 FC東京
[昨季成績]
J1:6位
天皇杯:不出場
ACL:ベスト16
ルヴァン杯:優勝
■若手選手たちの飛躍的な成長は必須
これまでのパフォーマンス、継続性を考えて高い確率で上位争いに加わってきそうなのがFC東京だ。昨シーズンはACLによる過密日程に加えて、夏場に橋本拳人、室屋成が欧州に移籍し、またキャプテンの東慶悟もケガで長期離脱。その中で多くの若手が経験を積んで成長できた。
キャンプやプレシーズンのメディア対応に、安部柊斗をはじめ、中村帆高、中村拓海、内田宅哉など、1年前の今ごろには若手の一人であった選手たちが重要な戦力として登壇している。その底上げは昨年の比にならない。
とはいえ、本当の意味で“FC東京の看板”を背負うのは、今もって永井謙佑や東、高萩洋次郎、森重真人、ディエゴ・オリヴェイラと言った経験豊富な選手たちだ。安部やW中村などが真にJリーグで話題を集める存在になっていけるかは今季次第。彼らとベテランとの融合が高まれば、悲願のリーグタイトルも近づいてくる。
長谷川健太監督は目標の得点数を60に設定しながら、失点を昨シーズンより減らすことで成績アップを目指している。しかし、それだと昨季の川崎Fのようなスーパーな存在には届かない。百戦錬磨の指揮官は、現実的な目標を定めながら若手選手たちの飛躍的な成長に期待を寄せる。
また、チームを影から支えてきた長澤徹コーチがJ2・京都サンガF.C.のヘッドコーチに、安間貴義コーチがJ3・FC岐阜の監督に就任し、クラブを去った。長谷川監督の“継続”の中で、大島琢コーチや佐藤由紀彦コーチが指揮官をどこまで支えていけるか。そこは長谷川東京のサイクルの転換期になる。
サプライズ 横浜F・マリノス
[昨季成績]
J1:9位
天皇杯:不出場
ACL:ベスト16
ルヴァン杯:ベスト4
■“自分たちのサッカー”を貫きながら幅を広げられるか?
昨シーズンは王者としてのプレッシャーに加えて、コロナ禍の過密日程、ACL参加と言う状況で、意図的にターンオーバーを用いるなどしたが、パフォーマンスに波が出てしまった。また、押し込みながらも得点が奪えない時間帯、先制しながら追い付かれる試合なども多く、とにかく連勝も少なかった。
そうした反省を踏まえた新シーズン。4年目のポステコグルー監督は、主力メンバーをより固定的に起用していく方針を表明している。同時に、キャンプから3バックを導入し、“自分たちのサッカー”を貫く中でも柔軟に戦える幅を広げている。
数少ない新戦力である岩田智輝やエウベルがどうフィットできるか。エリキが移籍した前線は未知数だが、2019年のMVPで昨シーズンはケガに泣いた仲川輝人、トリコロールで真のブレイクを目指すオナイウ阿道、東京五輪のメンバー入りを狙うスピードスター前田大然などポテンシャルは申し分ない。すべての要素がハイレベルに揃えばタイトル奪還も射程圏内だ。
大穴 ガンバ大阪&名古屋グランパス
[昨季成績:G大阪]
J1:2位、天皇杯:準優勝、ACL:不出場、ルヴァン杯:グループステージ敗退
[昨季成績:名古屋]
J1:3位、天皇杯:不出場、ACL:不出場、ルヴァン杯:ベスト8
■G大阪:ACLによる日程と選手層がカギ
優勝するポテンシャルを備えるが、ともにACLを戦い続けるための選手層には一抹の不安もある。4月のセントラル開催で勝ち上がれば夏に補強があるかもしれない。ACLの前にも過密日程が待つので、そこでスタートダッシュをかけられるかがポイント。
ガンバ大阪はゼロックス杯で川崎Fに敗れたものの、非常に希望を持てる戦いを演じた。GK東口順昭が好セーブを見せ、右サイドの小野瀬康介は運動量と推進力を発揮した。新シーズンはリーダー格の宇佐美貴史がどう加わってくるか。
昨シーズンの上位陣の中では“伸びしろ”のあるポジションが多いチームでもある。中盤の底から長短のパスを展開するMF山本悠樹は、遠藤保仁の後継者と目される逸材。その他にもMF福田勇矢、MF川崎修平、FW唐山翔自といった若手の中からグイッと伸びてくる選手が現れるかどうか。筆者としては高校生ながら鋭い突破力と決定力を兼ね備える坂本一彩に注目している。だが、“伸びしろ”ゆえに、停滞すると沈んでしまう危険性もある。過密日程の中で抜擢された選手たちが力を出し切ってほしいところ。
■名古屋:得点力をいかに上乗せできるか
名古屋グランパスは昨シーズンJ1最少失点の手堅いディフェンスに得点力をどう上乗せしていけるかが課題。その点では、柿谷曜一朗、齋藤学など個性的なタレントが加わったことで、バリエーションが増えたことは大きい。また長澤和輝や木本恭生など、戦術眼と強度を高水準で兼ね備える計算しやすいタレントも加わっており、戦力は確実に底上げされている。
ACL向きなチームでもあるので、勝ち上がった時にどうチームを回していくかはリーグでの上位躍進を図るうえでテーマになってきそうだ。成長を期待したいのは鳥栖から加入した森下龍矢と昨季台頭した生え抜きの成瀬竣平。前者は左サイドバックで吉田豊、後者は右サイドバックで宮原和也とのハイレベルな競争を強いられるが、そうした環境こそが彼らの成長を加速させるかもしれない。また5kgの減量に成功し、動きにキレがある相馬勇紀も東京五輪を含めて勝負のシーズンと言える。
次点:柏、広島、清水
[昨季成績:柏]
J1:7位、天皇杯:不出場、ACL:不出場、ルヴァン杯:準優勝
[昨季成績:広島]
J1:8位、天皇杯:不出場、ACL:不出場、ルヴァン杯:グループステージ敗退
[昨季成績:清水]
J1:16位、天皇杯:不出場、ACL:不出場、ルヴァン杯:グループステージ敗退
■柏:“脱オルンガ”、得点力の引き上げ
柏レイソルは“脱オルンガ”が大きなテーマであることは間違いない。新たにMFドッジ、FWアンジェロッティを獲得したが、緊急事態宣言下で来日できていない。この期間にFW呉屋大翔や神谷優太がアピールできるかどうか。 アビスパ福岡のJ1昇格を支えた上島拓巳がレンタルバックしたディフェンスラインと椎橋慧也を加えた中盤は計算できるので、オルンガの28得点分を全体でどうカバーしていくか。ACL、優勝を狙っていくには守備の安定を維持した上で、もう一段、得点力を引き上げる必要はある。
■広島:ジュニオール・サントス加入で前線の迫力は増加
サンフレッチェ広島はレアンドロ・ペレイラがG大阪に移籍した代わりに、昨季横浜FMで活躍したジュニオール・サントスを所有元である柏から獲得した。前線の迫力は上がったが、広島の生命線はやはりハードプレスとコレクティブな組織守備にある。ジュニオール・サントスとドウグラス・ヴィエイラを並べるような形は、ある意味スクランブルの布陣で、ジョニオール・サントスの後ろに2列目の浅野雄也、森島司、柏好文が並ぶ形がベースになるだろう。 アタッカーでサプライズを起こしそうなのがアカデミー昇格2年目の鮎川峻だ。鋭い仕掛けと精力的な守備で評価を高めている。
■清水:実戦を通して戦術理解を高めていけるか
昨シーズンまでセレッソ大阪を率いたロティーナ監督が就任した清水エスパルス。4-4-2のソリッドなゾーンディフェンスと幅を取ってしっかりボールを動かす攻撃を組み合わせたスタイルをキャンプから構築している。新戦力の多さに不安の声があるのも事実だが、ロティーナ監督の申し子である片山瑛一をはじめ原輝綺、鈴木義宜、中山克広などが早くもフィットし、開幕レギュラーを掴みつつある。 チアゴ・サンタナが評判通り得点力を発揮できれば、1年目にして上位躍進も夢ではない。実戦を通して戦術理解を高めていけるかがカギ。
記者の注目:サガン鳥栖
[昨季成績:鳥栖]
J1:13位、天皇杯:不出場、ACL:不出場、ルヴァン杯:グループステージ敗退
■鳥栖:“J2オールスター”的な補強がニーズにマッチ
昨シーズン13位のサガン鳥栖を上位に予想する記者や評論家はほとんどいないだろう。だが、FW山下敬大(←千葉)、MF仙頭啓矢(←京都)、DF飯野七聖(←群馬)、DF田代雅也(←栃木)など“J2オールスター”とも言える補強はチームのニーズにマッチしている。新戦力で唯一、J1の実績が豊富なDFファン・ソッコはキャプテンのエドゥアルドとセンターバックのファーストセットになりそうだ。大分から加入のMF島川俊郎も攻守のバランス感覚に優れ、指揮官の評価は高い。合宿中には得意のピアノと歌声を披露するなど、ムードメイカーとしても効果大だ。
金明輝監督は4枠となった残留ラインを気にすることなく、一桁順位を最低ラインに、ACL出場権を目標としてチーム作りを進める。19歳のMF松岡大起が副キャプテンを務めるなど非常に若いチームだが、それだけにシーズン通しての伸びしろも期待できる。
指揮官も言及するように、湘南ベルマーレとの開幕戦を皮切りとした最初の5試合でどれだけ勝利できるか がバロメーターになりそう。未知数なのがアフリカ人のドゥンガとオフォエドゥ。個人能力の高さに間違いはないものの、指揮官も現状は映像で確認したにすぎない。当たれば鳥栖の戦力を大きく上方修正させる可能性もある。