なぜ「4-3-3」で戦い切らなかったのか?…川崎戦で見えた「ガンバが優勝するためにやるべき」1つのこと
ゼロックス杯のガンバ大阪は、川崎フロンターレ相手に、今シーズンのキャンプから取り入れた4-3-3の新システムで挑んだ。
前半の序盤はアグレッシブに前に出て、高い位置でボールを奪って攻撃に転じていたが、10分過ぎぐらいから川崎が落ち着き、ボールを保持されると、全員が自陣に押し込まれ、4-5-1になって守備に追われた。川崎の両サイドの攻撃を封じ込めることができず、三笘薫ひとりに3分間で2失点を喫した。
その後もチャンスを再三作られたが、体を張った守備で耐え凌ぎ、なんとかこの点差でギリギリ踏みとどまっている状態だった。
宮本恒靖監督は、「全体が下がってしまった。相手の背後への押し込みもあったので、(うしろが)重たくなった。1失点後、2失点目まで時間が短く、気落ちした」と語ったが、この状態が後半も続くと、昨年アウェイで5-0で大敗した時のように失点を重ねていく危険性があった。
後半にバランスを整えて反撃に転じると、流れは変わった。
新生ガンバは「タフなチーム」に見えたが……
「真ん中の3枚の距離が良くなると、連動して動けるようになった」
井手口陽介がそう語ったように、同サイドに選手が偏らず、バランスよく、距離を整えていくと、相手の動きが落ちたのも相まって一気に流れがガンバに傾いた。アンカーの山本悠樹と井手口、倉田秋のトライアングルの機能性が増したのだ。
矢島慎也が1点を返すと勢いがつき、川崎がシミッチ、脇坂泰斗と交代したばかりの塚川孝輝、橘田健人がゲームに入り込めていない中、攻勢を強め、その7分後、パトリックのPKで同点に追いついた。
宮本監督は、同点に追いついた後、ここが勝負どころと読み、チアゴ・アウベス、レアンドロ・ペレイラの新外国人選手を2人同時に投入した。たたみ込んで試合をひっくり返すポジティブな起用だが、同時にシステムを4-4-2に変更した。天皇杯の決勝では同じ川崎相手に3バックでスタートし、何もできないまま後半に失点し、4-4-2に戻して反撃に転じることができた。
この流れを見ていると、今年のガンバはタフなチームになっていることが見て取れた。
宮本監督も「選手たちは一生懸命やってくれた。内容は今年の始動日から取り組んできたものが出せた」と、一定の手応えを感じたようだった。
ただ今年を新システムで戦うつもりなら、まずは最後まで押し通すところを見たかった。“ガンバのスタイル”を確立するためにも、もう少し「4-3-3」がどのように作用するのかを見ておくべきだったと思うからだ。
当初の狙いから外れ「堅守速攻型」になった昨シーズン
昨年のシーズン当初、ガンバは前線からの猛烈なプレッシングを軸とした素早い攻撃とポゼッションを両立するサッカーを確立しようとしていた。開幕戦の横浜F・マリノス戦ではアグレッシブな守備から攻撃に転じる戦術で2019年優勝チームの攻撃をしのぎ、スタイルの追求とともに、対戦相手によって宮本監督が戦術を柔軟に変えていく采配に期待が膨らんだ。コロナ禍による中断明けも3試合目から4連勝するなどいい状態だった。
ところが、8月に入ると結果を出すことが難しくなった。9月になり、柏レイソル戦、湘南ベルマーレ戦に連敗すると、9月19日の北海道コンサドーレ札幌戦には4-4-2に変更。そこから守備に安定感を取り戻し、12戦負けなしの快進撃を続けたものの、内容とはいうと順位争いをする中で守りの意識が強くなりすぎて、攻撃的な4-4-2というよりも後ろに重きを置いた戦い方だった。
パトリックの個に頼って1点を取り、守り切る。シーズン前の狙いとは異なる堅守速攻型に落ち着き、20勝の内、1点差での勝利は16試合に及んだ。最終的にガンバは2位を死守したが、結果を得るためにスタイルを棚上げした感は否めなかった。
宮本監督は、自分たちのスタイルをどうすべきか、ずいぶん考えたことだろう。今年、導入した4-3-3は、その答えだったのである。
実は、そのシステムを完璧に機能させ、強さを見せたのが川崎Fだった。
川崎もマリノスも「耐える時間」を乗り越えている
昨シーズン、川崎には公式戦3戦3敗で、アウェイでは5失点を喫し、天皇杯決勝では「何もかも違う」と倉田を消沈させるほど圧倒的な力の差を見せつけられた。宮本監督が攻撃的なガンバのDNAを引き継ぐために、4-3-3にトライする価値を見出したのは不思議なことではない。
ただ、スタイルの確立には我慢と時間が要る。だからこそ、今回の苦しい状況で戦い切れば、いろんな不安が払拭されて選手たちも新シーズンに向けて自信や課題を得ることができたはず。
今の川崎があるのも、風間八宏が5年指揮を執り、その土台に鬼木達監督が守備のアレンジをして花を咲かせたから。クラブのスタイルが完成した中、昨年は新たに4-3ー3を採用し、それが見事にハマってダントツの優勝を果たしている。マリノスも、18年にスタイルの確立に苦しみながら1年かけてチーム作りを進め、翌19年リーグ戦を制した。
川崎もマリノスもスタイルを確立し、優勝に結びつけるために、耐える時間を乗り越えてきているのだ。
ブレずにやり続けた先に“ガンバのスタイル”がある
欧州チャンピオンズリーグで優勝したバイエルンのように、芯となるスタイルを持ちつつ、柔軟性と多様性を兼ね備えるのが今のトレンドだ。
ガンバは、4-3-3をベースに、スタイルを確立していくことが求められている。
宮本監督が4年目を迎える今シーズン、この日、川崎に敗れはしたが、戦い方には昨年にはない成長が見えた。
ブレずにやり続ける勇気の先に、「ガンバのスタイルとは?」の答えが明確になるはずだ。