【橋本英郎】独断と偏見の“J歴代パサー”ベスト10! ヤット、俊さん、ミツオ、憲剛を抑えての第1位は──

最終ラインから前線までを貫くスルーパスを何度も通された。

今回のコラムは、僕がかつて共に戦った、あるいは対戦するなかで感じてきた名パサー10選をお届けしたいと思います。

編集部からの要請でランキング形式にしてみましたので、10位からのカウントダウンで発表していきます。

まず10位は、元ガンバ大阪の【マルセリーニョ・カリオカ】選手です。

このブラジル人MFのなにが凄いって、コーナーキックをアウトサイドキックで上げてしまうんです。なぜできたのか。足首の柔らかさと足の小ささが影響していたと思います。パスの弾道もいろいろ持ってて、優しさを感じるボールでした。またFKはドライブ回転をかける球種も蹴ってましたし、本当に凄かったです。ただ、実際のJリーグでは思うような結果に繋がるプレーが少なかったので10位にしました。

9位は横浜F・マリノスの【扇原貴宏】選手です。

彼のロングキックの弾道、精度は、いままでで見た選手のなかで抜けていました。低い弾道で速さもあり、ボランチから前線につけるインサイドパスも強いグラウンダーでとても綺麗でした。

続いて8位にセレクトしたのは、サンフレッチェ広島の【青山敏弘】選手。

扇原選手の場合は実際にセレッソ大阪でチームメイトとして感じた巧さでしたが、青山選手とは一緒にプレーはしたことがありません。対戦相手として向き合うなかで、同じくロングキックの精度の高さに舌を巻かされました。また、インサイドパスのミート技術、そしてそれを公式戦の緊張感があるなかで悠々とこなす凄さ。対戦しながらいつも、「いいキックしてるなぁ」と感じながら見ていました。

さて次は7位。意外かもしれませんが、かつてジェフ千葉や広島で活躍した【イリヤン・ストヤノフ】選手にしました。

2004年から05年にかけて対戦した際、彼はジェフでリベロのように振る舞って、最終ラインから前線までを貫くスルーパスを何度も通されました。そのなかでも、鮮明に覚えているのが05年のホーム最終戦で通されたスルーパスからの失点です。浮かせたパスではなく、グラウンダーで最終ラインから前線まで通してしまう度肝を抜くパスでした。

俊さんはスルーパスの力加減が抜群。憲剛のリズムは僕には出せない。

2020年シーズンいっぱいで現役を退いた元鹿島アントラーズのMF、【野沢拓也】選手が6位です。

彼とはヴィッセル神戸で一緒にプレーしました。振り返っても、バラエティーに富んだスルーパスを持っていたなぁとあらためて思い起こします。(世代別の)日本代表合宿で一度一緒になったとき、「こんなパスを出せる選手がいたんだ!」って驚いたのをいまでも覚えています。

極め付けは、FKですね。彼のFKを後ろから見ると本当に気持ちが良い。縦回転のキック、バナナシュートのようなカーブ。FKでも複数の球種を持っている選手はあまり見たことがなかったので新鮮でした。

5位は横浜FCでプレーしている【中村俊輔】選手です。

なにを置いても、キックのインパクトがめちゃくちゃ巧い! 力が入ってるようには見えなくてもボールにしっかり伝わっているのでグイッと伸びてくる。代表の時にずっと目で追ってましたが、やり方は盗めませんでした。

あとはみなさんがご存知のように、スルーパスの力加減が抜群なんです。足下に強いボールが欲しそうな時は強いボール、走りながら受ける難しい状況では柔らかいパスと、受け手のことを考えてくれているんだなと実感しました。

いよいよ4位です。ずばり、元川崎フロンターレの【中村憲剛】選手!

寂しいかな、もう“元”を付けないといけなくなりましたね。

彼の特徴はFK、コーナーキックと、合わせる選手と阿吽の呼吸を持っているところです。また試合中ではその感覚を大事にしながら、得点に直結するダイレクトパスをバンバン出していました。止めてからパスを出すまでの時間が異常に短い。味方の位置の確認作業がすでに終わっているんでしょうね。僕では出せないリズムで、スルーパスを浮かせたりグラウンダーでも出していました。

次からはトップ3です。まだ出てきていない選手、イメージしていますか? 僕の現年齢は41歳なので、少しばかり「おっさんJリーガー」の選出が多くなっていますが、みんないまでも十分に通用していると、みなさんも思っていただけているのではないでしょうか。

「言葉ではなく、パスで伝える」のがヤットの凄さ。

では、3位! 元鹿島アントラーズの【小笠原満男】選手です。

中村憲剛選手、中村俊輔選手を抑えてこの順位なのか!? 同級生だから!

ってわけではないのですが、自分が高校3年生の時に初めてU-18代表候補合宿で一緒にプレーしました。実はそのときまで彼の存在は知らなかったんです。だからですかね、あのとき感じた衝撃は凄まじかった。23年経ったいまでも鮮明です。

それからJリーグで何度も対戦しました。トップ下で活躍する彼を抑えようと果敢にプレッシャーを掛けましたが、自分ではこれならスルーパスを出せないだろうと思ったアプローチやプレッシャーのなかでも、30メートルほどのロングスルーパスを出されて失点してしまいました。

その瞬間、見えている世界が違うんだな、俺のプレッシャーはプレッシャーにはなっていないんだな、もっとプレッシャーを掛けられる選手にならないと生き残っていけない! って試合をしながら痛感したのを思い出します。

2位は、今季もジュビロ磐田に籍を置く【遠藤保仁】選手です。

正直、彼ほどのインサイドパス、アウトサイドのキック、ロングキックとすべてを丁寧に蹴れる選手を僕は知りません。ガンバではいつもコンビを組みましたが、力が入ってなくてもボールがしっかり返ってくる。中村俊輔選手に感じたのと同じ感覚ですよね。間近でずっと見ていましたが、真似できませんでした。

言わずもがな、すべてのパスは意図を持って出します。例えばあえて足下ではなく、前方に出して味方選手の身体の向きを変えてみたり。味方選手が気付いてないことを、パス1本で気づかせてしまうんです。言葉ではなく、パスで伝える。こんな選手はいません。

お待たせしました、ついに1位の発表です。もうお察しの通りでしょうか。贔屓目ですね、これは。元ガンバで、現ティアモ枚方の【二川孝広】選手です。

僕よりひとつ年下の彼とは、ユース時代からずっと一緒にプレーしてきました。歴代の名だたるガンバの外国籍ストライカーから、「フタがいれば得点王になれる!」と言われ続けた男です。

スルーパスに特化した選手ですね。自分自身と彼を比べていつも感じていた劣等感。それはスルーパスを出す際、2Dで見ているのか、3Dで見ているのかの絶対的な違いにあります。つまり僕のパスは、選手と選手の間を通すスルーパスになります。それが二川選手になると、平面だけでなく高さも加えながらスルーパスを出します。その選択肢のどちらでも通せる場合は、受け手が欲しているパスの種類を選択します。

自分がどれだけいい状態でなくても、受け手が要求したタイミングでパスを出せる。僕なら、出せないから見えていたとしても諦めてしまいます。そこを彼は挑戦し、通し続けていたからこそ凄いのです。

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