【明神智和】ボクはこうしてプロになったvol.1|プロサッカー選手が必ず持っているモノとは?

やはり「プロって素晴らしい」

ガンバ大阪などで名高い活躍をし、ワールドカップにも出場した元日本代表の明神智和氏。現在はガンバ大阪ユースコーチとして指導者の立場にある同氏が、プロを目指す子どもたちに伝えたいこととは――。

第1弾は、プロを目指す心構えや目標設定、そして実際に行なっていたトレーニングについて語ってもらった。

――◆――◆――

私がプロ選手を経験したからこそ伝えられることというのは、やはり「プロって素晴らしいものだよ」ということです。

自分の大好きなサッカーで、多くの人に喜んでもらえる。もちろんプロは仕事でもあるので、それでお金も稼げる。そういう仕事はものすごく素晴らしいと思うのです。

もちろん大変な部分もある。いろんなプレッシャーがあったり、それに打ち勝つ強さが必要だったり、子どもたちにはそんな両面を伝えたいと考えています。

プロを目指すためには、まず、大前提として目標を立てなければなりません。目標の立て方には、大きく2つのパターンがあると思います。

1つはいつまでにプロになると決め、そこから逆算していく方法です。例えば18歳でプロになる。20歳でJ1でレギュラーで出る。22、3歳で海外に行くとか、そういう目標設計をして、そこから逆算して今何をやらないといけないかを考えるキャリア設計です。

もう1つは今出来ることを積み上げていって、選択肢を増やす、段階的にステップアップしていく方法です。 私自身は後者で、プロになりたいとか、J1で試合に出たいという想いは中学生くらいからありましたけど、そこから逆算したというよりも、今自分が積み上げるものを増やして、徐々にプロへの道が見えてきたという部分の方が大きかったです。

もちろんどちらの方が良いということではありません。重要なのは、最終的な目標をしっかりと持つこと。今何を積み上げないといけないかという、「今」の部分を大事にすることです。

明神氏が小さい頃によくやっていたトレーニングは…

「今」行なえることは、やはり日々のトレーニングです。

僕が小さい頃によくやっていたのは壁当てでした。壁の後ろが溝になっていて、ミスをしたら取りに行かなければいけなかったので、ちゃんとボールが帰って来るには強さも必要だとか、いろいろと考えながらやっていましたね。

そういう技術というのはある程度個人でも伸ばせる部分。子どもたちにとっては、キックひとつとっても、100回蹴るよりも1000回蹴る方が自分の力にはなります。さらにそこで“考える”ことで上達のスピードはさらに上がります。

1000回蹴るのにしても、何も考えずに回数をこなすのと、今のキックはどこに当たったからこういうボールが蹴れたとか、どういう軸足をついたからこういうボールが蹴れたとか、考えて1000回蹴るのでは大きな差が生まれます。

徐々に技術がついてくると、練習では上手くいくのに、試合ではなかなか上手くいかないという壁にもぶつかります。そこでもその原因を「考える」ことが必要です。

それが緊張からなのであれば、緊張しないための方法を考えたり、緊張してもプレーに影響しない方法を考えたり。相手のプレッシャーの厳しさが原因ならば、練習の段階からそのプレッシャーを意識して取り組めるかどうか。普段は練習のための練習になっていることが多いと思うので、何故上手く行かないかと考えることが大事になりますね。

その「考える」もととなるのが「見る」ことです。状況を判断するためには、そのもとになる情報がなければ正しい判断が出来ません。サッカーは対戦相手がいるスポーツで、相手を「見る」というのは非常に大事で、また難しいということを私自身、指導者になって再認識しました。

「見る」ためには、やはり普段から「見る」トレーニングが必要です。練習から相手がどこにいて、何をしようとしているかを見て、自分の目の前にいる相手が次に何をしようとしているか、そんなところまで見ることができたら一番良いですね。

練習以外でも「見る」「考える」はできます。試合観戦などは非常に役に立ちます。

FWの選手ならFWの選手というように、自分と同じポジションの選手をずっと見るのも面白いと思います。試合中継ではボールと関係の無い部分がなかなか映らなかったりもするので、そういう意味では実際の試合を観るということのメリットは大きいでしょう。

贅沢な見方かもしれませんが、90分にわたって自分の好きな選手をただただ追い続ける。ボールのないところではどういう動きをしているのかとか、そういう見方ができると違った発見もいっぱいあると思います。

コロナ禍では入場制限もあって観客が少ない。そういうなかでトップチームの試合を観ると、選手たちがそれぞれのポジションで実際に指示を出しているのがよく聞こえるので、さらに発見もあると思います。

「お前ら本当にサッカー好きか?」

僕が小さいころは、簡単にプロの試合が見られず、今ほど気軽に映像でサッカーを見られる時代でもなかったのですが、ちょうど90年のワールドカップくらいからビデオを撮って見られる時代になったので、ワールドカップのたびに見られるだけ見ましたね。良いプレーを何度も巻き戻して見たり、同じポジションの選手のことを追い続けたりしていました。

私が中学2年生くらいの頃は、ディフェンスをやっていたので、ワールドカップに出ているような同じポジションのスター選手を追いかけました。当時はセリエAのミランが強くて、トヨタカップが唯一といって良いほど、スター選手の試合が観られる機会でもあったので、本当に何度も何度も見直しました。

フランコ・バレージやオランダトリオのフランク・ライカールトルート・フリット、マルコ・ファン・バステンなどのプレーを見て。それを後日練習の時に、ここは右足で跨いでとか、ボールを右に動かしてとか、何度も真似ました。

上手く行けばうれしいですし、上手くいかなかったらもう一回家に帰ってビデオを見て、何が違うのかな?と、研究とは言い過ぎですが、何回もビデオを繰り返して。私にとっては、そんなことが「見る」「考える」の練習にもなりました。

好きな選手に憧れて真似ることで、プレーの発想を知って、出来る事が増えていく楽しさがあって、身体に染みつくまで練習すると、試合中に咄嗟に出せたり、そうやって選択肢が増え、成功体験を積み上げることで、さらにサッカーが楽しくなる。

近年ではサッカー環境も良くなり、いろんなチームで専門のコーチがいて、練習も週5回もあったり、目標を決めさせるチームも多く、ノートに気づいたことを書かせて自分で「考える」トレーニングまでやるところも多いと思います。そんな方法論はいろんなところで教えてもらえると思います。

その一方で、練習が練習のためのものになっていたり、与えられたトレーニングをこなすだけになったりしては勿体ない。いろんな道筋や方法以上に、私が必要だと思っているのは、まず勝ちたいかどうか。負けたくない、勝ちたいという強い意思は、「上手くなりたい」ということと同義のようなところがあると思います。

ちょっと苦しい練習を乗り越えられるか、ミニゲームや試合でも、やはり負けることが嫌い、勝つことが好きというのは、プロになった選手が全員持っているモノ。メンタルの部分に関しては、そこがなければプロになるのは厳しいと思います。

もう一つ絶対に必要なことはサッカーが好きかどうかです。教える立場に立って純粋に今一番思うことは、「お前ら本当にサッカー好きか?」ということですね。

もちろんサッカーをやっている子どもたち、とくにプロを目指そうという人は大きく言えばみんなサッカーが好きなんだと思います。ただ、情報が多すぎて、サッカーを頭だけで考えがちです。

「考えろ」と言っておきながら矛盾していることかもしれませんが、目の前にボールがあったら蹴ってしまう。二人でいたら蹴り合う。それくらい純粋にサッカーが好きというところ、そこの情熱というか、なんというか。今年指導者を始めて、自分たちの時代と比べるのも変ですけど、情熱というかパッションというか、そういう部分が少し自分としては物足りなさも感じます。時代なのかな……。

それでも、内から湧き出るものというのは、絶対に必要ですね。困難なことに絶対にぶち当たるので、その時にめげずにそこに向かっていける力。どうにか上手くなりたいとか、なんとか勝ちたいとか、その根底にあるのが、サッカーが好きという感情だと思います。

コロナ禍のなか、難しい状況が続きます。もちろんサッカーが好きでボールを蹴るのが一番ですが、それが出来ない時でも「見る」こと「考える」ことはできると思います。テレビや配信映像からでも刺激を得られるはずで、その刺激をどう自分に置き換えられるか。受けた刺激から、自分にトライできることを見つけられるか。そんなことが出来れば成長のスピードは加速していくのではないでしょうか。

【著者プロフィール】

明神智和(みょうじん・ともかず)/1978年1月24日、兵庫県出身。シドニー五輪や日韓W杯でも活躍したMF。黄金の中盤を形成したG大阪では2014年の国内3冠をはじめ数々のタイトル獲得に貢献。現在はガンバ大阪ユースコーチとして活躍中。

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