【橋本英郎】天皇杯決勝の明暗を分けた3つのポイント。ガンバは“挑戦者”になり切れなかった──
3バックを採用。三笘のカットインに対してCBとボランチが…
あけましておめでとうございます。
昨年はこのコラムを読んでいただきありがとうございました。本年も正月三が日から書かせてもらおうと思います。元旦はサッカーのシーズン終了の試合であり、一年の初めの試合。今回は天皇杯決勝のインプレッションで書いてみました。
J1で独走優勝を飾った川崎フロンターレに対して、ガンバ大阪が2021年最初のゲームで勝利を挙げて風向きを変えられるか。ゲームのポイントとなったのは3つの視点です。
・川崎の攻撃力をガンバの守備力が上回るか
・ガンバがチャレンジャーになれるか
・選手交代、時間帯、試合の進め方はどうか
です。テーマに沿って考察していきたいと思います。
【ポイント1:川崎の攻撃力をガンバの守備力が上回るか】
川崎のあの攻撃をいかに食い止めるか。Jリーグでも各チームが戦術を練ってさまざまな方法を模索しました。が、いずれもほとんど阻止することができませんでした。
今季のガンバの躍進を支えたのはまさにディフェンス。川崎がJ1優勝を決めた試合では大敗(0-5)を喫してしまいましたが、他の試合での守備は実に安定しており、天皇杯では彼らがどのように守備組織を組むのかに注目していました。
3バックを採用し、中央からの侵入をシャットアウトする、三苫薫選手のサイドからのドリブルに対してセンターバック、ボランチのサポートで対処する。という方法を採ったと僕は見ました。
試合を通じて、守備ブロックを組んだ際は意図する守備が機能していたように感じます。ただ、中盤のゾーンを突破された際の川崎の湧き上がるような攻撃に対して、人数的に同数になってしまう場面が多々ありました。55分に奪われた決勝点のシーンでは、川崎の攻撃に幅、深さ、フリーランニングなど選択肢が十分にあったように思います。
中盤のボールの奪い合いでも川崎はほぼ3人の選手が絡んでおり、ガンバのほうが分厚く守るように対応していながらも、局面では数的不利を作られてしまっていた。ガンバに考えさせる時間を与えない攻撃の鋭さが、川崎の得点を生み出したと考えています。
プライドを捨て、果敢にチャレンジしていく姿勢があっただろうか
【ポイント2:ガンバがチャレンジャーになれるか】
僕はこの点をかなり重要視していました。
ガンバは過去に天皇杯を4度制しています。その点で言えば優勝経験者であり、チャレンジャーではありません。ただ今季の群を抜いた強さを誇る川崎に対して、プライドを捨て、果敢にチャレンジしていく姿勢があっただろうか──。
守備に追われる時間帯でも頑張り続けられる選手がいれば、交わされたり、ボールを獲られたあとの守備への切り替えが緩慢で、頑張り続けられない選手もいました。完全なるチャレンジャーに、チームとしてなり切れていない、そのように感じます。
川崎の攻撃を食い止めるためには、ボールを奪われたあとの切り替えで、良い選択肢を与えてはいけません。局面を抜けられたら、いったんファウルをしてでも阻んでしまう(相手を傷つける、削るという意味ではありません)。
カウンターの鋭さがあるなかで、そのカウンターを未然に防ぐ必要性がありました。
【ポイント3:選手交代、時間帯、試合の進め方はどうか】
ゲームプランの作り方になります。
鬼木達監督は交代枠をかならず使う、という記事を目にしました。行き詰まった展開の場合は、攻撃のスピード感を変える。勝っているときには体力的にしんどい選手、崩されはじめている選手のところをリカバリーする。といったように、常日頃から意図の伝わりやすい交代が多いなと感じていました。
実際、元日の決勝でも得点後の交代枠の使い方は明確でした。しっかり疲れの見えた選手、狙われている選手、とどめを刺しにいく選手とハッキリしていました。
宮本恒靖監督にも当然、ゲームプランがあったと思います。ただ、失点してしまったあとのプランよりも、同点で拮抗した状況で勝利に持ち込むプランに重きを置いていたように感じました。
結果的には失点してしまってからのプラン、ある程度は捨て身で点を取りにいくというところで、すごく迫力のある攻撃が展開されて、同点に追いつく可能性もを感じました。このプランを自チームの力を信じて、同点の段階で躍動感ある戦いを先に仕掛けられていたら、展開も変わっていたのではないかと思いました。
タイトル獲得に繋がる答。個人的にとても勉強になる決勝だった
このあたりは、間違いなく結果論です。僕は試合を振り返って書いているので、やはり結果ありきの話になってしまいます。たらればはスポーツの世界ではご法度ですが、こうしておけば良かったという決断を、その瞬間に下せるかどうか。それがタイトル獲得に繋がる答なのかもしれない。個人的にとても勉強になる元日決戦となりました。
かつて天皇杯で優勝した際は、ここまで考えることはありませんでした。年齢を重ねていろいろな経験をしてきたなかで、この考えに至っています。
2021年シーズンは、「たられば」を少しでも無くしたい、そんな一年にしたいと、あらためてつくづく感じさせられました。
PROFILE
はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。2019年からJFLのFC今治に籍を置き、見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。現在はJリーガーとして奮闘する傍ら、サッカースクールの主宰やヨガチャリティー開催など幅広く活動中だ。Jリーグ通算/463試合・21得点(うちJ1は339試合・19得点/2021年1月3日現在)。173センチ・68キロ。血液型O型。